あの日の命令 ☆
12月27日17:57
少年が出て行き、萩山は1人呟いた。
「彼女のことは任せたよ…少年。」
すると、看病をしていた松本が萩山に尋ねた。
「あれで良かったのですか、萩原さん?」
「ああ、もう大丈夫だ。」
「あのガキが〈五大能力者〉の一人だからですか?」
「確かにそれもあるが、それだけじゃない。」
そういって、男は減りきった煙草を灰皿に擦り付け、胸ポケットからタバコの箱を取り出し、その中から一本タバコを抜き、口に咥え先端に火をつけた。
「あの子なら彼女を守ってくれるさ。」
「そうですか。」
ああ、そうだ。彼には彼女を守れる力を持ってる。
覚悟も出来てる。
今の私たちでは彼女を守るのは無理だろう。だから、彼に託すことにした。
私がある人から託された様に。
「それより松本。」
「なんでしょう。」
「お前、彼女を傷つけてたそうだな。」
「え、あ?
私とハニーは彼女に一切傷をつけた覚えはありませんよ!」
「....」
「本当ですって!!
それにこの能力を人に向けたのはあのクソガキだけですし。私たちはあの子は傷つけていません!」
「ああ、そうか。」
「だが松本。私はこの間から何度、能力を使って人を傷つけていいと言った?」
「しかし萩山さん。貴方だってさっき私に命じたじゃないですか。」
「何を言っている。
私を能力を使っていいとは一言も言っていないぞ。」
「なんて酷い!」
仕事椅子に座ってる男は吸ったタバコを、デスクの上に置かれた灰皿の上で軽く揺らし、吸殻を落とし、再び口に加えてこう言った。
(まぁ、しかしおかげであの少年が五大能力者であることもしれたんだがな。)
「松本、お前の大事なハニーが開けた壁の穴と、お前が作った床や壁の焼け跡....きっちり給料から差し引いておく。
今月の給料明細書が楽しみだな。」
「そんなぁー!」
☆
同時刻
大学の出入り口辺りを探したが見当たらなかった。
それで一度大学の中に戻り、岡類斗大学をすべて聞き探し回った。
「おいおい...ここの生徒の人よりも建物の中を把握できるほど探したのに.....」
全く見つかる気配は感じなかった。
最後に受け付けの人や警備員に尋ねると、2時間ほど前に出て行ったとのこと。
(ってことはもう大学内にはいないということかよ....)
「勝手なやつめ....」
外に出て大学周辺を探し回って、周りにいた人に聞き込んだがすべて外れだ。
駅まで探したがやはりいなかった...
「くそ...どこ行ったんだよ」
ひたすら走り回りがるが、カンナの姿は一向に見当たらない。
(あいつは金を持っていないから乗り物には乗れないはず、だからと言って歩いて家までは帰るには長い距離だし道だって知らないはず...)
「携帯も持っていないし連絡は取れない....
くそっ。」
また走り出しては探す範囲を広くした。
公園にもいない、何処かのお店にいるわけでもない....
「はぁ...はぁ....ダメだ....はぁ....」
もう、誰かに捕まったりしてるのかもしれない...
また、彼女が危険な目にあっているのかもしれない....
まるでさっき見た夢の様にカンナがどっかに行ってしまったのではないだろうか。
そう、考え出すと体の震えが止まらなくなってきてしまった。
「いや...諦めない。
絶対見つけ出してやる...カンナ。」
しかしこんなに走り回って探しても見つからないのだ、再び岡類斗大学に戻って彼らに助けを求めようとしたときだった。
ポケットからバイブレーションの揺れで携帯電話が鳴っていることに気がついた。
それを取り出し、携帯の画面をオンにすると『白地園花』とうつされていた。
ついでなので、電話に出る前に一度画面の右上を見て時間を確認した。
「もう8時すぎてるのかよ。」
空はすでに暗くなり、気温もさらに下がり、まだ降り続けている光の粒は暗闇の中で映えていた。
そして、画面の応答ボタンをタッチし、携帯電話を耳に近づけた。
「もしもし?」
「アンタ、何処にいるの!?」
(う、うるせー!)
