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季節は流れて

 マリーエッタを使用人のひとりとして子爵のもとから連れ去ったのが冬のはじめ。それから本格的な冬に差し掛かり、陽のあたたかな日差しが春の訪れを見せ始めた頃、オレの身の回りはいくつか少しばかりの変化がうまれていた。

 その一つが、オレの婚約者でマリーエッタの姉であるマーサが妹の様子をしるために、オレのもとへ折をみて顔を出すようになったのはちょっとした変化であった。

 その気持ちはわからなくもないが、毎度のように「妹は元気なのか」や「酷いことをしていないのか」など口にして、最後は「私にならどんな扱いをしてもかまわないから妹だけは」と懇願するのはやめて欲しい。何気に胸の奥が痛むんだよ。

「しっかりと仕事をするならそんなことはしない」と、その都度伝えてはいるが、オレという人間の信頼度がマイナスを振り切ってることもあって納得はしなかった。その証拠に、マーサはどんなに邪険に扱おうとなかなか帰ろうとしないのだ。そのあまりの粘り強さに根負けして「一度だけだぞ」と使用人として教育を受けていたマリーエッタを呼んで対面させたのが良くなかった。


「マリーっ」

 そううれしそうに駆け寄るマーサと「姉さまっ」抱き合う姉妹。それを傍目に、オレは椅子に腰かけたまま「はぁ」と大きなため息をつくことになった。


 マーサは意外と強情だな。まぁ、姉妹の再会だ。今日だけは大目にみよう。


 しばらく、終わりそうにないと察したオレは側仕えの名を呼んだ。

「アーミア。本をよこせ」

 すると、アミーアは本棚から一冊の本を抜き取ってオレに手渡した。それはオレが昨晩読んでいた本で、さらに「お飲み物をご用意いたしましょうか」とお伺いすらたててきた。

「程度の低い茶葉でいい」

「二人の分ですよね。お待ちください」

 という感じで、いやほんとうにめっちゃ有能なのよ。普段は笑みとかはまったくみせないけどな。少しずつ関係を築いて阿吽の呼吸なんて大それたものじゃなくても、できる従者として少しでも長く仕えてくれればいいなと密かに考えている。

 どうもシャリーヌの計らいで講義を同じように受けはじめたことがきっかけになって、少しばかりの親近感が芽生えたようで働きが格段によくなったような気がする。あとはしっかりと仕事をしていれば害はないと判断されたのかもしれないな。


 そういった内心を隠しながら、オレは眼前にある感動の再会を果たしている姉妹を放っておいて読みかけの本に視線をめぐらさせた。


「ーーーイヌさま、ボーセイヌ様」 

 アミーアの手が横からオレの肩に置かれている。どうやら眠ってしまっていたようだ。

「私はそろそろお暇いたします。見送りは必要ありません」

 そんなしっかりと発した言葉とは裏腹に、視線のさきになるマーサの目元がすこし赤く腫れているのは気のせいではないだろう。

「そうか。アミーア。いつものやつを渡してやれ。それではな」 

 アミーアがオレが調合したゲーム名称でいうところの傷薬(改)を手渡した。


 傷薬(改)は、傷の回復と状態異常を正常に戻す効果がある。これは、ゲーム序盤にある状態異常特化の洞窟を攻略するのに多用したアイテムの一つだ。出所は、いつの間にか骨董市と化し始めた市場の片隅で見つけたろ過装置を使って生成したものになる。 


「ボーセイヌ様。度重なるお心遣いに感謝を申し上げます」と頭を下げて退出していく婚約者をオレは見送った。

「もういいだろう。マリーエッタは職務に戻れ」

「はい」と静かに礼をしてあげたマリーエッタの顔にも涙のあとがうかがえた。部屋はアミーアとふたりになった。

「やつら、子爵のことはなにか言っていたか」

「子爵はすっかり元気を取り戻したと喜んでいたので、問題ないじゃないかとおもいます」

「ふん。焼き付けでも効果はあったか」

 傷薬(改)を作るには、ろ過装置に傷薬三つ分をぶちこんで薬効を増し、ドグの実と痺れキノコを煎じて混ぜ合わせることで完成する。強い薬効が毒や痺れの成分を中和して薬に変化するらしいが詳しいことはわからん。

「マーサ姉妹に恩を売れて、実験もできた。まったくもって、オレには得しかないな」 

「いくつもある野草に関する本をこっそりいくつも読んだ甲斐がありましたね」

「オレは実験に必要な知識を欲しただけだ。わかっているだろうが、間違ってもほかのものに口外するなよ」

「はいはい。わかってますよ」

 アミーアが、こうしてオレとふたりのときは講義のときと同じように気安い態度をとるようになったのは一番の大きな変化かもしれない。とはいえ、ひとの目があるところで尊大な態度はやめることはできない。どこに目があって、耳があるかわからないからな。

 マリーエッタのついては、もともと地頭が優れていたようで変なプライドを持つこともなく使用人の仕事のコツを早々に掴むと必要なマナーをどんどん習得していった。

 そんなに優秀であるなら、さらに伸ばしてやるのもいいかもしれないとシャリーヌの講義の際に給仕として控えさせるようにした。

 さすがに側仕えのアミーアと違って俺の専属にする予定とはいえただの使用人だ。講義中に一緒に座らせて受けせさせるわけにはいかないので、漏れ聞こえる内容で勝手に学ばせるスタイルにした。

 それには、アミーアを講義に集中させたいという思惑もあったからだ。

 そういえば、そのシャリーヌだがマリーエッタを連れ帰ったあとにまた諫言されるのかとすこし憂鬱になっていたが何も言ってこなかったな。

 なんだ。なにかあるのか。と、しばらく疑心に取りつかれて気疲れもした。けれど、なにもいってこないのだから気にしても仕方がない。言うな言ってこい。聞かないがな。とオレはもう開き直ることにした。


 逆にアリフールとは、ひと悶着があったのだが、その話はそのうちすることにしよう。


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