『霧狐山』 ☆
12月25日7:45
「ゆ~め~~!!」
「...」
返事がない....
(けど、こんなんで諦めてたまるか。)
「おっはよ~!!」
机の上で横たわる小学生からの仲の夢渡の耳元で叫び続けた。
「....」
「メリクリー!!」
「...朝からうるせぇな....」
流石に起きたようだ。
(あれーおこなの?)
「ニュース見た!?」
「人の話を聞けよ!
ってか、そのあだ名で呼ぶのをやめてくれないか?」
・・・・・・・・
善良と何か、良い行いをすることだと誰もが思うけど、その裏では礼や自分への恩返しなどを期待していたらそれはただの偽善ではないか。
最近になってそう言うことを考えることが多くなってきて、もし自分がそういう場面に出会ったらきっと自分への利益を考えてしまうのだろうか。
そんなのは嫌だ。
けどどうしても期待してしまう。
それが周りに察しられて嫌われてしまうのが怖い....
だからと言って助けないのも善良ではない。
どうすればいいか分からない。
そしていつかそんな場面に出くわした自分を想像するのが怖かった。
それだけではない、こうやっていつもバカなやつのように振舞っているのも、誰かに相手してもらおうとしているだけなのかもしれない。
きっとそんな風に自分を客観的に見て、周りの目を気にしすぎているのだとろう。
☆
帰宅しようとするゆめに声をかけた。
「カラオケいこーぜー!!」
「おう。行くか。」
そして、二次元のような胸の女が仲間になって、やっと学校からかえるところだ。
ゆめと一緒に帰る途中だ。
「なぁ、昨夜さ〜いきなり辺りが眩しくならなかった?」
「なんだよいきなり....
なったけど。」
(ああ、俺だけじゃなかったんだな...)
「やっぱり?
けどよ...他の奴らはそんなことなかったって言ってたんだよな〜」
「ああ、ただの勘違いだろ。
まぁ、俺はそのおかげで事故ったからな。」
「事故?」
「ああ、丁度チャリに乗ってる最中でさ、バランス崩して電柱に突撃....」
「だから今朝から頭が痛そうにしてたのか。」
「よく俺が頭痛いってわかったな。」
「俺の観察眼はなんでも見抜く!!」
ツッコミを入れられるのを期待して、ぼけてみる。
「はいはい。
ってか、頭痛いって分かってるならそっとしておいてくれよ!!」
「おお、ツッコミはいりましたー」
「はぁ...やっぱり他の原因なんだろうな....」
そう呟いて、ゆめはこちらを鋭い目で見つめる。
「ん?何か言った?」
「いや、別に。」
(はぁ...冗談か...)
「そんなお前は何してたんだよ。」
「あ?俺?
ああ....
家でゲームやってたぜ。」
(なんで俺嘘ついてるんだ....)
「余裕だな、おい。」
「まぁな。お前ほど偏差値低くはないからな。」
...
ゲームなんかやってないし、家にもいなかった。
本当は自転車で20分くらいのところにある霧狐山という、それほど高くない山に行ってたのだ。
そこには森林があり、その中にいると何故か気持ちが穏やかになり、ごちゃごちゃになっている頭の中がまるで真っ白になって、気に悩むことがなくなる。
しかし、ゆめにそのことを言うと変な心配をかけてしまうのだろう...いや変なやつだと思われて避けられるのが怖いのかもしれない。
変な奴なのは今更なのかもしれないな....
交差点まできてゆめとはお別れだ。
「じゃあ、また後で」
「おう。」
☆
18:02
にしても、なんで最近になってこんなことをずっと悩むようになったんだろうか....
(取り敢えず今日も、霧狐山に登るか....)
うちは母子家庭で、母は遅くまで仕事で帰ってこないので、少しぐらい遅く帰ってもバレることはない。
家の壁に掛けられた時計を確認した。
「6時か、今日はのんびりできるな。」
自転車に乗り走り出した。
☆
18:37
山の麓に駐車場があるので、端側に自転車を止めた。
「やっぱ暗いな...しかも今日は霧がでてるし...」
実は最近、この霧狐山には妙な噂がある。
「霧の出る暗い夜の時間、狐が人に化けて人をおどかす。」というものらしい。
そしてまさにこの状況とマッチしている。
しかしまぁ、おどかされる程度なら怖くはない、それに所詮噂にすぎないので信用できない。
(ってか、狐が化けるって妖怪じゃねえんだから....まったく。)
足をゆっくり動かしてゆっくり登っていく。
周りを見ても、霧でよく見えないが木ばかりなのは確かだ...
