表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/30

契約の誓い、血の継承

 祭壇を包む霧が完全に晴れたとき、そこに広がっていたのは、古びた石造りの広間だった。


 壁一面には古代語で綴られた誓約の文字。中心に置かれた石碑には、かつてこの地で結ばれた契約の象徴たる紋章が刻まれていた。


「……父もここで、契約を結んだの?」


 フィリアが呟くと、メルティアが静かに頷く。


「ええ。レオン=ヴァルトもこの場所に立った。ただし、彼は誓いではなく拒絶を選んだの」


「拒絶……?」


「そう。彼はあのとき、契約を否定し、己の力で生きる道を選んだ。戦鬼としての孤独な道を」


 言葉の意味を、フィリアはすぐには理解できなかった。


 だが、心の奥底で、彼女はすでに気づいていた。


 父がなぜ、あのとき娘を巻き込まぬために姿を消したのか。


「……私は違う。逃げない。たとえ契約に呑まれるとしても、私は継ぐ。この力も、この血も……父の願いも!」


「ならば、証明してみせて」


 メルティアの言葉と共に、契約の石碑が淡く光を放った。


 その輝きがフィリアの足元に魔方陣を描き、空間を揺らがせる。


 そして——現れたのは、獣人の守護者。銀毛の魔族ガルア。


 その存在は、ただそこにいるだけで空気を震わせるほどの威圧感を放っていた。


「人間の娘よ。おまえに、継ぐ資格はあるのか?」


「ある! 私は——」


「名乗れ。血の名を。誓いの言葉を」


 試されるのは、力ではない。


 意志。


 それこそが、契約に必要な鍵。


 フィリアは剣を手に、瞳を逸らさずに叫んだ。


「私は、フィリア=ヴァルト! 戦鬼レオンの娘! 私はこの血を誇りに思い、この力を誓いに変える!」


 その瞬間——魔方陣が赤く燃え上がる。


 空間を満たす力が渦を巻き、フィリアの体に刻まれた紋様が共鳴を始めた。


 だが、それと同時に——記憶が流れ込んでくる。


 父がここで何を思い、何を選び何を背負ったのか。


 そして、彼が最後にこの地を去る時に残した、ただ一つの言葉。


「もし我が子がここに辿り着くのなら——私は願う。彼女が、自分の意志で選び取ることを」


「……父さん……!」


 涙が頬を伝う。


 けれど、それは弱さではなかった。


 それは、彼女が選んだ証。


 力を受け継ぐ者ではなく、意志を繋ぐ者として。


 ——そして。


「……その覚悟、確かに見届けた」


 ガルアが静かに膝を折る。


「汝の血と意志、確かに継承と認めよう。今より汝は《誓約の継承者》——新たなる契約者である」


 その瞬間、石碑が強く輝き、フィリアの剣に新たな紋章が刻まれた。


 それは、かつてレオンが拒絶し、フィリアが選び取った証。


 世界に一つだけの継承の印。


 だが——それと同時に空間が再び揺らぐ。


「っ……これは……!」


 セリーネが叫ぶ。


「契約の波動が……何者かに感知された!?」


 ガルアが顔をしかめる。


「来るぞ……もう一つの継承者が」


「まさか……!」


 フィリアが振り向いた先——


 空間を裂いて現れたのは、一人の男。


 赤い外套、氷のような瞳。


 そして、額に浮かぶ契約の痕。


 「レオン……!?」


 いいえ、違う。


 その男は、かつてレオンと同じ契約の刻印を持っていた——


 「ゼノ=ヴァルト。レオンの兄であり、元・魔契の継承者」


「久しぶりだな、フィリア。いや、レオンの娘よ」


 彼の唇が歪む。


 「契約」は終わってなどいなかった。


 今、再び——血と誓いを巡る戦いが始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