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【Web版】玄関前で顔の良すぎるダウナー系美少女を拾ったら  作者: ななよ廻る
第3部 第1章

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第1話 同棲したお隣さんの変化

 スキンシップが減った。

 なんだかこう言うと、倦怠期の彼氏彼女や夫婦のように思うかもしれないが、僕と鎖錠さんはそういう関係ではない。

 マンションの隣人同士で、今は同居しているだけの関係だ。

 ……だけ、というには、密接すぎる気もするが、甘い間柄かと言われると言葉に詰まる。


 友人? クラスメート? やっぱりただのお隣さん?

 当て嵌めるべき言葉はいつも見つからず、彼女と出会ってから納得できたためしはなかった。



 9月も終わりが見え始め、気候も穏やかになってきた頃。

 1日を通して過ごしやすい陽気が増え始め、道を歩いていると黄色く色付いたイチョウの葉や枯葉が無骨なアスファルトを飾り、秋の訪れを知らせてくれる。

 そんな秋の葉の上に、未だにひっくり返った蝉が転がっているのには驚くけれども。


 それ以上に驚くのは、鎖錠さんと同居するようになってから、気付けば10日以上も経っていたこと。

 最初こそお互いドギマギぎこちなかったが、同居前から泊まっていた下地があったので、慣れるのは思ったより早かった。

 以前と変わらない空気感で、当たり前のように一緒に暮らしている。


 ただ、変わったこともある。

 スキンシップ。

 以前はあったそれが、同棲を始めた途端パッタリとなくなってしまったのである。


 この家に通っている時は、やたら僕に触れたがり、密着してくることが多かった。

 人肌が恋しかったのかなんなのか。

 明確な理由はわからない。けれど、赤ちゃんのお気に入りのタオルとかぬいぐるみみたいなものだろうと解釈していた。

 なので、拒否することはしなかったし、まぁ、なんだ。恥ずかしくはあったけれど、僕も受け入れていた。男ってそういうものよ。


 同居し始めの頃は、久しぶりだからとそういうこともあるかと考えていたが、2週間近くにもなれば、あれれ? これはなにかおかしいぞ? と鈍感な僕とて勘付き始める。

 だからといって、『前みたいに抱きしめてこないの?』なんて僕から訊けるはずもなく、おっぱい枕がなくなった悲しみに枕を濡らすしかなかった。しくしく。


 未だにスキンシップが減った理由はわかっていない。

 今更になって恥ずかしくなったのかもと、理由を想像するだけで本人の口から理由を訊けずにいる。


 ただ、スキンシップと比例するようにお世話度は増した。

 朝起こしてくれるのはもちろん、料理から掃除、はては洗濯まで、なんでもやってくれている。


『居候だから……』

 なんて。

 本人は言うが、僕からすればありがたいやら申し訳ないやら。


 手伝いを申し出ても『私がやる』の一点張り。

 それでもというと、お風呂掃除とか食べた食器のお片付けとか、なんだか子供のお手伝いぐらいの仕事しか任せてもらえなかった。

 もしかして、なにもできないと思われてる?

 それとも、居候のような立ち位置だから、遠慮しているのだろうか?


『遠慮しないでね?』という前置きをして、そこんとこどうなんだと本人に尋ねてみたことがあったが、

『……そういうんじゃない』

 と、顔を逸らしながら否定されるだけだった。


 その言葉が本当かどうかはわからない。僕に気を遣っただけかもしれない。

 ただ、事実だった場合、じゃあなんで? という疑問は消えないわけで、重ねて尋ねてみても返答はなく、結局、僕の疑問が解消されることはなかった。


 そんな頭の隅に残る謎や、悲しい出来事はあったけれども、逆に嬉しいこともあった。

 服を汚さないためか、鎖錠さんは家では紺色で無地のエプロンを身に着けるようになったのだ。とてもとても良く似合う。


 なんだか若奥様感増々で、見ていると幸せな気持ちになる。

 正面から見るのも好きだけど、僕は後ろ姿が好きだった。エプロンのヒモで縛られた腰つきがせくしぃ。

 手放しで褒めると、『うるさい……』と悪態を付きながらも、頬を赤らめて照れるのが更にポイント高い。褒め過ぎたのか、最後には無言でげしげし蹴られてしまったが、概ね満足である。

