試練の幕開け
「フィリア、いいか。これからお前に課すのはただ一つ、生き残ることだ」
レオンの言葉が、王都の訓練場に響いた。
フィリアは深呼吸をして、鋭い目で前を見据えた。父の言葉には、重みがあった。王都に来てから数日、訓練は厳しく、まるで父が試すかのような内容ばかりだった。
だが、彼女はそれに耐えてきた。
「お前は魔力の素質がある。しかし、魔法と剣術の使い方は全くの別物だ。だから、今日は魔法と剣を両方使う戦いをお前に課す」
フィリアは緊張しながらも、決して背を向けなかった。どんなに厳しくても、逃げるわけにはいかない。
「今日はお前の試験だ。魔族の軍勢が襲ってくる前に、お前がどれほど戦えるか、見てみる」
その言葉に、フィリアは内心で震えた。
王都が魔族に包囲される日が近づいているという。レオンが呼び寄せられた理由も、魔族がそれほど迫っているからだ。
彼女の目の前に現れたのは、巨大な木製のターゲット。そしてその周囲に、大小様々な魔法陣が描かれていた。
「この魔法陣の中で、ターゲットに剣を命中させるんだ。ただし、魔法を使ってはいけない」
「えっ?」
フィリアは驚きの表情を浮かべた。
「魔法を使わずに、どうやって?」
「お前が魔法に頼る限り、真の戦士にはなれない。お前の力は魔法だけじゃない」
レオンはその目で、フィリアを見守った。
彼女は自分の剣を握り、練習のように振るってみた。
「目を閉じて、心を落ち着けろ。お前の剣は、お前の意志だ。それが見えてこそ、剣は正確に振るえる」
フィリアはレオンの言葉を信じ、剣を構えた。目を閉じ、深呼吸をして、体の中で力を集中させる。
そして、目を開ける。
一閃。
剣が一瞬で光を帯び、ターゲットの真ん中を見事に貫いた。
フィリアは思わず息を呑む。
「やった……!」
「いいだろう」
レオンが頷く。
「だが、これはまだ基礎に過ぎん。戦場でそれをどう活かすかが問題だ」
その言葉に、フィリアは再び気を引き締めた。
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その後、彼女の剣術訓練は続き、王都での数週間が過ぎていった。レオンはフィリアに絶え間ない訓練を課し、時には優しく、時には厳しく、成長を促していった。
だが、そんな日々の中でも、ある出来事がフィリアを悩ませるようになっていた。
「フィリア、あなたはこれから王族と直接接触することになるわ」
王女エリスが、訓練場でフィリアに声をかけてきた。
「王族と……?」
フィリアは、少し驚きながらもその言葉を受け入れる。
「あなたは、私の信頼する戦士として、王国を守るために戦って欲しい。レオン卿と共に、魔族を迎え撃つ準備が整ってきた」
「王女様、私にはまだ足りないことだらけです。魔法も剣術も、もっと修練しなければ……」
「あなたは、もう十分に強い。ただし、覚悟を決めなければならない。レオン卿と同じように、命を懸けて戦う覚悟を」
その言葉に、フィリアは一瞬立ちすくんだ。
——命を懸ける覚悟。
それは、父が常に持っていたものだ。彼女はその覚悟を引き継がねばならない。だが、自分にはまだ足りないものが多すぎると感じていた。
「お父さん」
訓練を終えた後、フィリアはレオンのもとに向かう。
「何だ?」
「……私、強くなれるでしょうか?」
レオンはしばらく黙って彼女を見つめ、そしてゆっくりと口を開いた。
「強くなれるか、ではなく、強くなるしかない。お前が戦わなければ、王国も村も、全てが滅ぶ」
その言葉が、フィリアの心に深く響いた。
「お前は一人じゃない。私が支える。そしてお前も支えてくれ」
「……はい!」
フィリアは力強く答えた。
その日、彼女は新たな覚悟を持って訓練に臨み、日々を戦士として過ごす決意を固めた。
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そして、ある日——
王都の空に、異様な暗雲が立ち込めた。
魔族の軍勢が、ついに王国に迫っている。
「フィリア、準備はできたか?」
「はい、父さん!」
フィリアは剣を手にし、しっかりとした足取りで前へ進んだ。
——魔族との決戦が、今始まる。