「ふぅ....やっぱり落ち着くな...」
(ここは何かしらのパワースポットみたいなものか?)
木々で覆われた山道を霧で奥行きが見えないなか、まっすぐ前へ歩いて行く。
(何度か来たことがあるんだから、そう簡単には道に迷うはずが.....)
「あれ...ここは....」
いつも来ている道じゃないことに気づいた。
元に来た道を戻ろうとするが、歩いても歩いても、戻っているような感じではなく、同じところを何度もグルグル回っているみたいだ。
「ちょっ.....そうだ、携帯のGPSで。」
(山の中でGPSを使うなんて考えられなかった。
まぁ、山だから多分詳しい位置は確認できないだろうが、ある程度の位置が分かれば何とかなるんだが....
もしくは...)
「やっぱり圏外か....
ならとりあえず進むか。」
山道のせいか、普通に歩くのより辛く、まだ数分しか歩いてないはずなのに、まるで数時間歩いた気分だ。
「いったいどうなってるんだよ....」
焦った自分は周りを見渡した、そんな時、何処からか声が聞こえた。
「....そこのおぬし....」
「....へ?」
「だから、おぬしじゃって。」
その声は徐々に確かなものになっていった。
「え?誰かいるの!?」
そして、どこから聞こえるかわかる位まで大きな声になった。
「こっちじゃ。」
後ろを向いたら、霧の中から人影が見えてきた。
(まさか....)
「お、おばけ!?」
驚く自分に、その人影は冷静に尋ねてきた。
「幽霊に足が付いておるのか?」
「あ。」
確かに、シルエットには足がある。
単純に納得してしまいそうになるが、取り敢えず反論してしまった。
「幽霊には足がないという情報には根拠がない!!」
(なんで屁理屈をいってるんだよ...
って、なにこんな怪しいところで出会ったものと会話してるんだよ俺...)
「やはり、幽霊に足が付いていないというのは正確なものではないのかの...
人間の噂は当てにならぬのう。」
今度はその人影は一人で何かブツブツと呟いていた。
(あの影は確実に人間だよな...
そういえば噂に化け狐って....)
「お、お前まさか....」
「そう、わしがこの山、霧狐山の守り主。守り神みたいな存在...じゃ.....」
霧が少しずつ薄れて、影からしっかり色が見えてきた。
一人のグラマーな女性がが腰に手をあて、偉そうに構えていた。
「うあああ!!痴女だああ!!!!」
「あ。」
女は自分の体を確かめ、顔を赤らめ、静かに黙り込んだ。
「...」
「はぁ、はぁはぁ....」
アレから一生懸命離れようと、走ってしまった。
一度立ち止まって息を整え、頭のなかも整理することにした。
(いろんな意味で怖くて逃げ出してしまった...
普段エロティックなものを見ているからって、いざ真近で、この状況で女の裸体を見ると逆に怖いな...)
「そういえば、あの女この山の守り主とかなんとか言ってたな....
気のせい、そうだ気のせいだ。
俺はそんな女と出会ってない、出会ってない...」
そう、自分は霧による幻覚を見ていたのだと自分に言い聞かせていた。
それから、周りにだれもいないことを確認し、一度ため息をついて本心呟いた。
(あ~、けどもっとあの裸を拝んでおけば良かったかな~。
一生にない機会かもしれないし...)
「ならもう一度見たいか?」
再び何処からか同じ声がはっきり聞こえたが、位置が特定できなかった。
「ど、どこだ!?