 女の子のエプロン姿には夢が詰まっている。



 妹の襲来。同棲を機に変わった鎖錠さん。

 それを寂しく思うも、これが適切な距離なのかなと考える自分もいる。

 学生同士の同棲。

 しかも、保護者なしの二人暮らしが適切なのかはともかく。

 ルームシェアのようなものと考えれば、まぁ、一般の範疇に収めることも可能ではなかろうか。多分。無理やり詰め込めばなんとか。無理かな? いやいける。


 正直、出会ったばかりで連泊した挙げ句、付き合ってもいない男を毎日毎日抱きしめるというのは、あまりにも近過ぎただろう。

 それを考えれば、これで良かったのかもしれないと思わなくもない。



 変化の中には、学校も含まれている。

 一緒に登校し、朝から教室に居る鎖錠さん。

 それだけでなく、机に教科を広げて、板書をノートに写す。

 授業もまともに受けるようになっていた。


 登校したことと合わせ、この変化には先生も感涙したほどだ。

『ありがとう……!

 ほんっとうにありがとうね!』

 僕の手を両手で握り、何度もお礼を口にする先生。

 あまりの必死さにややドン引きだったが、その反応から察するに周囲の先生から余程嫌味や小言を言われていたのだろう。

 新任の先生も大変だな、と勢いに飲まれ引き攣った笑顔を浮かべるしかなかった。


 そもそも、僕がなにかしたわけじゃないんだけどなぁ。

 ここまで大げさに感謝されても、微妙な気持ちになるばかりだ。

 言ったところで詮無きことなので胸の内に留めたけれど。なんだかなぁ……とは思ってしまう。


 そして、久々に登校した鎖錠さんに対するクラスメートの反応はといえば。

 特に音沙汰なし。

 もっと問い詰めてくるなり迫ってくるなり、お祭り騒ぎになると思っていただけに、正直、拍子抜けだった。

 以前、『見守る』と言っていたので、その言葉を忠実に守っているのかもしれない。


 ただ、気になってはいるようで、ひそひそ話と視線は感じている。

 それはそれで鬱陶しいので、いっそ声をかけてくれた方が楽なんだけど。

 まぁ、理由不明で登校不登校を繰り返す鎖錠さんに気を遣っているのかもしれない。

 ……うずうずした反応を見る限り、我慢の限界は近そうだけど。



 大なり小なり、周囲をざわつかせる鎖錠さんの行動。

 急に会いに来なくなったと思えば、引っ越してきて、勉強して。

 なにか心情の変化があったのかなと思うけど、鎖錠さんがその気持ちを教えてくれることはなかった。


 もしかしたら、鎖錠さんの引っ越しを強行した妹であればなにか知っているかもしれない。

 そう思い、メッセージアプリで訊いてみたが『変態』とからかうように笑う女の子のスタンプが送られてくるだけだった。

 妙に腹が立ったのでスタンプ連打したら、『バカなことしないで』となぜか鎖錠さんに叱られた。どうしてバレてるのか。


『ん』とスマホの画面を見せつけられる。そこには僕と同じメッセージアプリが起動していて宛先は妹。『お兄ちゃんがいじめる』という内容が送られていた。

 いじめてないし。むしろ、バカにされてるんだが?

 否定したかったが、それよりも驚くべき事実に気が付いてしまい、唖然としてしまう。


 え? なに。君たち連絡先交換してるの? 僕は鎖錠さんの連絡先知らないのに?

 地味にショックだ。なんだか負けた気分。

 呆然としていると、負け犬としょぼくれた犬が吠えるスタンプが送られてきて、あまりの悔しさにぐむむと唸ってしまった。く、悔しくなんてないんだからね!?



 そんな同居人の変化に戸惑いつつも、新しい日常に順応し始めていた頃だった。


「スーパー寄ってく?」

「……食材はあるから」

 放課後。

 鎖錠さんと一緒に帰ろうとすると、ホームルームの後、そのまま教室に残っていた先生に「日向さん、ちょっといいかしら?」と呼び止められる。

 前にもこんなことあったな。

 そんなことを思いつつ、なんだろうと訝しむ鎖錠さんと目を合わせて首を傾げた。


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