86.晴れ、のち雨。
「大前君。EITOエンジェルズで、父親のいない隊員は何人いる?」
「小柳さん、失礼ですよ、プライベート、個人情報ですよ。」と、小町は抗議した。
「済まん。それは分かっているが・・・。」
========= この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
南部[江角]総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。EITOエンジェルのチーフ。
南部寅次郎・・・総子の夫。南部興信所所長。
大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダー。総子からは『兄ちゃん』と呼ばれている。
足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。看護担当。元レディース・ホワイトのメンバー。
河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。走るのが速い。
北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
久留米ぎん ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトの総長。EITOエンジェルス班長。
小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
和光あゆみ・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
中込みゆき・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
海老名真子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
来栖ジュン・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7の総長。EITOエンジェルス班長。
愛川いずみ・・・EITO大阪支部メンバー。EITOエンジェルスの後方支援担当になった(EITOガーディアンズ)。
本郷弥生・・・EITO大阪支部、後方支援メンバー(EITOガーディアンズ)。
大前[白井]紀子・・・EITO大阪支部メンバー。事務担当。ある事件で総子と再会、EITOに就職した。
神代チエ・・・京都府警の警視。京都府警からのEITO出向。『暴れん坊小町』の異名を持つが、総子には、忠誠を誓った。呼び名は他のメンバーと違い、あだ名の「小町」で通っている。
芦屋一美警部・・・大阪府警テロ対策室勤務の警部。総子からは『ひとみネエ』と呼ばれている。アパートに住んでいる。
用賀[芦屋]二美二曹・・・。三つ子の芦屋三姉妹の次女。陸自からの出向。総子からは『ふたみネエ』と呼ばれている。オスプレイやホバーバイクを運転することもある。後方支援メンバー(EITOガーディアンズ)。総子の上の階に住んでいたが、用賀と結婚して転居した。
芦屋三美・・・芦屋グループ総帥。EITO大株主。芦屋三姉妹の長女で、総子からは『みつみネエ』と呼ばれている。芦屋三姉妹と総子は昔。ご近所さんだった。
小柳圭祐警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。
指原ヘレン・・・元EITO大阪支部メンバー。愛川いずみに変わって通信担当のEITO隊員になった。
用賀哲夫空自二曹・・・空自のパイロット。EITO大阪支部への出向が決まった。二美の元カレだったが、二美と結婚した。EITOガーディアンズ。
真壁睦月・・・大阪府警テロ対策室勤務の巡査。
今奈良リン・・・大阪府警巡査。EITO大阪支部に出向になった。
藤島ワコ・・・藤島病院看護師。
花菱綾人・・・南部興信所所員。元刑事。
横山鞭撻・・・南部興信所所員。元刑事。
友田知子・・・南部家家政婦。芦屋グループ社員。
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= EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =
== EITOガーディアンズとは、EITOの後方支援部隊のことである ==
※東住吉事件
1995年7月22日、大阪府大阪市東住吉区の住宅にある駐車場で火災が発生した。住人である母親A、内縁の夫のB、長男は屋外に脱出したが、駐車場に隣接する浴室で入浴中だった長女(当時11歳)は焼死した。保険金目的の放火殺人事件だとして、AおよびBが起訴され、無期懲役が確定した。その後、再審で無罪が確定したえん罪事件。
https://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/visualisation/falseaccusation/case11.html(日弁連のホームページ)
午後1時。EITO大阪支部。会議室。
マルチディスプレイに、小柳警視正が何とも言えない顔で映っている。
数分、間があって、小柳が大前に言った。
「大前君。EITOエンジェルズで、父親のいない隊員は何人いる?」
「小柳さん、失礼ですよ、プライベート、個人情報ですよ。」と、小町は抗議した。
「済まん。それは分かっているが・・・。」
「まあ、ええやんか。アンケート取らんでも把握しています。約半数です。生別死別含めて。」
「ありがとう。実はな、変な手紙が府警宛に投函されて、迂闊にも、職員が開封した直後、落してしまった。そこへ通りがかった週刊誌記者に読まれてしまった。週刊前後左右だ。」
