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Short story 1  作者: 怜悧
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まさかそんなことを言われるなんて思わなくて、息が止まるかと思った。地味に過ごしてきたから、そんな印象なんて絶対ないと思ったのに。

『誰がなんと言おうとさ、佐田はすごい頑張ってる。見てるから。だから今度は絶対佐田の愚痴聞くからな。』

その言葉にいろんな思いが胸の奥からわきあがってきて、一気に泣きそうになった。

「・・・なんか悔しいなー。励ましたと思ったのに励まされた気分。」

泣きそうなのを我慢して、つとめて明るく言う。

『ははは、そりゃよかった。励まされっぱなしじゃなくて俺も少しは励ませたんだ。』

久野はこういう奴だ。本当に周りをよく見ていて、こんな夜空の隅にいるようなわたしのこともちゃんと覚えていて。だから好きだったんだよな、と、当時の思いを思い出した。

『佐田。』

「なに?」

『あのさ、』

「うん。」

『あの・・・。また、電話していい?』

「・・・うん。もちろん。」

『今の間、なに?もしかしてまずかった?』

「そんなことないって。意外だっただけで。」

『何が意外なの?』

「なにって・・・わたしで役に立つのかな、って思ったから。」

『役に立つとか立たないとかの問題じゃないだろ。俺は佐田と話したいから電話するんだし。現に今だって俺が愚痴ってるだけで佐田の役には立ってないじゃん?』

「そういう意味じゃないんだけど・・・。」

『やっぱ嫌?佐田は嫌でも嫌って言わないよな。』

なんかいじけた声を出す久野に、ちょっと笑ってしまう。

「ほんとに嫌じゃないから。嬉しいよ。こうやって久野が電話してきてくれて。だからいつでも電話してきて。」

『してきて、って佐田は電話してきてくれないの?』

ちょっと子供みたいな言い方で、次の瞬間には思わず思ったことをそのまま言ってしまった。

「かわいい。」

『はっ?』

「あ、いや、とにかく、こっちからも電話するよ。」

聞こえたかな、今の。かわいいって言ってしまったよ。聞こえていませんように。

「久野、電話ありがとう。なんか元気でたから明日からまた頑張れる気がする。」

『・・・・・』

しばらく電話の向こうが無音になった。

そして今日何度目かのため息が聞こえた。

『佐田。』

「なに?」

『なんで先に言うの?』

「なにが?」

『それ、俺の台詞。』

「そう?」

『だって、俺が佐田に電話して、愚痴聞いてもらって励ましてもらったんだろ。』

「でもさ、わたしも励ましてもらって嬉しかったんだから、お礼言ってもいいじゃん。」

『そうだけど・・・、ま、いっか。そういう優しいところってやっぱ佐田だな。ありがとう。』

ありがとう。

その久野の言葉はなんだかすごく、胸にきた。わたし自身に向けられる言葉がこんなに嬉しいなんて思わなくて。

「そう言ってもらえたならよかった。久野、体に気をつけてね。それから、久野はそのままでいいよ。」

『・・・まじでありがとう。しかもこんな時間に。』

「ううん。」

『近いうち、落ち着いたら必ず電話するから。』

「わかった。」

『なんかその返事、信用されてない気がする。』

「してます。電話待ってるから。」

『ほんとに?』

「ほんとだって。」

なんか今日の久野は子供みたいだなあ、と思いながら笑った。でも確かに、あんまり電話がかかってくることは期待してない。だって、乗り越えたころはわたしのこと忘れているような気がするから。今日は偶然空気が済んでいたから、わたしの輝きが見えたんだろうし。

『じゃあ、またな。』

「うん。おやすみなさい。」

『おやすみ。』

彼が電話を切るのを待ってから、通話終了のボタンを押した。


なんか夢みたいだなあ、と思った。

今日の会話が少しでも久野の記憶に残ってくれればいいと思う。

本当に今日は偶然だったんだろうけど、たくさん見える星の中からわたしを選んで電話をかけてくれたこと、その前にわたしを覚えていてくれたことが嬉しかった。

「明日からまた頑張るか。」

こんな風に、また誰かが突然わたしを思い出してくれればそれでいい。

6等星だっていいかな、そう思いながらベッドにもぐりこんだ。



「これ片付けたら会ってくれるって言ってくれたんだし、もうちょっと頑張るか。」

煌々と明かりのついたオフィスで大量の書類を前に、ひとりつぶやいたのは通話終了後の久野。

「結構勇気出して聞いたんだけどなー。」

また電話していいか、って。

「あんま信じてなさそうだったけど、いっか。」

携帯の履歴の「佐田」という文字をみて表情を緩めたあと、久野は残りの仕事に取り掛かった。



End

お読みいただきありがとうございました。

ときどき眠りたくなくて、でも誰かとつながっていたくてっていう、そんなときがあるんですよね。きっとそういうときは、寂しいのは自分だけじゃないのかもしれません。

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