【10/12~10/16限定公開】⑩高嶺の花が、オレと結婚してくれるそうです 3
信じられなかった。
その返事を望んでいたけど、本当に陸翔が自分を選んでくれるなんて。
「本当に、オレでいいんですか?」
「もちろん」
陸翔は虎之介の手を離すと、その頭を優しく撫でた。
それから、左手を差し出し、少し照れたように笑う。
「ね。つけて?」
「は、はいっ」
指輪を取り出そうとするが、手が震えてうまく掴めない。
「す、すみませんっ」
「ゆっくりでいいよ」
陸翔の優しい声に励まされながら、どうにか指輪を手に取る。
そして、差し出された左手を大切に包み、その薬指へゆっくりと指輪を通した。
「きれいだね」
陸翔は幸せそうに目を細めると、指輪へそっと唇を寄せた。
ちゅ、と小さな音を立てて口づける。
その仕草があまりにも色っぽくて、虎之介の胸がまた大きく跳ねた。
「陸翔さんっ」
顔を上げた陸翔の瞳は、きらきらと輝いていた。
陸翔の腕が首に回り、ぐっと引き寄せられる。そのまま唇を重ねられ、柔らかな感触にドキドキした。
触れ合うだけだった口づけが、次第に熱を帯びていく。
「んっ……トラさん」
甘い声に煽られ、虎之介は陸翔の腰を抱き寄せた。そのまま覆いかぶさるように、ベッドへ押し倒す。
「っ!」
衝動のまま押し倒してしまい、虎之介は慌てた。
「す、すみませんっ」
「いいよ。もう、本物の恋人なんだから」
陸翔が頬を染め、うっとりとした目で見上げてくる。
右手が虎之介の頬に触れ、ゆっくりと首筋を撫でた。そのまま胸元をなぞり、さらに下へと降りていく。
焦らすような指先が腹部を這い、ハーフパンツのウエストをくい、と引っ張った。
「ッ!」
虎之介の身体がビクリと跳ねる。
陸翔はその反応を見逃さず、楽しそうに目を細めた。
「初めて?」
「……はいっ」
虎之介が耳まで真っ赤にすると、陸翔は嬉しそうに微笑んだ。
「フフ。俺も、抱かれるのは初めてだよ」
指輪をつけた左手が、優しく虎之介の頬に触れた。
その手に自分の手を重ね、何度も唇を重ねる。
耳元で「好き」と囁く声に、虎之介の胸はいっぱいになった。
+ + +
翌朝、虎之介はベッドの中で目を覚ました。
男二人で眠るには窮屈だったが、腕の中の陸翔は、ぴったりと体を寄せている。
「おはよ」
「おはようございますっ」
恋人として迎える、初めての朝だ。
照れくさくはあるが、それ以上に幸せだった。
(陸翔さん……最高だった……!)
昨夜の、夢のようなひとときを思い出し、喜びを噛みしめる。
陸翔は虎之介の腕を枕にしたまま、艶めいた瞳で見上げてきた。
一目惚れし、ずっと恋い慕ってきた、高嶺の花。
その人が虎之介の想いに応え、結婚まで承諾してくれたことが、今でも奇跡のように思える。
虎之介にとって、陸翔は初めて会ったときから特別な人だった。
(……じゃあ、陸翔さんは?)
陸翔は、自分のどこを好きになってくれたのだろう。
昨日はプロポーズを受け入れてもらえたことに舞い上がり、そこまで考える余裕がなかった。
けれど、こうして幸せな朝を迎えた今、無性に知りたくなる。
「陸翔さん」
「ん?」
「こんなこと聞くのもおかしいですが……どうして、オレを好きになってくれたんですか?」
「え?」
陸翔は、きょとんとした顔になる。
「う~ん。理由は色々あるけど……かっこいいし、強いし、素直でまっすぐなところもいいよね。俺の言うこと聞いてくれるし」
「そ、そうですか」
褒められて嬉しいのだが、やはり忠犬のように思われているかもしれない。
(まあ、それでも構わないが)
陸翔の望みなら、何でも叶えてやりたいのだから。
「あとはね」
陸翔が上目遣いに見つめた。
「トラさんが、俺の騎士になってくれたから」
「え?」
「これからも、俺を守ってくれるんでしょ?」
「もちろんお守りします! 命に代えても!」
陸翔を守るためなら、どんな危険も厭わない。
迷わず誓うと、陸翔は嬉しそうに微笑んだ。虎之介の手を両手で包み、ちゅっと口づける。
「り、陸翔さんっ」
「……俺、トラさんの手が好き」
陸翔がその手に頬を寄せる。
「大きくて、あったかくて……トラさんがそばにいると、安心するんだ」
囁くような声に、胸が締めつけられた。
思い返せば、脅迫にさらされている間も、陸翔は気丈に振る舞い、会社では動揺する素振りさえ見せなかった。
だが、怖くなかったはずがない。
「陸翔さんは……今まで、どうやって耐えてきたんですか?」
気づけば、そう尋ねていた。
陸翔が驚いたように虎之介を見つめる。
「いや、その……脅迫されてたとき、怖かったですよね? オレが警護につくまで、一人で耐えていたのかと思うと……」
脅迫状が届いたときの、陸翔の震えていた指が、脳裏に蘇る。
たまらず、陸翔をぎゅっと抱きしめた。
「……誰にも言ってないよ」
「言ってない?」
「千秋には心配掛けたくなかったし。兄さんに『怖い』なんて言ったら、すぐ警察沙汰になって、解決するまで自宅待機になってたはずだから」
「陸翔さんの安全を考えれば、オレだってそうしますよ」
虎之介が真面目に答えると、陸翔は苦笑した。
「だから言わなかったんだよ。兄さんは、俺に過保護だからね」
自分の力で解決したいと望む陸翔の気持ちも、虎之介は知っている。
それでも、一人で耐えるのはあまりにつらかっただろう。
「過保護ならなおさら、社長に甘えてもよかったと思いますよ」
「……子どもの頃に十分甘えたから、もういいんだ」
「どういうことですか?」
腕を緩めて、陸翔の顔を覗き込む。
陸翔は困ったように微笑んでいた。
「母さんが亡くなって、中学に上がるまで……俺は、一人で外出できなかったんだ」
「えっ?」