「ゴシップ誌やないですか。迂闊過ぎるな。で、文面は?」
「ヘレン君。画面に出してくれ。」
画面に、稚拙な文字で書かれた便箋が映った。
「父の日なんて、けしからん!!」
「なにコレ?子供みたいな下手くそな文字やけど、文面は、『おっさん』やな。」美智子が正直に言った。
「何がけしからんのか知らんけど、父の日やったら、今年は・・・6月15日やな。」と祐子が言った。
「15日やったら、まだ4日あるけど、15日に何かしでかす積もりかな?」稽古が言った。
「日にちだけやったら、何も手の打ちようがないんんとちゃいますん?チーフ、コマンダー。」と、ジュンが言った。
「警視正。文面以外に何か手掛かりないんですか?便箋も、使ったマーカーも流行のもんやと思いますけど。」
「え?そうなん?俺、見ても分からん。」と大前が言い、「便箋によっては匂いのするもんがあるから、手掛かりになりそうやな。」と、総子が言った。
「流石、チーフだね。真壁が言うから、その辺は調べている。とにかく事件性が出たら、よろしく頼む。」
画面から小柳が消えると、『真壁が言うから』、その辺は調べている。」と真知子が、とにかく事件性が出たら、よろしく頼む。」と、今日子が言った。
「お前らナア。上手いやないか、物真似。」
「兄ちゃん、褒めてどないすんのよ。」
「日にち決まってるんやったら、何かイベント絡みかな?日曜やし。取り敢えず、その辺調べようか。」
午後2時。
EITOエンジェルズは、一旦解散した。
訓練場に行ったのは、数人だけだった。
午後3時。
大阪府警の科捜研から、便箋から2つの指紋が検出された、と報告があった、と小柳は言って来たが、生憎EITO大阪支部には誰もおらず、大前に必ず目を通すように言ってくれ、と小柳が念押しをした。
午後3時半。
大前と紀子が買物から帰って来た。
「コマンダー。小柳警視正が必ず目を通すように、と言っておられました。」
ヘレンは、深刻な顔で大前に、印刷された資料を渡した。
大前は、顔色が変わった。
「ヘレン。藤島病院の電話番号、分かるか?」
午後4時半。藤島病院。
「ここに一時入院した、小俣誠一さんは、今、どこに?それから、これに見覚えは?」
「ああ、火事で一時転院してきた人ね。一昨日、元の中之島フェリシモ病院に戻りましたけど。この字・・・ウチに、むち打ちで通院している明神つかさちゃんの字に似てるわ。字、覚えて、何でも書けるよ、って自慢してた。」
「用賀君。すぐに行こう。ありがとうな、ワコちゃん。」
大前は、病院長で看護師の藤島ワコに礼を言うと、すぐに用賀の運転で中之島フェリシモ病院にバイクで向かった。
午後5時。中之島フェリシモ病院。
「それが、行方不明なんです。今朝まではいたんですけど。」と看護師長は暢気に言った。
「この病院に戻る前に、手紙を持ってませんでしたか?」
「ああ。搬送の途中で、投函してくれと頼まれて投函した、と職員が言っていましたが・・・。」
午後5時半。出雲大社大阪分院。
到着すると、総子から大前のスマホに電話があった。
「兄ちゃん、そこやない。長居公園や。植物園。」
午後6時。長居公園。植物園。
空が変わってきた。雨が降るかも知れない、空だ。
ベンチにぽつんと座っている男に、大前は声をかけた。
「俺のこと、覚えているか?山辺。」
「ヒデちゃん。」「お前は、父の日が嫌いやった。義理の父は、本当のお父さんやない。他人や。いつもソナイ言うてたな。長かったな。『えん罪』が晴れるまで。」
「ヒデちゃん。俺は独りぼっちになった。俺の病気もいつまで続くか分からん。」
「病院のボヤを見付けたんは、山辺やったって聞いたぞ。あの事件があったからやろ?ボヤは放火やなかったそうや。あの『ボク』に書かせた手紙、誰に出したかったんや。俺に出したかったんやろ?ちゃんと読んだで。ちゃんと届いたで。独りぼっちなんて言いなや。俺は、山辺の、あの事件がキッカケで不良止めた。更生して警察官になった。それ、一番喜んでくれてたやないか。今な。EITOの指揮官してるんや。」
「そういうの、って『内緒』ちゃうんか。」「親友に『内緒事』なんかあるかい!時々、見舞いに行ってやるよ。忙しい、なんて言ってたら、『まっちゃん』に怒られるわ。」
「妹のこと、覚えてるんか?」「当たり前や。迎えが来たな。病院に帰ろうか。」
山辺の返事は無かった。大前は、藤島病院の院長にも、中之島フェリシモ病院の院長にも山辺が長くないことを聞いていた。
迎えに来た、病院の看護師達は無言で山辺をストレッチャーに乗せて、救急車は発車した。
花ヤンと横ヤンが寄って来た。
「所長夫人から聞いてな。思い出したよ。あの事件。」
「警察官の資質の問題もあるが、昔は酷かった。『捕まえたら有罪』、そんな風潮があったことも事実や。大前さん、間に合って良かったな。」
口々に言う、花ヤンこと元花菱刑事と、横ヤンこと元横山刑事に「警察にでけへんことは、EITO大阪支部が引き受けるよ。」と総子が言った。
「何、生意気なこと言うてんねん。『いもうと』のくせに。」
「何やとー。」
大前も総子も泣いていた。
雨が降ってきた。
四人は、急いで地下鉄長居駅に走った。
涙雨・・・四人の心情に、そんな言葉が浮かぶ余裕があったかどうかは定かではない。
午後7時。総子のマンション。
帰宅後。総子は夫の寅次郎に事件を報告した。
「その報告書は出さんでエエ、江角探偵。」
南部は、総子を強く抱きしめ、唇を吸った。
知子は、そっと、出て行った。
―完―
※この作品は「東住吉事件」を参考にしていますが、エピソードはオリジナルです。
「何、生意気なこと言うてんねん。『いもうと』のくせに。」
「何やとー。」
大前も総子も泣いていた。
雨が降ってきた。