第38話 深夜テンションの秘密配信は、破壊力が高すぎた件
家に帰ったのは夜八時すぎ。
昼間の“ほぼデート”の余韻が胸の中でずっと熱くて、落ち着かない。
そのタイミングで、しおりから通話がかかってきた。
「……晴、いる?」
声が驚くほど柔らかい。
昼間より距離が近い感じ。
「どうした?」
「今日は、眠れなさそうで……なんか、胸がざわざわする」
「緊張?」
「……晴のせい」
一瞬、心臓が変な音した。
「ね、今から少しだけ、限定配信したいなって思ってるんだけど……来てくれる?」
「俺も聴くの?」
「……来てほしいの。晴、いないとイヤ」
抗えるわけがない。
◆
しおりはすでに配信を始めていた。
顔出しはもちろんなし。でも声の熱量で“テンションがいつもと違う”のが丸わかり。
『こんば……ん。リリシアです……声、変じゃないよね?』
コメント欄は一瞬でざわついた。
《今日ゆるい》《声柔らかい?》《なんか距離近いんだけど!?》
しおりは少し笑って、マイクの近くでかすかに息を吸う。
「……今日はね、昼間すごく嬉しいことがあって。ずっと胸が熱いままなんだ」
コメント欄
《何があったの!?》
《告白された?》
《恋してる人いるの?》
視聴者の反応が完全に勘づいてる。
しおりは一度だけ深呼吸して、
「……大事な人と、一緒に歩いたの」
と言った。
コメント欄が一瞬で爆発。
《大事な人!?》《相手誰!?》《まさかデート!?》《許せるわけない!!!》
俺(まあ俺だよ。でも言えるわけがない)
しおりは続ける。
「その人とだとね……時間が一瞬で溶けちゃうの。すごく不思議」
それ、俺のことだよな?
今日の距離の近さ、袖を引く仕草、笑顔――全部思い出して胸が熱くなる。
「ねえ……好きな人ってさ。隣にいるだけで、幸せになるよね」
反則級。
コメント欄は阿鼻叫喚。
《リア恋勢息してない》《破壊力高すぎ》《相手リアで存在するやつなん!?》
しおりは少し困ったように笑って、
「これ、言わないつもりだったのに……。でも、今日は止められないの」
と小さくつぶやく。
「みんなには、秘密ね……?」
いや無理だろそれ。
視聴者は全員正座してる。
配信はそのあとも、いつもより素直なしおりが続いた。
言葉一つ一つが甘くて、柔らかくて、刺さる。
そしてラスト――
彼女はマイクぎりぎりの距離で、息を押し出すように言った。
「……ほんとは、今すぐ会いたいの」
その瞬間、俺のスマホが震える。
直接メッセージ。
『晴に会いたくなっちゃった……来れる?』
俺(無理だ、心臓持たん)
『行く』
玄関を飛び出して、しおりの家の前に着いたとき。
マンションの灯りの下、しおりがフードを羽織ったまま立っていた。
目が合うと――ゆっくり近づいてきて、
「……晴。来てくれると思ってた」
と、甘く微笑んだ。
完全に、夜が動いた日だった。




