潜む影
12月26日6:00
昨晩はぐっすり眠れた。
ここ最近あの事を考えてしまってたから寝つかなかったが何故か気持ちよく眠れた。
まるで、誰かに悩みを打ち明けたから軽くなっただけなのかもしれない。
で、いま俺をみっともない格好で下敷きにしている心が読める否、心が読めてしまう気持ちよく寝ている女狐にそっと手をだそうとしているところだ。
「クー…スー」
彼女の鼻息がよく聞こえる…
(よし...いける!!)
フリーの右手を彼女の...
(尻か?それとも胸に?
ま、迷うな…)
「グヘ!!」
考えてる間に腹にエルボーを決められた…
6:50
ある程度の支度を終えて、朝食をとっている。
母がいないのでトーストにバターを塗ると言うシンプルな朝食だ。
「お主。よく朝から馬鹿な真似を考えられるの。」
「♂だからだよ」
「世界中の男性に謝るべきじゃ。」
「すみませんでした。」
「ワシに言っても、ワシは許さぬぞよ。」
(お前は男じゃねえだろ)
「ただいまー」
玄関口から母の声が響いた。
母が帰ってきてしまった。
「ちょ、ヤバイヤバイ!!」
「お、落ち着くのじゃ。」
リビングのドアから両手に買い物袋を持った母が入ってきた。
「ただいまー」
「お、おかえりなさい。」
母さんは重たい袋をキッチンに運びながら、昇の挙動を不審に思って聞いてきた。
「どうしてそんなに焦ってるの?」
「ち、遅刻しそうだから急いでるんだよ。」
「遅刻する時間じゃないじゃない?」
学校に間に合う時間より1時間以上も余裕がある。
「今日は日直なんだよ。」
「あらそう、それにしてもそこにいる犬可愛いわね~さっきから動かないけど生きているのかしら?」
(い、犬?あ!そうかユキエのことか。)
「犬?ああ、そこに座ってるの?昨日捨てられてたからつい....」
そう言うと狐の口からは人間の言葉が。
「誰が捨てられ」
「ああああああああ!!そうだ、この犬にトイレをしつけなきゃ~」
俺は急いで犬(狐)の首もとを掴んで持ち上げた。
「突然どうしたのよ…それにしてもさっきの声誰のかしら?」
「声?俺は聞こえなかったよ。き、気のせいじゃない?」
「仕事で疲れたのかしら…にしてもなんでこの犬こんな豪華な着物の上に座っているのかしら。」
人間から戻る際着ていたものはそのまま残るそんま不便な変身のせいで、怪しまれた。
「え、この犬この着物が好きなんだよ!
捨てられてた時も一緒にあったからさ。
え?なんだって?トイレ?分かったよ。
トイレに連れてったやるから落ち着けって。」
ユキエを掴んでトイレに向かった。
「あら、けど昇?学校は?」
「すぐに行くよ。」
「ワン」
(俺の意図を読み取ってくれたのはわかるけど、今更真似るなよ。)
トイレに篭もりユキエを閉じた便器の蓋の上に置いた。
「ふう…」
「お主の母上はちょっとアレすぎないかや?」
「そうなんだよ…」
「天然ってやつじゃな」
「天然だ…」
見た目からして犬じゃないのに、ここまで騙されるとは...
天然なのに看護師の仕事をしていることは伏せておきたいものだ。
「しかし、誇り高きワシの事を野蛮な犬と間違うとはいい度胸しておるな。」
(「ワン」って吠えたくせに何が誇り高きだ。)
「あ、あれはお主の母上を確実に騙すためじゃ」
トントン
(ヤバイ、母だ。黙ってくれ。)
「ワンワン」
(黙るだけでいいって言ったろ…)
「クゥーン」
(あくまで俺を困らせるつもりか。)
「終ったー?」
「う、うん。そろそろ。」
「ワン」
☆
7:15
「ワンワン」
「じゃあ、行ってきます。」
「ワン」
「あら、そのワンちゃん連れて行っちゃうの?」
「クゥーン」
「飼ってくれる人を探さなくちゃ行けないからさ。」
「ワンワンワン」
会話に合わせてユキエは犬の真似をする。
「このまま家で飼っちゃってもいいのよ…」
「クゥーン」
「できればこれ以上は負担をかけさせたくないしさ。」
「クゥーン」
ただでさえ母子家庭で収入源も少ない上に、家に誰かがいる時間が少ないから、もしも本当に捨てられた動物を見つけたらこう言っただろう,
「お金とかは心配しなくていいのよ?」
「ワンワンワン」
「うん、けどさ...あ。行かなくちゃ。今度こそ行ってきます。」
「クゥーン…ワンワン」
「いってらっしゃい…」
「ワン…」
(あぁー!うっとおしい!!)
