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塩対応完璧美少女VTuberは、俺の幼馴染――配信ではクール、現実はポンコツで俺だけが知っている  作者: 和三盆


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第13話 古いラジオの囁き――暴かれた過去と、差し出された道標

朝の光が低く差し込むキッチンで、俺はコーヒーを一口だけ飲んで窓の外を見ていた。昨夜の公開は、想像以上の反響を呼んだ。賛否は画面の向こうで渦巻き、運営側にも問い合わせと支援の要請が山のように届いている。だが数字と通知の洪水の奥で、俺としおりにとって肝心なのは――テープの声の正体がまだわからないことだった。


「晴、今日は動くなら早い方がいいよ」しおりが隣で静かにそう言った。目の下に浅い影があるが、その眼差しは決意に満ちていた。どこかから来る匂いは、まだ不安のまま残っている。


「手がかりがある。北町の店主が言ってた“夜に注文して来る客”のこと。店主の知り合いで、中古ラジオやテープを扱う男がいるって。名前は古沢、ちょっと癖のある人らしい」


「行こう。真っ直ぐ行こう」しおりは短く頷いた。二人で動く。誰かに頼るより、足で確かめる。幼馴染の約束はまだ、俺たちの歩幅に残っている。


北町の裏通りを抜け、小さな看板がぶら下がる路地へ入ると、古いラジオとレコードが山積みの店があった。ガラス越しに見えるのは埃をかぶったチューナー、カセットデッキ、そして雑多なポスター。店の扉を押すと、ベルの代わりに古いジングルがパチっと鳴った。


中の男は、想像よりも年齢がいっていた。白髪混じりで小柄。目は疲れているが、どこか誠実な光が残っている。名を名乗ると、「古沢です」とだけ。店の中で彼は俺たちを一瞥し、ふっと溜息をついた。


「お前ら、あの事件に絡んでる若いのか?」古沢は無造作に言った。言葉は荒いが、口調に悪意はない。俺が事情を説明すると、彼はゆっくりと椅子から立ち上がり、奥の棚に手を伸ばした。


「テープの話だろ。あれな、俺も関わったんだ。売るつもりはなかった。あいつらが金に目が眩んで……でもな、最後に俺が入れたメッセージ、捨てるわけにいかなくてな」古沢の手には、使い古されたラジカセと、ドライバーの跡のあるカセットテープがあった。ラベルの裏には鉛筆で小さく「注意」とだけ書かれている。


しおりの顔が強ばる。俺は言葉を選ばずに訊いた。「古沢さん、あのテープの男の声は――あなたが知っているのか?」


古沢はしばらく黙った。店の中に積もる静けさの中で、遠くの街の音だけが聞こえる。やがて、ぽつりと一言。


「声の主は、直接俺が知ってる人間じゃない。だが、テープを編集して渡したのは俺だ。あんたらに危害を加えるつもりはなかった。最初は“脅し”の材料として、誰かに金をもらってた。だが見てるうちに、これはやりすぎだと思った。だから、中に“警告”を忍ばせた」


「警告って……?」しおりが震える声で訊く。古沢はカウンターの上に手のひらを広げ、あのテープの再生ボタンを押した。すれる音、遠い呼吸。そして、あの男性の声。だが今回は、途中で別の断片が重なる――古沢の声だ。


「――もしこれを聴いているなら、やめろ。ここまで来たら、誰かが傷つく」古沢の声は、震えながらも真剣だった。テープはそこからフェードアウトし、元のメッセージへ戻る。古沢は言葉を続けた。「俺は、あの人たちにテープを渡した。だけど、最後に戻したのは、俺の良心だ。もっと言うなら、あの“男”に近づく連中がいる。組織ってほどじゃないが、金で動く奴らが群れてる。夜猫っていうのも、そういう連中の俗称だ。だが“指示”を出す本体は、別にいる」


――古沢は、聞き取れる範囲での“上”の存在を示唆した。声の主は“指示する側”ではなく、素材をばらまく側。だが誰が“指示”を出してるかは別問題だ。


古沢は俺たちに、一枚の地図と古い写真を差し出した。写真には、見覚えのある商店街の入口と、店主の背中。そして、写真の端には小さく、見慣れた「星の落書き」が写っている。日付は2009年ではなかった。もっと新しい――2016年。それは、凛が中学の頃にあたる。


「誰かが写真を撮って、うちに売りに来たんだ」と古沢は言う。「だがそのとき、裏で動いてたのは別の連中だ。連中は“過去の痕跡”を集めて物語にして売る――そうやって金を稼いでる。だが、その中に、どういうわけか“人の過去を蒐集することに執着する”奴がいる。あいつの音声がテープに入ってる」


手元の地図に目を落とすと、複数の赤丸が引かれていた。北町、古いおもちゃ屋、レコード店、そして――小さなマークで隠された場所。古沢はそれを指差した。


「あの場所が、奴らの“交換場所”だ。表向きはガレージセール、実際は人の情報を流通させるマーケット。今夜、そこに人が集まる。映像の素材を買い漁る連中も来るだろう。俺はもう関わりたくないが――お前らが真相を知りたいなら、そこに行け。だけど気をつけろ。奴らは撮られることを恐れない。逆に、撮ることを楽しんでる」


