祭壇への旅路、そして封じられた誓約
契約の祭壇は、王都南方の霧深き山『神哭の峰』にある。
かつて王家と魔族が誓いを交わした場所。今は立入禁止の封印区域とされ、記録からも抹消されていた。
だが、フィリアの手に渡った『王の鍵』は、その場所を示していた。
そして、もうひとつ——あの本『魔契記録書』の中に記されていた一節。
「契約の継承者たる者、封印の祭壇にて自らの血を捧げ、運命の盟誓を新たにせよ」
その意味を確かめるために。
そして、父の真実を知るために。
フィリアたちは旅に出た。
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「まさかまた、こんな旅になるとはなー……」
軽口を叩くのは、ツバサ。王都騎士団に一時復帰し、フィリアの護衛として同行を申し出た。
「文句はあとにして。霧が濃くなってきた、視界を保て」
セリーネが眉をひそめ、魔導具を取り出す。
その小さな水晶玉が、かすかな青い光を放ち始めた。
「……妙ね。これは、結界の反応。封印は、まだ生きてるわ」
「つまり、誰かが維持してるってことか」
ツバサの目が鋭くなる。
その瞬間、霧の奥から……何かが動いた。
黒い影——
否、鎧をまとった異形の騎士たちが現れた。
「迎撃準備! あれは魔契の守護兵!」
「こっちも契約者だって教えてあげないとね!」
フィリアは剣を抜く。
銀の刃に、わずかな赤い紋様が走る。
それは、彼女の契約が覚醒に近づいている証だった。
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戦いの中で、彼女は確かに感じた。
剣が応える。
意志が通じる。
それはまるで——父の背中に届くかのような、懐かしくも力強い感覚だった。
「……負けない。私は、ただの娘じゃない。戦鬼の血を継ぎ、意志を繋ぐ者!」
剣が閃き、騎士たちの影を切り裂く。
その最後の一体を倒した瞬間、霧が少し晴れ、石畳の階段が姿を現す。
その先にあるもの。
《契約の祭壇》
フィリアがゆっくりと歩みを進めようとした、その時——
「——立ち止まって。先へ進む資格、あなたにはまだない」
聞き覚えのある声。
黒髪の少女、メルティアが再び姿を現す。
「ここは、誓いを立てる場所。けれど、それは同時に試練の場でもある。あなたの剣、あなたの契約。それが本物か試される」
「試すって……あなたが?」
「ええ。けれど、今度は私だけじゃない」
彼女の背後から、影が現れる。
鋭利な爪、淡い銀の毛並み。
魔族の獣人族、しかも高位種——
「彼は、契約の守護者。王と契約せし者を選ぶ選定者」
咆哮が響く。
大地が震え、祭壇の結界が開かれていく。
それは、契約を結ぶための舞台。
だが同時に、心の弱さや偽りを許さぬ誓約の地。
「来なさい、フィリア。ここが、あなたの物語の芯よ」
フィリアは息を吸い込む。
剣を構え、決意と共に一歩を踏み出した。
「見せてあげる。私の意志、私の戦い。そして……父の背中を継ぐ者としての覚悟を」
光と影が交錯する中。
試練の幕が、静かに上がる。




