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【Web版】玄関前で顔の良すぎるダウナー系美少女を拾ったら  作者: ななよ廻る
第2部 第3章 side.鎖錠ヒトリ

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第6話 童貞拗らせたムッツリでも好き

 学校にも行かず。

 母親からは逃げるばかり。

 立ち向かうなんてことはせず。

 子供のように耳を塞いでばかりの私。


 自分に自信なんて持てない。

 誰かに好かれるなんて到底思えない。

 そもそも、私自身が一番自分のことが嫌いなのに。

 そんな相手に兄が好意を向けられているなんて。

 とてもではないが受け入れられるとは思えなかった。


 ギュッと血流が止まりそうなほど、二の腕を掴んでいる手に力を込める。

 恐ろしかった。

 妹さんに拒否されることが、ではない。

 妹さんを通じて、リヒトに拒否されるかもしれないことが恐ろしかった。

 今まで感じたことのない恐怖に身体が小刻みに震える。


 こんなに怖いと思ったのはいつぶりだろうか。

 なにもかもを諦めていた時には、心が動くことはなかったのに。

 いつの間に私の心は、こんなにも簡単に揺れ動くようになってしまったのだろうか。


 法定で判決を言い渡される罪人の気分だ。

 そんな項垂れて、諦めきった私を妹さんは静かに呼ぶ。

「義姉さん」

 恐る恐る顔を上げる。すると、彼女はニッと頬を吊り上げ破顔する。

 その顔に忌避感なんて一欠片もなく、太陽のような明るさと温もりが宿っていた。


「ぜんぜん。

 ウェルカムカム。

 むしろ、私が訊きたいぐらい。

 兄さんでいいの?

 童貞拗らせたムッツリだよ、あれ」

「そこまでは……」

 否定しようとして、開きかけた口を閉じる。

 思い返せば、プールの時に私の胸に反応していた、というか凝視していたし。

 エッチなDVDを隠し持ってもいた。

 他にも思い当たることは幾つもある。


 童貞拗らせも、ムッツリも、否定する要素がなかった。

 リヒトは紛うことなき変態だ。認めよう。


「……リヒトは変態だけど」

 控えめに肯定すると「否定されないのクソウケる」と妹さんが爆笑する。

「童貞拗らせて、ムッツリかもしれないけど」

 でも、と私は言う。

「……私を拾ってくれたのは、リヒトだったから」

 だから、

「リヒトじゃないと、ダメ……。

 リヒトしか、私には……いない」


 私の気持ち。飾る言葉のない、私の本心だった。

 あぁ。好きな人の妹相手になに告白しているんだ、私は。

 全部吐露してから、今更になって恥ずかしくなってくる。逃げ出したい。ここ、私の部屋だけど。


 羞恥に悶える私を、妹さんはからかうでもなく腕を組んでうんうんと頷きながら重ねて尋ねてくる。

「で、いつ告白するの?」

「こくっ……!?」

 考えたこともない……とは言わないが、予想外の角度から殴られたような衝撃を受ける。

 知恵熱のように頭は茹で上がり、煙でも上がっているんじゃないかと思う。

 真正面から一切視線を逸らさないリヒトの妹から顔を背け、「そ、そういうのはまだ……」と我ながら小さい声で言う。正直、聞こえているかわからない声量だ。


「なんで?」

 聞こえていたらしい。そして、手心がない。

 性急に答えを求めるような問いかけだ。いや、なんでって言われても……困る。

「……最近は会ってすらいないし」

「どうして?」

「…………」

 沈黙。


 なぜ。なんで。どうして。教えて。説明して。

 問われるということが、こんなにも辛いこととは思いもしなかった。

 重力が増したような重圧を感じて、知らず背中が丸くなっている。


 最近、顔すら会わせていない理由。

 それを言葉にするならば、

「…………。

 …………………………。

 ……す、好きなのを自覚したら、恥ずかしくなったから」

「義姉さん乙女ー」

 キャー! と、甲高い悲鳴を上げられ、増々背を丸くする。頭が地面に着きそうだった。膝の上で潰れた胸が苦しい。


 出来うることなら、このまま穴を掘って地面に埋まってしまいたい。

 ここはマンションの6階。穴を空けたら下の階に落ちるだけで埋まれないけど。


 羞恥心で人は死ねるのかもしれない。

 発火しそうなほどの熱に、頭から水を被りたくなる。


 ただ、ある意味で丁度良くもある。

 私の気持ちは全てつまびらかにされ、堕ちるとこまで堕ちた。

 羞恥も限界を超え、これ以上の恥なんてない。


 故に訊く。

 相談相手として正しいかはわからない。けれど、私にこういう相談をできる相手はいなかった。

 というか、そもそも友達がいない。それを辛いとも悲しいとも思ったことはなかったが、いないことによって不利益を被るとも思ってもみなかった。


 まさか、好きな人の妹に恋愛相談をするとは夢にも思わなかったが、自分だけでは答えを出せない以上、恥を偲んで相談しようと口を開く。

 が……なにを訊けばいいのか。


「あの……。

 どう、すればいいと思う?」

 抽象的な質問。

 一体なにを尋ねているのか、訊いた私ですらわからない。


 もっと、なにか、具体的な相談をしないと。

 でも、具体的って、なに?

 下唇を噛む。小さな痛みを感じながら、どうしようと考えていると、「よし」と妹さんがなにかを決めたような声を出したので顔を上げる。と、


「なら、まずはメイド服に着替えようか!」

 

 キャリーケースからフリルの付いたメイド服をガバッと取り出し、広げてみせた。

 ……いや、どうしてメイド服?

 というか、なんで持っているの?

 ていうか、私が着る意味がわからないんだけど。


 内心、疑問ばかり。唐突な流れに全く理解が追いつかない。

 けれども、強引であろうと無理矢理であろうと、流れに逆らうことはできず。


「……どうして私が」

 抵抗虚しく、メイド服に着替えさせられてしまう。

 恥ずかしい……。


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