言葉の端に含まれる脅し。だが同時に、道は示された。真相に近づくチャンスでもある。俺はしおりの手を強く握り、息を飲む。


「行くか?」俺は訊いた。


しおりは一瞬躊躇した後、答えた。「行く。全部、ここで終わらせる。私が“箱”にしたことを、誰かに玩具にされるのはもう嫌だ」


夜、更に冷えた空気の中で、ガレージセール風のマーケットは明かりを灯していた。プレートや古い雑貨、写真の束を並べたテーブル。人々は小声で値段を交渉している。俺たちは人混みに紛れてゆっくりと進んだ。遠目に、スマホで配信している者、古いカメラで撮る者、怪しい笑みを浮かべる中高年の男たちの影――そこに「夜猫」の影を感じる。


奥のテントで、男たちがカードファイルをめくっている。いくつかは匿名のアカウント名で売られている。写真、住所、子供時代の痕跡――値札がつけられている。俺たちの心臓は喉元まで上がる。


古沢が小さく囁く。「向こうにいる。あのテントの角。撮影用のライトを持ってる中年だ。声が特徴あるぞ」


俺は息を殺し、しおりの肩に耳打ちした。「二人で分かれて行動しよう。必要なら俺が引き付ける」


しおりは首をかすかに振り、目で合図した。彼女は人混みをかき分けて、静かにテントへ近づく。俺は反対側から回り込む。心は凍るほど冷たいが、動作は正確だった。


テントの中、男たちは写真を広げていた。そこに一枚、見覚えのある写真――小さな缶の蓋、星の落書きの拡大写真がある。男たちの一人が含み笑いを漏らした。


「これ、ヤバいだろ。あの“人気の”アレの元ネタじゃね?」

「もっと出せ。映像もあるって話だぜ。あのテープのやつ、音声だけで売れる」


しおりの体から冷たい汗が滲むのを感じた。だが彼女は息を止めて、静かにその場に立ち尽くす。次の瞬間、男の一人がその場で笑いを漏らすと、しおりはゆっくりとテーブルの上に手を伸ばした。


「それ、返して」しおりの声は低く、とても静かだった。周囲の笑いが止まる。男たちが振り向く。しおりの目は、誰よりも真っ直ぐだ。驚きと怒りが交差するような静寂が一瞬場を支配した。


「……お前、誰だ?」男の一人が鼻で笑う。だがしおりは手を引かず、脇に置いてあった写真を掴んで引き寄せた。カメラのフラッシュが一斉に焚かれ、周囲のスマホの画面が瞬く。


その瞬間、俺が動いた。男たちの中に混じっていた一人が素早くスマホを俺に向けた。俺は相手の腕に掴みかかり、スマホを地面に落とす。古沢が合図を送る。運営が事前に手配していたチームが、陰に潜んで動き出す。ライトが切られ、混乱が起きる。


マーケットは瞬く間に騒然となった。男たちは逃げ惑い、映像は中断される。だが、逃げるその中で、一つの影が煙るように消えた。細身で動きが素早い。間違いなく―夜猫の一員だ。


しおりは息を吐き、写真を握り締めた。「返して、全部。私の過去は誰かの金儲けの種じゃない」声は震えていない。だが体が少し揺れた。


古沢が近づき、「あの声の出どころは、たぶん“裏方”だ。直接の首謀者は、ネットの向こうで舵をとってる。だが彼らには“現場”を回す連中がいる。ここで散らばった人間から繋がりを掴めれば、上へ届くかもしれない」と囁いた。


マーケットの混乱で、いくつかの写真と録音機材を運営チームが押収した。機材の中から出てきたのは、短い動画数本と、手書きのメモ。メモには「次回は12/1。主役を用意しろ」と走り書きがあった。日付は近い。これは――脅迫のスケジュールか、新たな“見世物”の告知か。


俺はメモを握りしめ、しおりを見る。彼女の瞳には怒りだけでなく、凄まじい覚悟が宿っている。


「晴、次は……一緒にやろう」としおりが言った。声は震えない。俺は力強く頷いた。「ああ。一緒に潰す。夜猫も、あいつらの商売の場も、全部止める」


だが、夜の路地の風は冷たい。そこに残る痕跡は、完全には消えない。誰かが今、路地の闇の向こうでカウントダウンを見つめている。12月1日までの時間は、残酷にも確実に刻まれ始めた。


――次は12/1。舞台は、また別の場所で。だが今夜の戦いで分かったことは一つだ。敵は多層的で、顔のある者と顔のない者が入り交じる。そして、勝つには俺たち自身が物語の語り手になるしかない。


夜空に月が出ていた。星のふたは鞄の中で重く冷たかった。俺たちはそれを確かに持ち、次の朝に向かって歩き出した。

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