魔族の襲撃、そして父の過去
王都を包む異様な空気に、フィリアは胸を高鳴らせながら訓練を終えた。魔族の襲撃が刻一刻と迫る中、彼女は父と共に準備を進めていた。
「フィリア、今日はお前に大事なことを教える」
レオンは、剣を手にしながらも、どこか遠くを見つめていた。
「大事なこと?」
「お前には、これから先、数多の選択をしなければならない。その一つ一つが、お前の命を左右する」
フィリアは真剣に父の言葉に耳を傾けた。
「今、お前が戦っているのは、魔族だけではない。俺たちの過去、そして王国が抱える闇とも戦うことになる」
フィリアは眉をひそめた。
「過去……?」
レオンは無言で剣を振るい、その一振りで巨大な岩を切り裂いた。
「俺が言っているのは、魔族の王が知っている“真実”だ。俺たちヴァルグレイヴ家は、かつて魔族との間で交わした契約がある」
その言葉に、フィリアは愕然とした。
「契約? それって、どういうことですか?」
「……長い話になるが、俺たちが魔族との戦争を終結させた理由、そして世界が今、どうしても再び混沌とするか。それが、全てその契約に関わっている」
フィリアは目を見開き、父の言葉に耳を傾けた。
「魔族王ダリウス。あいつは、ただの魔族の王じゃない。かつて、俺たちが魔族の大軍を退けたとき、あいつとの間で交わした誓約が、今でも世界に大きな影響を与えている」
「誓約……」
「そうだ。もしも魔族が再び世界を侵略しようとした場合、俺たちヴァルグレイヴ家はその責任を取ることになっている。すなわち——」
レオンは一度、言葉を切った。
「お前が戦う理由は、ただ魔族を倒すためだけじゃない。お前が戦うことで、俺たちの過去を清算し、再び魔族の脅威を取り除くんだ」
フィリアはその言葉に、自分の役割の重大さを感じ取った。
「じゃあ、私たちが戦わなければ……?」
「……世界が崩れる」
レオンの言葉は、まるで氷のように冷たく響いた。
その時、王城の鐘が鳴り響き、遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。
「来たな……」
レオンは剣を握りしめ、冷徹な目でフィリアを見つめた。
「魔族の軍勢だ。準備を整えろ。お前の覚悟を見せる時だ」
フィリアは深呼吸をして頷いた。
「はい、父さん!」
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王都の城壁に立ったフィリアは、遠くに広がる魔族の軍勢を見つめていた。その数は膨大で、まるで闇が押し寄せてくるような威圧感を放っている。
「お前がやらねば、誰がやる? 俺たちの時代は終わった。だが、お前には未来がある」
レオンの言葉がフィリアの耳に残る。
彼女はその言葉を胸に、剣を構えた。あの日から、父の言葉を背負い、戦士としての覚悟を決めた瞬間だった。
「魔族王ダリウスが来る前に、王都を守る!」
フィリアは叫び、仲間たちと共に戦場へと駆け出した。
王都の城壁を越え、魔族との戦闘が始まった。フィリアは父の教えを胸に、次々と襲い来る魔族を倒していく。
だが、その戦いの最中——
「ふふふ……」
突然、フィリアの背後から声が響いた。
「誰だ?」
フィリアは警戒し振り返る。
そこには、一人の黒いローブを纏った男が立っていた。その顔は見えないが、闇の中からただならぬ気配を放っている。
「私はダリウスの使者クロム。お前たちがどれだけ戦おうと今さら遅い」
クロムは冷ややかな笑みを浮かべて言った。
「魔族の王が来る。その時、お前たちの戦いは無意味なものになる」
その言葉に、フィリアは思わず足を止めた。
「何……?」
「お前は、まだ知らないだろう。お前の父親が、かつて交わした契約の内容を」
クロムはニヤリと笑い、闇の中に消えた。
その言葉が、フィリアの胸に不安の種を植え付ける。
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その夜、王都の広場にて、ついに魔族の王ダリウスが現れた。
彼はまるで闇そのもののような存在で、周囲の空気を一瞬で凍りつかせる。
レオンは、鋭い目でダリウスを見つめながら言った。
「来たか、ダリウス」
ダリウスは一歩、レオンに近づき、その冷徹な目で彼を見下ろした。
「ヴァルグレイヴ……お前も老いたものだ。だが、お前があの誓約を守ろうとする限り、俺たちの戦いは終わらん」
その言葉が、フィリアの耳に突き刺さった。
「誓約……?」
フィリアは、父の過去に秘められた真実を、さらに深く知ることになる。