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【Web版】玄関前で顔の良すぎるダウナー系美少女を拾ったら  作者: ななよ廻る
第2部 第3章 side.鎖錠ヒトリ

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第7話 なぜかメイド服に着替えさせられる私

「おおっ……!

 すっごい似合ってる!

 おっぱいでけー」

 素直過ぎる反応に、肩を抱くようにして身体を隠す。

 ただ、その行動は逆効果だったようで、「恥じらう姿もグッド!」と良い顔で親指を立てられてしまう。


 そのセクハラ染みた反応は、私の水着姿を見たリヒトに通ずる物がある。

 なんでそんな悪いとこばかり似ているんだ。

 辟易する。理不尽だと思いつつも、ここにはいないリヒトを恨む。


 顎に手を当て、上から下まで舐めるように見てくるリヒトの妹は、「よかった」と頷く。

「嫁用だったけど、サイズはピッタリ。

 スカートの丈がちょっとだけ足りないけど、身長差かな?」

「嫁?」

 なんだ嫁って。

 あだ名かなにかだろうか。


 小さな段差に躓いたような疑問を抱いたが、「いいね、いいね。特に乳袋が最高だね」とつぶさに観察してくる妹の視線から逃げようと、身体を小さくしているうちに考えるもなく霧散して消えた。


 肩口のフリルを摘み、顔をしかめる。

「なんでメイド服……」

「だって、兄さんのお世話してるんでしょ?」

 当然とばかりに妹さんが言う。

 安直過ぎやしないか。

「なにより、兄さんこういう清楚なの好きだから。

 こんなん見せられた日には一発KOよ。

 理性失くして押し倒されること待ったなし」

「それは……困るんだけど」


 拒めるか拒めないか。そもそも拒もうとするのかという問題はあるけれど……その、困る。

 そもそも、こんな可愛らしい服が似合っているとも思えない。

 ただ、リヒトが好きという言葉には、琴線に触れるものがある。そういうものだろうか、と長い丈のスカートを摘む。


『ヒトリ……似合ってるよ』

 なんて、なんて……なんて。

 想像すると、恥ずかしいやら嬉しいやらで、このまま着ていてもいいかなと思ってしまうのが不思議だ。そして、容易い自分に嫌気が差す。

 ヒトリってなんだ。あれ以来呼ばれてないし。……くれないし。

 妄想が過ぎる。あまりの自己嫌悪に、前に倒れそうになる額を手で支える。


 ふと、視線を感じる。

 主に胸元に。

「じー」

 というか、視線音を声に出していた。露骨過ぎる。

 これがリヒトであれば、脛の1つ蹴るのだけれど。

 妹さん相手だと勝手がわからず、反応に困ってしまう。ほんと、なんだ。


「はぁ……良い。

 ちょーさわりたーい」

 変態だ。混じり気のない純粋な変態だった。

 興奮した、熱の籠もった感嘆の吐息。見た目が幼く、女の子であるからまだ許されるが、これが男であれば即座に通報だ。兄妹揃ってどうして大きな胸にご執心なのか。


 無遠慮に向けられる熱視線。

 どうしたものかと悩む。

 ただ、相手は女の子で、リヒトの妹だ。

 相談に乗ってもらいもした。……意味があったかは、ともかく。

 そのお礼も兼ねて、私は少しばかり胸を張る。


「触ってみる……?」

「――いいのッ!?」

 ビクッと身体が跳ねる。

 一瞬でお湯が沸いたように、テンション爆上がり。

 机に両手を付いて身を乗り出す。前のめり過ぎる反応に、思わず身を引く。


 女の子同士なら少し触るぐらい普通だと聞いたことがあるけど……これが、普通?

 こめかみが引きつる。既に安易な提案をしてしまったことを後悔している。


「はぁ……はぁ……」

 息が荒い。身の危険しか感じない。

 やっぱり止める。そう言いたかったが、言ったら言ったでなにをするかわからず怖気づく。

 なんだか、餌を前にした猛獣を相手にしているような気分だ。

 その場合、餌は私になるので、心境は複雑なのだけれど。


「うー、うぅ……っ」

 唸りながら、私の胸に手を伸ばしてくる。

 ここまで来ると、もはや諦めの境地。さっさと終わらせてくれと、自暴自棄のように胸を突き出す。

 震える指先が私の胸に触れそうになった瞬間、

「……うぁっ、やっぱダメだー」

 苦渋の顔で手を引っ込めた。


 目を丸くする。

 触られなかった安堵よりも先に、疑問が先に立つ。

 あれだけ触りたそうにしていたのに、なんでだろう、と。


「そう……。

 なら、いいけど」

 とはいえ、触らないのであればそれはそれで良かった。

 別段、同性に触られたところでなにも思わないはずなのだが……妹さんは、少し怖かったから。


「しょうがない。

 しょうがないんだけどさー」

 ごろごろごろごろ。

 頭を抱えて、床を転げ回る。苦悩が目に見えるようだ。


「はふぅ」

 と、なにかを諦めたように息を吐き出し、止まる。

 そうして、億劫そうにのそのそ起き上がると、にへらっとした緩んだ笑顔を私に向けてくる。


「まぁ、義姉さん(仮)じゃなくって。

 本当の義姉さんになってくれるなら、それでいいかな。

 たとえ、おっぱいに触れなくっても……触れなくても……くっ」


 なにやら後悔が見え隠れしているが、その未練を打ち払って言う。


「私は義姉さんが兄さんとくっついてくれるのが一番嬉しいから」


 なんで。

 寄せられる好意と信頼に戸惑いを覚える。胸がざわつく。


 初対面。

 それも、兄が許可したとはいえ、勝手に自分の部屋を使っていた相手だ。

 良い印象は持っていないはず。

 そんな相手をどうして信用できるのか、私にはわからなかった。


「……好きじゃない男の子の家に、女の子は泊まらないって言ったけどさ」

 まるで私の疑問を察したように、リヒトの妹が話しだした。

「逆もそうで。

 信頼してない女の人を、兄さんは泊めたりしない。

 なにより、私の部屋を使わせるはずがないからさ」


 彼女の声には、確かな兄への信頼があった。

 それを羨ましいと感じてしまう己の浅ましさを自覚しながら、私は零すように言う。

「……お兄さんのこと、信頼してるんだ」

 私の言葉を受けて、妹さんはえっへんと胸を張る。


「ふふん!

 兄さんのこと大好きだからな、私!」


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