家を出て数歩歩いた所で話しかけた。
「おい、お前テンション高すぎやしないか?。」
「なにがじゃ?」
肩に掛けたエナメルから顔だけ出した狐が返事をした。
(この光景は愛らしいんだろうな。きっと。)
「とぼけるなよ。会話中に沢山吠えたり唸ったり。それに、会話に合ったように使い分けやがって」
「暇じゃったからの。それにしても、お主こそよくあんな嘘つけたなものじゃなの。」
(嘘か...)
「いつものことじゃとか思ってたじゃろ?」
「確かにな」
(いま悩んでることだからな…)
「けどそれだけじゃないんだな…」
「どうしてじゃ?」
「小学校の頃にゆめと一緒に捨て犬を拾ってきた事があって、その時も母は飼うことに賛成してくれたんだけど...」
「生きておった父上に反対されて、飼い主探しをする事になったと。
なるほどの。」
「...ま、まぁ今こんなこと話す必要ないだろ。」
(何だろう父の事を思い出そうとすると気分悪い。。。)
「さっさと探し物しようぜ。
で、早く出たはいいものの、どこを探せばいいんだ?」
「そうじゃな...お主は学校があるわけじゃから、学校付近を散策してみるかの?」
「さっきもそれくらい考慮してくれると良かったんだけどなー。」
「面白かったから良いのじゃ。」
☆
7:35
学校の建物が見える所まで来た。
「この辺りを廻ってみるぞ。」
「分かった。」
それから登校ついでに少し遠回りしながら探したが、見つかりそうになかった。
☆
16:35
「青野。」
「何よ、変態昇。」
帰ろうとする青野に声をかけた。
「ふふふ、俺は変態だけど悪質な変態じゃなく、健全な変態だ!」
かっこよさげなポーズを決めてそう言うが、青野ツッコミはなかった。
「あっそう。で何なのよ。」
「つっこみ役はどこに?」
「白地君のこと?」
「そうそう。ゆめのこと。」
「今日は学校に来てないじゃない…」
「え?あ、そう言えば見てなかったな…」
「いつも一緒にいるのに気づかないなんて珍しいわね?」
(まぁ、能力やら狐やらでいろいろ考えさせられてるしな〜。
なー、ユキエー)
自分の心の声が聞こえてる前提で皮肉っぽく言ってみた。
「そう言う日もあるさ。
ところでさ、なんで青野はゆめのことは名前で呼ばないんだ?」
「え、だ、だって恥ずかしい...じゃない...」
青野hsゆめのことが好きだってことは去年から知っていること、けど分かっていながらもこうやっていじるのが楽しかった。
「へー。もう二年も一緒のクラスで比較的多く遊ぶのに?」
「だ、だから何よ。」
「俺のことはあだ名で呼んでくれるのに?」
あだ名、それは『変態昇』だ。
「あんたは変態を絶対に否定する気ないのね。そして、それを自分の愛称に認定しちゃうのね…」
「当たり前だ。俺は本能で生きており、その性格俺の大事なアイデンティティだからな」
「はいはい。じゃあもう用がないなら帰るわ。」
「そうだな、お前だけと遊んでも楽しくなさそうだしな。それにお前、夢がいないから元気ないみたいだしな。」
「元気がないのは疲れているだけよ!!
わ、私だってあんただけと遊んでも楽しくないわ。」
「へー。やっぱゆめとなら楽しいんだ~」
「な、なによ!?白地くんとは関係ないでしょ!
って、何ニヤニヤしてるのよ!?」
「ヘー。ふーん。じゃあ帰るわ。」
「あ、待って。」
「ん?何だ?ゆめには秘密にしといてあげるよ?」
「そういうことじゃなくて、ちょっと気になることがあるの。」
「何だよ…」
「あんた何か隠し事してない?」
「.....」
不意に変な質問をされ怯んでしまった。
(え!?まさか。)
「何だよ突然。」
「いや朝からあんたから妙に獣の匂いがするのよ。」
(ユキエのことか!?)
