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塩対応完璧美少女VTuberは、俺の幼馴染――配信ではクール、現実はポンコツで俺だけが知っている  作者: 和三盆


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第7話 嵐の前の静けさと、小さな告白

あの日から数日が経った。ネット上の騒ぎは一時的に収まり、しおりの配信は通常運転へと戻りつつあった。だが、表面の平穏はガラスのように薄い。いつヒビが入ってもおかしくない。俺――春崎晴――は日々の学校生活を送りながらも、常にアンテナを張っていた。友達との何気ない会話も、スマホの通知音一つで凪が波立つことを知っているからだ。


小学生の頃、俺としおりは校庭の片隅に“秘密の箱”を埋めた。中身はガラクタと、嘘みたいなほど真面目な「秘密を守る誓い」。あのときの約束は子供の遊びに見えたけれど、大人になってからもどこかで効力を持つ。今は俺がその箱を心のなかで何度も取り出して、誓いを確かめている。


ある放課後、いつものように図書室で作業をしていると、凛からメッセージが入った。「ちょっと話せる?」—短い一行。俺は内心で身構えたが、約束どおり図書室の隅で彼女を待った。


凛はいつもより落ち着いた顔で来た。学校の日差しが窓ガラスをゆっくり滑っている。彼女は席に着くと、バッグから小さなノートを取り出した。「これ、読んでほしい」と言って、しおりへの想いを綴ったような紙切れを差し出す。内容は驚くほど率直で、だが脅しめいたものではなく、むしろ誤解を解きたいやり方で溢れていた。


「私ね、最初は面白半分で近づいた」凛は言った。「でも、あなたたちを見ているうちに気づいたの。白崎さんはただの“ネタ”じゃない。彼女の配信には、本当の孤独とか真面目さとか、守られるべきものがある。私、最初は情報を掘ることで自分を証明したかった。でも、あなたたちの“秘密”を利用して再起するような真似はしたくない」


俺は彼女の目を見た。そこには嘘をつく者の薄さはなく、むしろぎこちない素直さがあった。凛が何かを抱えていることは、もう疑わない。だが、それでも疑念が消えないのは、行動と言葉が一致するかどうかをまだ見極めていないからだ。


「じゃあ、なんであの暴露を止めなかったんだ?」と俺は率直に問うた。凛は一瞬口を噤んだ。窓の外で風が葉を揺らす。


「私は手を出してない。だけど、情報屋みたいなのがいて、匿名でネタを売る世界がある。私はそれに噛み付けるほど強くない。だけど……あなたたちを守りたい気持ちは本当だ」と彼女は答えた。そこで彼女は小さくため息をつき、続けた。「その代わり、協力する方法を考えた。ライブハウスの地下で小さなイベントを仕込める。セキュリティと撮影規制を厳しくして、ファンと直接会う“安全な場”を作る。それに、私が仲介する。条件は一つだけ――白崎さんの“素”を無理に晒さないこと」


話は現実的だった。凛はコネを使える立場にあるらしく、その実行力は侮れない。だが、俺はまだ完全に信頼はしていない。だから、条件を出した。――「運営と俺が編成する安全プランを必ず通すこと」「イベントの全記録を俺たちと運営が管理すること」。凛はそれを黙って受け入れた。


その日の夜、しおりに報告すると、彼女は驚きながらもどこか安堵した顔を見せた。「私、直接会うのは怖い。だけど――安全にやれるなら、ファンの反応をちゃんと見てみたいって気持ちもある」と言った。しおりの口調には迷いがあったが、その迷いは彼女自身の“仕事”と“日常”の間で揺れている証拠だった。


準備は短期間で進んだ。運営が入念にセキュリティを組み、学校側の監督も得る。凛は自分の繋がりを使って、会場の警備担当と撮影制限を固め、俺たちは“合言葉”──幼い頃に作った合図を手掛かりに、入場者の身元確認を行う案を出した。あの幼稚な誓いが、今では堅牢なフィルターになるとは思っていなかった。


イベント当日、地下の小さな会場は控えめだが温かい雰囲気だった。会場入り口では運営スタッフがID確認をし、来場者は事前登録制。入場時にはスマホの録画・撮影は禁止のタグが読み取れ、厳重な注意が徹底される。俺は受付で緊張しながらも、しおりの緊張を少しでも和らげる役割を果たした。


ステージは小さく、しおりはアバター無しでライトを浴びることになった。驚いたことに、彼女はステージに上がると自然な笑みを浮かべ、少しだけ素の自分を見せた。客席は静かに見守り、やわらかな拍手が起きる。その空気は、何よりも安全だった。


イベント後、凛はステージ袖でしおりに近づき、小さな声で「よかった」と言った。しおりは恥ずかしそうに笑い、俺を見る。俺は胸が熱くなった。疑いと不信が渦巻いていた数週間は、少しだけ薄れていくように思えた。


しかし、その夜の帰り道、凛が俺に小声で囁いた。「完全に消したわけじゃない。私はまだ探る。だけど、あなたたちの“誠実さ”は見た。もし本当に必要なら、私は動く。裏方として、ね」その言葉には変な余裕があったが、今回は悪意を感じなかった。彼女は完全な味方ではないかもしれない。だが、敵でもない。そういう微妙な立ち位置が、これから先の物語の鍵になるだろう。


家に帰ってベランダで空を見上げると、夜は澄んでいた。しおりの笑顔が頭に浮かび、幼いころの箱のことを思い出す。小さな誓いは、今も俺たちをつないでいる。


俺は心の中でそっと言った――「これからも守る」。それは決意であり、予告だった。嵐は完全には去っていない。だが、嵐の前に見える静けさは、確かな連帯の証でもある。


――次は、もっと近いところからの挑戦が来る。けれど、もう一度言おう。俺たちは一緒だ。

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