王都の召喚、そして少女は運命を知る
「フィリア、お前は本当に決めたのか?」
レオンの問いかけに、フィリアは強く頷いた。
「うん、決めた。私は、ただのお父さんの娘じゃない。私自身の戦士になりたい」
父の目が一瞬、遠くを見つめる。
「……ならば、覚悟を決めろ」
その言葉に、フィリアは気を引き締めた。
魔族の襲撃から数日が経ち、村はようやく平穏を取り戻していた。だが、王都からの使者が現れ、レオンに召喚状を手渡す。
「戦鬼ヴァルグレイヴ、王国の命により王都へ召集する。魔族の再来を防ぐため、再びその力を貸してほしい」
レオンはその紙を無言で受け取ると、深くため息をついた。
「俺の力か。……まさか、こんな形で再び戦場に戻ることになるとはな」
「でも、お父さん、行かなきゃいけないんでしょ?」
フィリアはそう言って、レオンを見上げる。
その目には、決意が満ちていた。彼女はもう、あの日のように迷っているわけではない。
——自分の力で世界を守る。
その覚悟が、フィリアの心に根を下ろしていた。
「うん、行くさ。だが、お前も行くんだ」
「えっ?」
「王都での生活は、俺一人では足りない。……お前には、戦士としての力を試される時が来る」
「……!」
レオンの言葉に、フィリアは驚きと興奮を覚えた。
王都へ向かう道中、彼女は心の中で何度も誓った。
私は、絶対にお父さんのような強い戦士になる。
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王都に到着したとき、フィリアはその壮大さに圧倒された。
壮麗な城壁、巨大な塔、そして数多くの兵士たちが行き交う広場。王都は、まさに世界の中心と言える場所だった。
レオンとフィリアが王城の前に足を踏み入れると、すぐに王国の最高司令官が出迎えた。
「ヴァルグレイヴ卿、お待ちしておりました」
「久しぶりだな、ギルバート」
レオンは古い友人の顔を見て、微笑んだ。ギルバートはレオンのかつての仲間で、現在は王国軍の中でも最も信頼される指揮官だ。
「お前も変わらないな。だが、何があったのか、今回は王都に召集されたのか?」
「簡単には言えん。まずは、お前も見たほうが良い」
ギルバートはそう言うと、二人を王城の内部に案内した。
そこに待ち受けていたのは——一人の高貴な女性。
金色の髪、鋭い青い瞳、そして威厳のある佇まい。彼女は王国の王女、エリス・アースティアだった。
「レオン・ヴァルグレイヴ卿、あなたがここに来てくださったことに感謝します」
エリス王女は、優雅に頭を下げた。
「王女様、無理を言ってすみません」
「いいえ、ヴァルグレイヴ卿のお力を借りなければ、私たち王国は確実に滅びます」
その言葉に、フィリアは疑問を感じた。
「どういうことですか? 王女様」
「……実は、魔族の襲撃が頻繁になり、王国はこれ以上防衛することができません」
王女は、無表情で言ったが、その瞳には深い恐怖が宿っていた。
「そして、このままだと……魔族の軍勢が王都を包囲する日も近い。私たちには、あなたの力が必要です、レオン卿」
「だから、俺を呼んだのか」
レオンは冷徹な眼差しで王女を見つめた。
「その通りだ。そして、フィリアさん——」
王女は次に、フィリアに目を向けた。
「あなたにも、力を貸してほしい」
「私に?」
フィリアは驚きの表情を浮かべる。
「レオン卿の娘であれば、あなたにもその力があるはず。魔族を倒すために、戦士としての力を示してください」
「……私も?」
フィリアは、自分が王女に求められた意味をすぐには理解できなかった。ただ、父が戦士として呼ばれたその理由を知っていた。
「わかりました。私も戦います!」
その決意を口にした瞬間、フィリアの内に眠っていた魔力が、突如として解放された。
それを見たレオンは、再びその目を細めた。
「お前も、やっと覚悟を決めたんだな」
「うん、お父さん。私、戦う!」
その時、王都を包むように、不穏な空気が広がった。
何か、巨大な闇が迫っている——
そしてその影が、フィリアの運命を大きく変える。