「そ、そうか。そんな匂いするか?」
「うん...気のせいかしら…
まぁいいわ。呼び止めてごめんね。 」
「あ、ああ。じゃあな。」
ちょっと早歩きで下駄箱まで向かった。
(どうしてだ…昨晩に今朝、俺はしっかりからだ洗って、それにユキエにも二回入ってもらって、匂わないようにして、周りに気づかれないと思ったんだが…)
「あの女、怪しいの。」
「こらバカ!まだ出てくるな。」
「7時間も荷物いれに閉じ込めておいて、一回もそとの空気も吸うなと?」
「ああ、悪かった、昼休みに一度連れ出せばよかったな…」
「お主、ワシを殺すきか?」
「まじ悪かったって。
で、青野が怪しいって?」
「そうじゃ、あのワシと並ぶような嗅覚といい心が上手く読み取れないのも怪しいのじゃ…」
「何?あいつと同じ嗅覚をもちながら自分が獣臭いって気づかないのか!?」
「自分の匂いなど自分で分かるわけないじゃろ。
アンモニア並に臭くなければの....」
「確かに...そうとう臭くないと何も感じないよな~
けどさ、心が読めなくてもあいつの頭の中丸見えじゃね?」
「いや、何かを隠しておる。」
「ゆめのことが好きってことじゃねえの?」
「違う違う、そんなの会話の流れでだれでもわかるじゃろ。けど、あやつの頭の中には周りの情報が大量に入ってきていて、情報の整理が出来ておらず、考えてることが全く読めないのじゃ...」
「.....」
(どういうこった?)
「まぁ、匂いからして今回の件とは関係無いしの。」
「そうだな、じゃあ探しにいくか?」
「うむ。その前にもうひとつ。」
「なんだよ」
下駄箱で上履きから靴に履き替えながら答えた。
「お主、ワシとの約束をほったらかして、ゆめという友達と遊ぶつもりじゃったろ?」
「っ!…
知らねえなー。」
(俺は知らない、そんなこと覚えていない…)
「心の中で自己暗示しても無駄じゃよ。」
「まぁ、こうして探してやるっていってるんだからさ。過ぎたことは気にするなよ」
「仕方がないの。」
学校の門を出た辺りでユキエに訪ねた。
「で、次はどの辺りを探す?」
「うむ…駅前辺りかの?」
「分かった。人が多いからあまりに目立たないようにしろよ?」
「けどその前に一度家に帰らせてくれ。」
「霧狐山にか?」
「お主の家じゃよ。」
「なんでだよ?」
「人間に化けるためじゃ。」
「このままでもいいじゃん?」
「こっちは息苦しいのじゃよ。」
「まぁ、いいけど。」
「可愛い娘とデートしてる気分になるじゃろ?」
「自分で可愛いとかいったら台無しだろ。
まぁ、ナイスプロポーションだし、俺的には好みだしな。」
「なんか照れるじゃろ!!」
(体しか誉めてないんだがな~)
バキバキ
「痛い痛い!間接技とかダメだって!痛い!
....ってあれ、お前人間になってる?」
「!?こっち見るでない!!」
一瞬で間接技から解放された。
「ワシを馬鹿にするからじゃ…」
「はいはい。周りに人がいなくてよかったなー」
「そうじゃな..」
「じゃあ、一旦家に帰るか♪」
「なぜそんな嬉しそうにするのじゃ?」
「見れたからさ…」
「後で覚えておれよ。」
☆
同時刻
「いたいたー!あの子だよ!英くん!」
「分かったからうるさい。」
「今回は逃がさないぞ!!」
「だからうるさいって。」
「で、英くん今の裸見たでしょ?」
「見てない…」
「今ごろ目隠し作ってつけても無駄だよー?」
「...」
「英くんったらエッチ~」
「やめろ!俺は隣にいたやつのような変態じゃねえ!」
「英くんのエッチ~」
「ググググ....」
「あ、早く追いかけないと見失っちゃうよ!」
「分かったよ…」
☆
17:05
「まさかだけどその着物でいくつもりか?」
「そうじゃよ?」
「目立つけど、まぁいいか…
けどさその耳と尻尾は?」
「大丈夫じゃ。」
「大丈夫って、お前じゃどうしようもできないんじゃないの?」
「できぬよ。
ちょっとワシと手を繋いでおくれ。」
「え、なんでだよ!?」
「いいから。」
半分人間もユキエに右手をとられ、彼女の左手と手を絡められた。
その数秒後に彼女は目をつぶり、さらに2、3秒したら頭に尖って生えてた耳と、ふわふわしている尻尾が体の中に入るように消えていった。
「え?どういうことだ…?」
「やはりのう。」
「どういうことなんだよ?」
「教えてほしいかや?」
「教えてくれ!」
「いやじゃ、さっきワシの裸をみた罰じゃ。」
「まだ引きずってるのかよ~」
「ワシとの約束を果たしたらついでに教えてやろう。」
(これ以上しつこく聞いても無駄だな… )
「分かったよ。」
「じゃあ早くいくぞ!!」
「なんでそんなに嬉しそうになんだよ…」
「後で分かる。」
握られた手を引っ張られて外へ連れ出された。




