奴隷商人が訪れて
オレの呼び出しに奴隷商の男はお付きの奴隷とともに、その日のうちに姿をみせていた。
「こちらがご所望になられました従属の腕輪になります」
と奴隷商の男はお付きから鞄を受け取ると鈍く光り罪人の手足に装着される拘束具のような太さを誇る腕輪をひとつ差し出した。
「随分と無骨な腕輪だな」
「はい。これは男性用のなかでもとくに飾り気のない品になります。けれど、もっともポピュラーな一品でして、お前は奴隷なんだぞ、と視覚的に促すのにもってこいだと購入を希望される方が多くおられる品になります」
「たしかに、奴隷だとわかりやすいな」
「はい。ご要望になられたものとは異なりますが、これが初めての商談になりますので、まずにご提示した次第です。そして、こちらがご要望頂いた女性用で簡素な見た目の品になります」
そういって奴隷商は細く磨かれた銀の腕輪を取り出した。
「こちらは女性用といいますか、周囲にたいして見目を気にされる方に愛されている品でございます」
「……なるほど」
「おや、お気に召しませんでしたか」
「いや。悪くはないが、な」
「そうなりますと、今日ご提示できるのは腕輪という形からは外れますが首輪型のものがございます。こちらのチョーカーはいかがでしょうか」
オレは差し出された黒い帯状で中央に茶の縁に黄の目のような石がとりつけられたチョーカーを手に取った。
「ふむ。これにしよう」
「これになさるとはお目が高い。私どもの商品のなかでもっともすぐれた品でござますよ」
オレは奴隷商にそれなりのお金を渡して黒のチョーカーを受け取った。
「商品の仕入れでは大変お世話になっております。ですので、入用でしたら、今後も御贔屓にして頂けますと幸いです」
そう言うと奴隷商の男は屋敷をあとにした。
「仕入れときたか。いったいどれだけの領民が奴隷にされていったのか。わかったものじゃないな」
意外なことにオレの父や叔父は奴隷を買うことはなかった。それにはもちろん理由があった。奴隷制度は国の制度であるから、奴隷の売買から従属に関連する品の受け渡しまで公的な書類が残ることになる。それはつまり後ろ暗いことに奴隷は使用できないことを意味する。なので、そういったことを生業にする人間からすると使い勝手がよくなかったのだ。
奴隷は使い勝手の悪い。なら、買って使うよりも売って儲けたいってか。税で苦しめては奴隷に堕とし、領政に公然と不満を漏らす者は悪党を使ってあらゆる手でその身を落とさせる。
「ハハ。まったく酷いものだな」
とことん悪党な領主家の跡取りとして自虐に耽っているとアミーアの準備ができたと報せがきた。
「はいれ」
ぼろぼろだった帽子を取り払われあらわになった頭上の両耳。衣服の外にはしなだれた尻尾が見える。
「オレのそばに来い」
アミーアはびくっとしたあとゆっくりとぼとぼと近寄った。
「少しは見れるようになったな。よく聞け。これからお前はオレの側に仕えさせる。オレの手足となって働け」
「……」
「黙っていても結果は変わらんぞ。それと、これを首につけろ」
「これは、なに」
「オレのものだとまわりにわかりやすくするための目印だ」
アミーアは黒のチョーカーを眺めたあと「…かわいい」そう口にした。
「奴隷の証がかわいいだと。馬鹿かお前は。さっさとつけろ、この愚図が」
「……うん。わかった」
アミーアがチョーカーをつけるのを確認したオレは使用人にむけて言った。
「お前たち、こいつに礼儀やマナーを教えこめ。オレに恥をかかせるなよ。わかったな」
アミーアを連れ帰ってから屋敷での居心地は一段と悪化したが、昔からそうだった記憶(自業自得)があるので、気にしない。気にしたら折れるからな。
そのあと、当たり前のようにオレの講師であるシャリーヌから「獣人族は奴隷でもペットでもありません。同じように話すことができる対等な相手です」など諫言めいた言葉も受けた。内心、いやそうなんだけどとは思いながら「オレが決めることだ」と憮然とした態度でなんとか返しておいた。
そのシャリーヌはというと、口惜しい思いを抱えながらも、この話題をあまりほじくり返してボーセイヌに癇癪を起されるわけにもいかないと、平静を装いながら授業をはじめるのであった。
それからひと月が過ぎるころには、アミーアはある程度の礼儀やマナーを習得していた。ただし表情に不満さが溢れているのはご愛敬だろう。
シャリーヌはアミーアをなにかと気遣ってか、オレが見ていない時間を見計らっては話し掛けているようだ。ゲームでいうと、シャリーヌはどちらかというと冷たいというか淡泊というかそっけない印象を受けるキャラだとおもっていたが、なんだか面倒見がいいな。
その様子をみて、オレはふと思いついたことを講義の合間に口にした。
「おい。シャリーヌ。お前はオレの後ろに突っ立っているこいつに学をやる気はないか」
そう。どうせなら、ここでオレと一緒にアミーアを学ばせれば能力を強化できるこかもしれないな、と。なぜなら、オレの側近が強くなれば、主人公と対峙するときがきたとしても、オレの生存率があがるかもしれないからな。
オレの唐突に発言にシャリーヌは妙な視線をこちらに向けて少し考え込んだあと「1人でも2人でも変わりませんから、構いませんけど」と了承の意を示したが、一つの条件を付けてきた。
「ただし、私の講義中は奴隷などではなく、私のひとりの生徒として扱わせて頂きます」と。
シャリーヌは譲歩を促すつもりであったのかもしれないが、オレとしては願ったり叶ったりといったところなのですぐに応えた。
「決まりだな。おい、アミーア。お前が座るものをもってこい」