「・・・駅だよ。」
「はぁ!?あんたそれで塾に間に合うの!?」
うるさい姉の声が耳に痛むので、携帯を耳から少し遠ざけ、会話を続けた。
「ああ、間に合わないね。後で連絡しておくよ。」
「それにカンナちゃんを一人にしておいて、もし誘拐されたらどうするのよ!?」
誘拐されたらって、すでに俺たちに誘拐されてるようなもんだと思うんだが...
「って、はぁ!?カンナ!?
今どこにいるの!?」
「え、カンナちゃん。あんたの部屋で寝かせてる。」
「え!?なんで?なんで家に!?
それになんで俺の部屋なんだよ!!」
「だって、カンナちゃんが勝手に..」
いやいや、同じ異性として、弟の姉としてそれは止めるものじゃ無いのか!?
ってかそんなことより。
「何で家にいるんだよ!?」
「ついさっき帰ってきんだもの。」
「嘘だろ......
わかった。今からすぐ帰る...」
そう言って画面の通話終了ボタンをタッチした。
(良かった....カンナ...)
☆
急いで家に戻り、玄関の鍵を開けて家の中に入った。
すると、目の前の階段からカンナが眠そうに降りてきたところに出くわした。
俺に気がついたカンナは一言、おかえりと言ってくれた。
俺は靴を脱ぎ去りカンナの前に近づきながら怒鳴った。
「バカやろう!!」
それと同時に身体が勝手に動き、カンナを抱きよせていた。
「....えっ....?」
「カンナのバカやろう!!」
「....ゆめ、と...?」
声を震わせながら言っているのがわかる。
「俺が...俺がどんだけ心配したと思ってるんだよ!!」
「....ゆめと....」
彼女の暖かい体は俺の冷えた体を癒してくれた。
「お前はもう俺らの家族の様なもんだから、いきなりいなくなったりしやがって....
心配でそこらじゅう走り回っても見つからなかったし....
勝手にいなくなるなよ!!!」
「....ゆめと....やっと....命令聞いてくれたね...」
こんなときにカンナはそう呟いた。
きっと昨日の抱いてという命令のことなのだろう。
「こんなときに....」
「...けどゆめと....私はどこにいたらよかったの....?」
「あ。」
そうか、結局俺は数時間倒れていたわけだし、すでに俺はカンナを1人放置していたことになる。
(バカだろ俺....カンナを責めるなんて...)
「ごめん!お前を1人にした俺が悪かった!それに、俺はお前を助けるのを諦めかけた...本当にごめん!」
「....もういい....こうして私を助けてくれた....」
「....」
しばらく抱き合っていたところをリビングから出てきたお姉ちゃんに目撃された。
「騒がしいと思ったら...あら、お邪魔だったようね〜。」
「あ!いやこれは!!」
「いいわよ。けどHなことは私はまだ認めないわよ。」
「だから違うって!!ってかHなこと認めないって、それは姉ちゃんに彼氏が出来ないからだろ!!」
「今なんて言った?」
「あ、はい。すみません。」
姉ちゃんの黒い笑みは本当に恐ろしい....
「...じゃあ、Hなことする?」
「いや、だからしねえよ!!
ってかもう離れろよ!」
すでに俺はカンナを抱いていた腕の力を抜いて、カンナを引き離そうとしていたが、カンナの腕力は男の俺よりも強かった。
「ちょ!!痛い痛い!!それに暑苦しい!!
死んじゃうから!!」
「....死んじゃえ。」
「おい!!」
こうして、俺とカンナの3日間は終わった。
「なぁカンナ。ところでお前はどうやって家までは帰ったんだ?」
「....走って。」
「嘘だろ!!相当距離あるし、道知らないだろ!」
「....私は猫になれるのよ。」
「え。だからって帰れる理由には....」
「....匂いでがんばった。」
「いやいや!匂いで帰れる距離じゃないって!!それに犬ほどの嗅覚があるわけじゃないだろ!」
「....じゃあ、〈瞬間移動〉よ。」
「おい、勝手に設定を付け足すんじゃない。」
「....ほら、二本指をこうおでこに付けて....行きたいところをイメージすれば....」
「やめろ!絶対にそれはまずいから!」
「....公園で猫になって寝ていたら気がついたら家に居たって言ったら信用する?」
「ああ、そうだな...そう言うことにしておこうか。」
結局納得いく答えは出なかった。
カンナ編は一通り終わりかな




