油断大敵は案外、実用性がある言葉なのだ。
2 《油断大敵は案外、実用性がある言葉なのだ。》
俺たちは校門を抜け靴を履き替えクラス分けの紙が貼り付けてある下駄箱奥の掲示板前に足を運んだ。
「あぁ...あぁ...アァーーーーーッ‼︎‼︎」
「何だ何だどうしたいきなりビックリすんだろ。こんな早朝から奇声を出すんじゃねぇ‼︎」
「綺ちゃん...。クラスが...。俺たちの絆が..繋がりが..輪が..AXISがぁぁぁ...。」
「後半2つは一緒の意味なんだよ。」
「とは言ったものの確かにちょっと寂しいかもな。でも普通に考えたら5クラスもある訳だし2年連続優斗と同じクラスになる方が確率は低いんだよ。」
「そうだけどさぁ..。綺は寂しくないのかよ‼︎‼︎‼︎」
「だから寂しいって言ってんだろ。てか第一今年17にもなる野郎2人が朝っぱらから何で寂しいって言い合わなきゃいけないんだよ‼︎ キモすぎんだろ‼︎」
「ハハハッ‼︎それは言えてるな‼︎だがよくよく考えれば寂しがる必要は無いんだぜ綺ちゃん‼︎ 俺は"2-B"クラス 綺ちゃんは"2-A"クラス つまり隣同士って訳だ、寂しくなったらいつでも俺が慰めにいってやるからさ⭐︎」
「何馬鹿な事言ってんだか。ほらいくぞ優斗。」
俺は何故か1人で気持ち良くなっていた優斗の襟を掴み半ば強引に俺たちのクラスがある2階へと引きずっていった。
そして各々クラスの前まで到着したので俺と優斗はそれぞれの教室へと足を踏み入れた。
(何なんだろうなぁこの緊張感。初めて訪れる場所でもない ましてやトラウマがあるという訳でもない。なのに何故かすっげぇ緊張すんだよなぁ...)
ドアを開けるともう20人程が既に席に座りそれぞれ隣または前後ろの席の生徒同士で会話を楽しんでいた。
どうやらスタートダッシュで躓いたらしい。
それどころかクラウチングスタートのポーズすらとれていたのかも怪しい。
「こりゃ今年も新しい友達は出来そうにないかもな」
俺は1人嘲笑気味に呟いた。
「随分と弱気な方ですね。」
自分の後方から聞き慣れない声が聞こえてきた。
反射的に振り返るとそこには推定170cmをゆうに超える背丈 華奢で線が細い体、だが胸部はその華奢な体からは想像がつかないほど大胆で一瞬目の錯覚を疑ってしまう程だ。
髪は黒髪だが時々陽の光に照らされ薄っすら茶色に見える綺麗なサラサラなロングヘア。
シュッとした綺麗な輪郭にフィットする様に綺麗に収まっている、控えめだけど何故か目を奪われる目鼻口。
まるで漫画の中から飛び出してきたみたいだ。
飛び抜けて美人という訳ではないが放っておけないような
すり抜けてしまいそうな透明感にその内ふと消えてしまいそうな、言葉では表現しがたい存在感が放つ天性の儚さみたいな感覚を全身で感じたような気がした。
俺はその稲妻にうたれた様な衝撃に体が硬直してしまった。
「すみません、道....開けてもらえますか??」
その瞬間俺はふと我に帰りテンパりながらも必死に言葉を紡いだ。
「ぁ..あぁ‼︎ ごめんごめん道塞いでて悪かったな。」
「お気になさらず。」
必要最低限の会話をした後に彼女は黒板に張り出されていた自分の席を確認して着席した。
「じゃあ俺もそろそろ自分の席を確認しに行くか。」
―クラスの席の配置― それは俺みたいに目立つ事を忌み嫌う陰の者からすれば命の次に...いや命と同等の価値があるといっても過言では無い大事な要素なのである‼︎
席が前の方になればなるほど当然先生とのコミュニケーションの回数も増える訳だし後ろの席の生徒からの視線もバチバチに感じるわけだ。
と言いたい所だが今の俺には焦りという感情は何も無かった。
この意味が分かるか⁇
それは最初の席決めは"名字順"と言う事だ。
俺の名字は"吉田" だ。
もう分かるよな⁇
"や ゆ 【よ】" なんだよ‼︎‼︎‼︎
この勝負...貰ったな。それ以前に勝負になってすらいないがな。ハッハッハッハッハッ‼︎‼︎
―1番前だった―
(なにィィィィィィィィィィィィィィィッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎)
(何かがおかしいッ‼︎何らかの遠隔攻撃を受けているのかッ‼︎‼︎この俺が1番前.....だと......。)
この学校は学年毎に微差はあるが平均1クラス30人だ。
と言うことは今俺の後ろには天文学的確率で5人奇跡的に人間が存在しているという事になる。
そんな事が.....ありえるのか.....。
*有り得ます。
まぁ多少目眩はしたがこうなってしまった以上仕方がない目立たないように次の席替えまで過ごしていこう。
俺は始業式まで残り15分程時間があることを確認して自分の机にぐったりと体を預けた。