新たな敵、再び
フィリアはセリーネと共に広場を後にし、静かな森の中を歩いていた。まだ心の中にはヴァルターとの戦いの余韻が残っていたが、その力を使いこなせなければならないという重圧も同時に感じていた。自分の力は、ただ強いだけでは足りない。制御できるようにならなければ、いつかそれに飲み込まれてしまう。それを理解した彼女は、さらに成長しなければならないという強い決意を胸に秘めていた。
「フィリア、少し休憩しないか?」
セリーネが提案する。
「ううん、大丈夫。少し歩けば落ち着くから」
フィリアは微笑みながら答えたが、その瞳にはまだ決して揺らがない意志が込められていた。
二人はしばらく歩き続けた。森の中は静かで、木々の葉が風に揺れる音しか聞こえない。だが、フィリアの心は静まらない。ヴァルターとの再戦が頭をよぎる。そして、その後ろに隠れている更なる敵の存在が彼女を不安にさせていた。
突然、森の中から不穏な気配が漂う。その気配は徐々に近づいてきて、フィリアの敏感な感覚を刺激した。
「何かいる…」
フィリアが低くつぶやく。
セリーネもその気配に気づいたようで、警戒の色を深めた。
「気をつけろ、フィリア。あれは…」
その時、森の中から突如として現れたのは、異様な存在だった。身の丈を超えるほどの大きな影が、木々の間を縫って出てきた。それは、まるで人間のような姿をしているが、全身が黒いオーラに包まれている。目は血のように赤く、鋭い爪を持つその存在は、まるで魔物のようだ。
「お前は…何者だ?」
フィリアは思わず剣を握りしめて問いかけた。
その存在は冷酷な笑みを浮かべて答えた。
「私は『影の使徒』、そしてお前のような者を待っていた。」
「影の使徒…?」フィリアはその言葉に首をかしげた。
「そう、私はお前が覚醒することを知っていた。そして、今こそお前を試す時が来た」
影の使徒はゆっくりと歩み寄りながら、低く笑った。
「お前の力は、まだ完全には覚醒していない。だが、私はその力を引き出す役目を持っている」
その声には、どこか冷徹な響きがあった。
セリーネが先に反応した。
「あなた、何を言っているの!? 何を企んでいる?」
影の使徒は不敵に笑った。
「私の目的はただ一つ。お前たちの力を試し、最終的にはその力を手に入れることだ」
フィリアはその言葉にすぐに反応した。
「私の力は、誰にも渡さない!」
「それはどうかな?」
影の使徒は指を鳴らすと、周囲の木々が突如として暴風に揺れ、無数の影がフィリアとセリーネを取り囲んだ。その影は、まるで生き物のように動き、二人の周りをぐるぐると回り始めた。
「この力、これが私の使う『影魔法』だ」
影の使徒が楽しげに語る。
「影を操り、影の中に潜む魔物を呼び出してお前たちを圧倒する。」
その瞬間、フィリアの背後から突如として現れた影の怪物がその大きな爪を振りかざし、フィリアに襲いかかる。フィリアは咄嗟に身をかわし、剣を振るったが、影の怪物はそれをすり抜けるように動き、再び襲いかかろうとした。
「くっ…!」
フィリアはその場で剣を使って反撃し、怪物の爪を切り裂く。だが、その力を完全に封じ込めるにはまだ足りない。
セリーネも剣を構え、影の使徒に向かって突進した。しかし、影の使徒は冷静に手を振ると、セリーネの動きを止めるように周囲の影が立ちふさがる。
「これが私の力。お前たちはまだ足りない。力を振るうことはできても、その力を完全に操るには経験と覚悟が必要だ」
影の使徒はゆっくりと語りかける。
フィリアはその言葉に鋭く反応した。
「あなたの目的は、私の力を手に入れることだろう? でも、私は負けない! 私は自分の力を守る!」
その瞬間、フィリアの剣が再び輝きだし、強い光が闇を切り裂いた。彼女の心の中にある決意が、光として現れたのだ。
「これが…私の力だ!」
フィリアは叫びながら、光の刃を一気に振り下ろす。影の怪物はその光の力に耐えきれず、崩れ落ちていった。
だが、影の使徒は冷笑を浮かべて言った。
「それでも、お前はまだその力を完全には使いこなしていない。覚えておけ、フィリア。お前の力には限界がある」
「限界…?」
フィリアはその言葉に心を揺さぶられるが、すぐに顔を上げた。
「限界なんてない! 私が決める! 私は絶対に負けない!」
影の使徒は無言で立ち去り、森の中に消えていった。フィリアはその背中を見送りながら、心の中で誓った。
「私はもっと強くなる。どんな試練にも負けない!」