ま、まさか上か!?」
そう叫んで空を眺めた、霧が濃くて月の光が微かに見える。
しかし、人の影らしきものは見当たらなかった。
「わしは『くノ一』などではないぞ。」
もう一度声が聞こえる方向を向いた。
またしても人の影らしきものは見当たらなく、近くに少し大きな木があるのがわかる。
と、その時。
「ここじゃよ。」
そう言って、近くの木の皮が剥がれて中から着物を来た金髪の女の子が出てきた。
「くノ一じゃねえか!!」
「いやあ、一度この紙を使ってみたかったのじゃよ。」
しかし、そんなことはどうでもよかった。
癖っ毛一つない綺麗な金髪の髪の毛に月の明かりが反射して、実に綺麗に見えて見惚れてしまっていた。
ピンクの下地にイチョウや銀杏などの葉が描かれた優雅で華麗な着物はその女性を更に美しく際立てた。
(けど、本当に綺麗な髪だな~。)
「そんなにワシの髪の毛を褒めてくれるのか。嬉しいことじゃ。」
「!?」
(いま、俺口に出してなかったよな!)
「お主の目を見ればわかる。」
「ああ...
って、あれ!?頭の上に狐みたいな耳があるじゃん!!
それに、尻尾も!!」
今度は彼女の身体全体を眺めながら驚いた顔で言った。
「今頃気づいたのかや。
だから言ったじゃろ、ワシはこの霧狐山の守り主である狐じゃって。」
「狐とは言ってなかったじゃん。」
「だって、わしが言う前にお主が逃げ出しちゃったではないか。」
それは逃げるに決まっている。
いきなりそんな姿を目の前にしたら怖くなるだろ、いろんな意味で。
「それはお前が裸で...いた....から....
そう言えば、もう一度見せてくれるんだっけ?」
「何をじゃ?」
「お前のその生の身体を俺に見せて、所々くまなく触らせて、俺の好きなように侵していいんだろ?」
「触って、侵していいとは言っておらんし、そもそも見せるなど嘘じゃ。」
「は!?」
「だから、嘘。ガセ、ホラ、冗談じゃ。」
「そこまで言わなくていいだろ。」
「とりあえず、二度とお主などにワシの裸体を見せることはないということだ。」
「二度とはないだろ~」
「二度とじゃ。」
「は~」
ため息をついている頭の中ではさっきの裸体を想像していた。
(2度と無い機会だったのに....最高プロポーションに俺好みの巨乳....)
「既にお主は、ワシの裸体を想像しておるではないか。」
「え、なんでわかるんだよ。まさかまた目を見ただけで分かるとか言うんじゃ無いだろうな....」
「ワシは人のココロを読むことができるのじゃよ。」
「まじか!じゃあ....
俺は今何を考えてる??」
頭のなかで、この女性が....俺に....
「.....わ、ワシからお主などに奉仕するわけないじゃろ!」
「まじで分かるのか!!」
「だから言っておるじゃろ!」
「分かった。で、侵させてくれるかわりに、何かしてほしいんだろ?」
「侵させてあげるとは言っておらんじゃろうが。
まぁそうじゃな、お主の言うとおり手伝って欲しいことがあるのじゃ。」
「なんだ?気持ちよくしてもらいたいのか?」
「...そろそろ、ワシも怒るぞよ。」
「悪い悪い。」
「変な妄想されながら謝られても困るぞ」
(くそ、本当に俺の考えが読まれているだと。それでは、俺が「ゆめ」を妻にしたいと思っていることもばれているのか!?)
「そのゆめとやらは、さしずめお主の親しい友達のようじゃの。だが、お主が本当にゆめ殿をそのようなふうに見ていないことぐらいわかるぞ。
ワシに嘘をつこうなんて百年早いわ。」
「やはり、嘘を考えてもばれちゃうのか。」
「これで、ワシの能力を分かってもらえたかや」
「ああ。」
「これなら、お主自身が気づいてない、否気づけない気持ちもわかるのじゃよ。これならお主の悩みも解決してあげられる事もないぞ」
「なるほど」
(そうか、心を読める能力者なら俺の考えてることは丸わかり、俺の悩みも分かると言うわけか....
なるほど、この山に来る度スッキリするのは、こいつに心を読まれていたからか.....悩みを誰かに打ち明けるとスッキリするのと同じことかよ....)
「それで、ワシが解決してあげる代わりに、お主にお願いしたいことがあるのじゃ。」
そういって、帯の隙間から扇子を取り出しこちらに向けて、パッと開いた




