試練の始まり
影の使徒との戦いが終わり、フィリアとセリーネは再び静かな森の中に立っていた。影の使徒が消えた後、残されたのはその冷徹な言葉だけが耳に残っていた。
「まだ足りない…」
フィリアは呟きながら、力を使ったことで少し疲れた体を感じた。
「フィリア、大丈夫?」
セリーネが心配そうに問いかける。
「うん、大丈夫。ちょっとだけ息を整えれば」
フィリアは微笑みながら答えたが、その笑顔にはどこか力が込められているように見えた。
だが、心の中では影の使徒が言った『限界』という言葉がぐるぐると回っていた。それは、フィリアにとって大きな挑戦だった。自分の力には限界があるのだろうか。あんなに必死に戦ったのに、それでも足りないと言われたことが、彼女の心を重くした。
「私の力には限界があるのかもしれない…」
フィリアはつぶやく。
「フィリア、そんなことない」
セリーネは優しく言った。
「あの使徒の言葉は、ただの挑発よ。あなたの力はすごく強い。でも、まだ完璧には使いこなせていないだけ。それは、時間をかけて学べばいいこと」
フィリアはセリーネの言葉に少し心が軽くなる。だが、どうしてもあの使徒の言葉が引っかかって離れなかった。
「でも、私がもっと強くならなきゃ、誰かを守れない」
フィリアは空を見上げながら心の中で誓った。
「だから、もっと強くなりたい。」
その時、突然、森の中から別の気配が感じられた。それは、先ほどの影の使徒とは違う、もっと人間らしい気配だった。振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
その女性は、長い黒髪をなびかせ、優雅な雰囲気を漂わせていた。しかし、その目にはどこか鋭いものが宿っており、ただの通りすがりには見えなかった。
「おや、お前たち、また新たな挑戦者か?」
その女性がにっこりと微笑む。
「あなたは?」
フィリアは警戒しつつ尋ねた。
「私の名はリーナ」
女性は自信に満ちた笑顔を見せる。
「影の使徒に負けた後に現れるのは、運命の導きとも言えるだろう」
「運命?」
セリーネがその言葉に反応した。
「あなたも、影の使徒のような者なの?」
「ふふ、いいえ」
リーナは少し笑って首を振った。
「私はその使徒とは違う。ただの通りすがりの者だ。しかし、君たちの力には興味がある」
「興味?」
フィリアは眉をひそめた。
「どういうこと?」
「簡単に言えば、私は君たちの力を試したいだけだ。」
リーナは軽く肩をすくめた。
「君たちがどれだけ強いのか、そしてその力をどう使いこなすのか、それを見てみたくてね」
その言葉にフィリアの心が躍ると同時に、警戒心も強くなる。リーナは明らかに、ただ者ではない雰囲気を持っていた。
「あなたが私たちに試練を与えるつもりなら、私は受けて立つ!」
フィリアは決然とした声で言い放つ。
「うふふ、いい返事だ」
リーナは楽しそうに微笑んだ。
「では、試練を始めよう。」
その瞬間、周囲の風が一変し、リーナの周りに赤い光が集まっていった。光の粒子が渦を巻き、次第に巨大な魔法陣が空に描かれた。フィリアはその光景に驚きながらも、すぐに剣を握りしめた。
「これは…どういうことだ?」
セリーネが驚きの声を上げる。
「私の力の一部さ」
リーナはゆっくりと歩み寄りながら言った。
「君たちがその試練を乗り越えられた時、君たちもまた、新たな力を得るだろう」
「新たな力…?」
フィリアはその言葉を反芻しながら、剣を握りしめた。試練の開始を感じるその瞬間、フィリアの胸は高鳴っていた。
「さあ、来なさい」
リーナは静かに言った。
「私の力を試してみるがいい」
フィリアはその挑戦に応じるべく、一歩踏み出す。そして、リーナとの戦いが始まった。
リーナの魔法は圧倒的だった。彼女の手のひらから放たれる炎や氷、雷の魔法は、フィリアの剣技では到底防ぎきれない。しかし、フィリアはあきらめなかった。彼女の心に秘めた決意が、次第に力となり、剣の刃に宿っていく。
「私は絶対に負けない!」
フィリアは叫びながらリーナの放つ魔法をかわし、逆に反撃を試みる。
リーナはその反撃を冷静に受け止め微笑んだ。
「いいね、君はなかなか面白い」
そして、戦いは激しさを増していった。魔法と剣技、速度と力のぶつかり合い。フィリアはその戦いの中で少しずつ、自分の力を引き出し始めていた。




