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塩対応完璧美少女VTuberは、俺の幼馴染――配信ではクール、現実はポンコツで俺だけが知っている  作者: 和三盆


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第26話 告白の朝、そして渡されたUSB

朝の光がやけに冷たく感じられた。

昨夜の封書が残した予感は、僕らの中でまだ微かな振動を続けている。誰かが「明日、会いに行きます」と書き残した――その「誰か」が来るという事実だけで、空気は締まる。


眠れない夜を越えて、僕は早めにスタジオへ向かった。画面の向こうの支援メッセージは温かい。だが数字はまだ揺れている。人気の回復も、新しい層の獲得も、結局は「物語をどう語るか」にかかっている。今日の僕らの仕事は、語り方を変えること。手触りを変えることだ。


玄関のチャイムが鳴ったのは午前十時すぎ。しおりと目配せをして、僕がドアを開ける。そこに立っていたのは、年の頃三十すぎの男。目元が疲れているが、どこか落ち着いた表情だ。差し出された紙袋には、封筒がひとつ。差出人名は書かれていない。だがその立ち姿を一目見て、しおりの肩がカクンと落ちた。


「……君は?」しおりがぎこちなく訊いた。


男は一瞬だけ目を伏せて、ゆっくりと言った。「僕は――中野と言います。あなたの声を最初に『サンプリング』した現場に、関わっていた者の一人です。今日は話をしに来ました」


その言葉は重かった。部屋の中の時間がほんの少し歪む。しおりの表情は青ざめ、だけど怒りが滲む。「どうして今になって……?」


中野は紙袋を小さく胸に抱えたまま、深く息をついた。「十年前、僕は仕事で古い放送資料の整理をしていました。誰も見ていない倉庫で、子供の声が入ったカセットを見つけたんです。面白半分で編集の実験素材にした。やがて、それが大きくなり――誰かの生活を変えることになるとは思わなかった。すべてはここから始まった」


「で、今、それを持ってきたの?」僕は核心を突く。


中野は頷き、紙袋から小さなUSBが包まれたボロ布を取り出した。「ここに、ログとトランザクションの履歴、そして当時の編集ノートのスキャンがあります。あなたたちが見たファイル名、サーバー呼び出し、そして依頼金の流れ。全部じゃないけど、かなりの断片は入っています。僕はずっと黙っていた。けれど、あなたたちが『自分の声を取り戻す』と宣言したのを見て――黙っていられなくなった」


しおりの目に光が戻る。だがその光は複雑だ。怒り、哀しみ、そして一筋の希望。僕はUSBを受け取り、手のひらに冷たさを感じた。中野の手は震えていない。静かな決意がその声にこもっている。


「でも、どうして今?」凛が差し込むように訊いた。彼女の目は疑い深い。中野は少し笑ったように見えた。「僕も被害者だ。僕の妹が、昔からラジオが好きで、夜中に録音したテープを持っていました。ある日、それがどこかに消え、彼女は自分の声がどこかで聞こえると訴えた。仕事のせいで、それを見過ごした。僕はその罪悪感を消せなかったんです」


告白が重いのは中身が具体的だからだ。USBの中身を解析班が掘り始める。画面上で数字とログが動くたびに、僕は浅く息をする。断片の一つ一つが、相手の輪郭を少しずつ明らかにする。送金記録の一部、メールのヘッダ、外部ドメインへの接続記録。それらは点でしかないが、点は線になり、線は面になる。


「ここで気をつけるべきは二つ」、佐伯が手早く切り出す。「一つは技術的裏付けの精度。改ざんの疑いもある。だから、外部の検証ラボにハッシュを送る。二つ目は法的配慮。個人名を出す前に弁護士のチェックを通す。公開は慎重に」


僕らは同意する。だが誰もが知っていることがある――慎重さは時に勢いを削ぐ。ファンや世論は即時性を求める。どうバランスをとるか。今日はそこを、しおりが決める日だ。


午後、しおりはカメラを前にして、ある提案をした。これまでの「一方的な暴露」ではなく、「協議の場」を設けるという。匿名の告発者にも出てきてもらい、法の枠内で事実関係を確認する。場は公開だが、ルールも厳格だ。中傷は禁止、同意なしの個人情報の公開禁止、弁護士立ち会い。視聴者には、この場は「事実確認のための公共的討議」だと提示する。


「これは賭けだ」と田島が呟く。「でも、賭ける価値はある。匿名の暴露を“祭り”にさせず、手続きを踏ませること。それ自体がメッセージになる」


夜、USBの中から出てきた資料の一部が、解析で確度を得る。あるドメインへの送金履歴。送金先の企業名は小さくない――メディア系の中間業者、外部制作会社、広告運用の会社と繋がる断片。点はつながり始めた。だが、それは同時に、倒すべき相手の顔が大きくなるということだ。


その晩、僕らの配信窓口にまた新しい動画が流れ込む。差出人不明。だが画面の端に小さく表示された文字列は読めた――「12/1の続きは、まだだ」。映像は短く、黒い画面に白で「準備は進んでいる」とだけ書かれて終わる。挑発だ。だが今回、僕らは違う。挑発を無視するわけでも、煽るわけでもない。僕らはルールを作る。


この夜、僕はしおりと一緒に画面を見つめた。USBの冷たさがまだ手に残っている。今は情報がある。だが情報は武器にも毒にもなる。どう振るうか。僕らのやり方を、今日から変える。扇動を避け、議論を設計する。声を奪った者たちを法と公論の前に立たせる。そこにこそ、新しい読者層がついてくるはずだ――考える人、行動する人、地域を大事にする人。


ページの最後に、問いを残す――あなたなら、手にした証拠をどう使う? 燃料にするか、それとも道具に変えるか。明日は、匿名の来訪者が本当に姿を現すのだから。

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