レオンの怒り爆発!
「お前の娘に用がある」——その一言が、地獄の幕を開けた。
「……お父さん」
「離れるな。動くな。喋るな」
レオンの声は、まるで氷の刃だった。
フィリアは息を呑んだ。父の剣気が、夜の森全体を圧倒している。まるで——空間そのものが、彼の一振りで断ち割られそうな錯覚すらある。
仮面の魔族将が、にたりと笑った。
「娘を差し出せば、村は無事で済む。言葉を選べ、戦鬼。老いた今、全盛期の力が出せるとは限らん」
その瞬間。
何も見えなかった。
音すら消えた。
……次に聞こえたのは、「ゴシャアアァン!」という爆裂音と、魔族兵の肉が潰れる音だった。
一撃。
たった一撃で、前衛にいた魔族六体が、文字通り粉砕されていた。
「俺の全盛期がいつだったか、お前にわかるか?」
レオンは、剣を鞘に収めていた。
「今だよ」
魔族将が一歩、退いた。
その足が、震えている。
——恐怖。
これが、世界を救った本物の英雄の力。
「ひ、引け……! 全軍、退けえええええ!」
魔族は蜘蛛の子を散らすように逃げた。だが、レオンは追わなかった。
「フィリア」
「……っ、なに?」
「見たか? これが戦いだ。殺せば終わる。迷えば殺される」
フィリアは喉を鳴らした。身体が震えていた。
でも——怖かったのは、魔族じゃない。
お父さんの目だった。
あんな、感情のない目、初めて見た。
父が戦場に戻れば、人間じゃなくなることを、彼女は初めて知った。
「……私は」
「?」
「私は、お父さんみたいには、なりたくない」
レオンが、眉を動かした。
だが、次の言葉は——
「でも、絶対にお父さんを超えるから。私の剣で。私の魔法で。私の戦い方で!」
レオンは黙って頷いた。
その言葉に、かつて失った仲間の残影が重なったからだ。
『自分の道を、自分の剣で拓け』
その言葉を、レオンはフィリアに託した。
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その夜、王都では会議が開かれていた。
「レオン・ヴァルグレイヴの生存を確認。魔族の将軍を一蹴し、娘と思われる少女も同伴していたとの報告があります」
「——動くか、ついに」
「ええ。最強の剣士と、その後継者。あの親子が戦場に戻れば、世界の均衡が崩れる」
「ならば——抑えるしかない。王国としてもな」