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Short story 1  作者: 怜悧
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それでもそばにいることを願うのは、

どうかわたしのことを覚えていてほしいという、

小さなわがまま。


夜空に星が瞬いている。

こんなに多くの星があるんだ、ということにいまさらながら驚く。

昼間は見えないけれど、これらの星はいつでも確かにそこに、ある。

実際はここからものすごく遠くにあって、たどり着けはしない場所なのに、それだけの輝きを放ちながら存在を表していることが、不思議でもあり、すごいと思う。


わたしはいったい輝けているのかなあと思う。

たくさんたくさんの人の中からわたしという人に輝きを見出す人なんているんだろうかと。

もしかして、わたしが生を終えたあとに、わたしの輝きを見つける人がいるのかもしれないなあ、と思ったら、なんだかおかしくなった。

まあ、それでもいいか、なんて。


ふいに、ポケットの中の携帯が振動する。

取り出して液晶を見ると、ずいぶん久しぶりな名前が表示されていた。

「もしもし。」

『もしもし、ひさしぶり。久野だけど、わかる?』

「あ、うん。わかるわかる。ひさしぶりだね。」

『ずいぶん久しぶりだよな。番号変わったんじゃないかと思った。』

「あー、変えるの面倒だったからそのままにしといただけ。」

『あはは、なんかそれ、佐田らしいよな。』

「そう?そんなことないと思うけど。」

『いや、そうだって。なんか佐田って昔から変なところめんどくさがるから。』

久野は大学時代の同級生だ。上昇志向の強い奴で、常に前を向いているすごいエネルギーを放っていた。そんなギラギラしたエネルギーを持ちながらも周りの友人には優しく、人を蹴落としてまで上へ上がろうとする奴ではなかった。

そういう彼の周りには常に多くの人がいた。

もちろん、同じクラスだったこともあり、話したことはある。一緒に飲みに行ったこともある。でもその程度だ。他のクラスメイトに比べればわたしと久野の付き合いは薄くて短い。

「それで、どうしたの?」

そういうわけで、久野から電話がかかってくるのは本当に驚くことなのだ。だから、用件が気になった。

『いや、どうしてるかなと思って。だって佐田、いつもクラス会来ないだろ。この間だって来てなかったし。』

「あー、そういえばそうだね。」

『もしかして、めんどくさいって理由だったりする?』

「うん、その通り。」

『やっぱりかよ。』

そういって久野は電話の向こうでひとしきり笑っていた。正直クラス会という場所は苦手なのだ。みんなの近況を聞いて、昔の話で笑って。そうしてみんなの輝きを目の当たりにすると、ものすごく嫉妬して落ち込む自分がいるのがわかるから。だから、行かない。もっとも、クラスのみんなも別にわたしがいなくたって気にしないだろうと思っていた。もちろん久野も。

『で、ほんとに最近どうなの?』

「どうって・・・別に変わんないよ。普通に仕事して、普通に家に帰って寝て、それだけ。」

『なんか目新しいことってないの?』

「別にないよ。毎日おんなじことの繰り返し。」

『休みの日はどうしてんの?』

「んー、あんまり外にも出ないかな。ひたすら寝て、寝て、充電。」

『なんか不健康だぞ、それ。』

「そう?実は自分でもそう思ってる。」

『でもあんまり直す気もないんだろ?』

「その通り。よくわかってるね。」

『だって佐田ちゃんだから。』

学生時代、クラスのみんなには佐田ちゃんと呼ばれていた。なんだか懐かしい響きだ。さすがに社会に出てからは「ちゃん」付けでよばれることはなくなった。

「久野はどうなの、最近。」

『俺?俺は、うーん、まあ同じかな。』

「同じって、どんな感じ?」

『佐田と同じだよ。普通に会社行って、仕事して、たまに怒られて、落ち込む。』

「久野も落ち込むんだ。」

『俺だって落ち込むよ。人間だし。』

「ふーん、そっか。」

返事を返しながら、気がついた。ちょっと久野の声のトーンが落ちた。なんとなく、あんまり突いちゃいけないところを突いてしまっただろうか。

「そうだよね。久野だって落ち込むよね。で、なんで落ち込んでるの?」

『えっ?』

「なんかあったんじゃないの。」

結構確信があった。自分に電話してくるくらいだから、何かあったんだろうって。

電話の向こうで久野が大きく息を吐いたのが聞こえた。

『・・・なんで佐田ってそういうとこ鋭いの?』

「だって、わたしに電話してくる時点でそう考えるべきじゃない?」

言って、わたしはクスクス笑った。久野が、まいったな、とつぶやいたのが聞こえた。

『これでもなんて切り出そうか、電話かける前にものすごい考えたんだけど。』

「わたしに電話かけるかどうかと、悩みの切り出し方、どっちのほうが迷った?」

『・・・佐田さん、これ以上僕をいじめないでください。』

棒読みでいじける久野は、電話口でもきっとしかめっ面でいじけた態度をとっているんだろう。想像するとおかしい。

「ん、わかったから。それで、どうしたの?」

とりあえず、先を聞くことにした。


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