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【Web版】玄関前で顔の良すぎるダウナー系美少女を拾ったら  作者: ななよ廻る
第2部 第3章 side.鎖錠ヒトリ

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第3話 初めて部屋に通した相手はお隣さんの妹

 幸い、あの女……母親は不在だった。

 夕方頃に出かけて、朝帰ってくる。もしくは、帰ってこないか。

 だいたいはどちらかなので、午前中に居ないのは半々といったところ。

 コインの裏表。1/2の賭けに勝ったような気分になり、ほっと胸を撫で下ろす。


 あの女がいる時に他人を、それもリヒトの妹を部屋に上げる気にはなれなかった。見られたくないという、嫌悪感なのか羞恥心なのかわからない感情がどろりと波打つ。


 あの女が人、というか男を連れ込むことが多いためか、リビングは小綺麗に片付いている。モデルルームのように、生活感がない。これがあの女の部屋となると、逆に物に溢れているのだろうが。思い返すだけで、頭の隅が痛みを訴える。


 リビングの中央。

 テーブルクロスが敷かれ、造花の飾られた洒落たテーブルには、お金の入った小さなポシェットと、ウサギの形をしたメモ紙が残されていた。

 メモになにが書かれているかなんて見ないでもわかる。

 どうせ謝罪と、ご飯は買って食べて、だろう。いつものことだ。


 元から一緒に食べる気なんてないくせに。内心悪態を付く。

 だからといって、一緒に食べる? なんて誘われたところで、拒否するのは目に見えているのだが、こちらの機嫌を伺うような態度がムカつく。

 なにより、男に抱かれて得た金で自分が生きていると思うと、胃の()から喉に上ってくるようなおぞましい感覚に襲われて口元を押さえる。気分が悪い。


 男に媚を売って、身体まで売る母親が嫌いだ。

 そんなことまでして手に入れた金は汚い。

 けれど、一番嫌いなのは、そんな嫌いな母親が知らない男に抱かれて貢がれた金だと知りながら、養われている私自身だ。

 汚らわしい金で生きている私が一番汚い。

 私は私を嫌悪する。


 いっそ死のうかな、と。何度思ったかわからない。

 ただ結局、実行に移そうとしたのはリヒトと出会った日のただ1度きり。

 以降は虚無感に苛まれた死への渇望も減っていて、今は自殺願望もなくなった。


 残ったのは、母と金への嫌悪と……顔が熱くなる。


「……バイトでもしようかな」

 高校生になった。働く道はある。

 そうすれば、自分の生きていく分の生活費は稼げるし、あの女に養われることもなくなる。

 この家から出ていけるかもしれない。


 以前の私なら、そこまでして生きる意味がないとなにもしなかったが、今は違う。

 生きる意味リヒトがある。


「……問題は、リヒトに会える時間が減ること」

 それは困る。とても困る。

 現状ですら1ヶ月会えていないというのに、バイトなんて始めてしまえば余計に顔を合わせられなくなる。

 生きる糧を稼ぐために、生きる意味を捨てては本末転倒だ。意味がない。


 だからといって、いつまでもあの女に養われているのは嫌だ。出ていく方法があるのならば、早々に飛び出してしまいたい。


 せめて、なにか。

 私とリヒトを繋ぐ確固たるモノがあれば。

 会えない時間があっても耐えられる。

 そう考え、ふと思い付いた願いを口にする。


「いっそ同棲できれば……」

 発した浮ついた単語に、顔から火が出そうになる。うぅ……。

 これまでとそう変わらないと分かっていても、認識の違いだろうか。途端に恥ずかしさがふつふつと湧き出す。


 ありと言えば、あり。というか、理想に思えた。

 いってきます。おかえりなさい。うん、とても良い。


 けれど、理性の部分がそれはダメだと否定する。

 そもそも、連日泊まり込んで甘えきっていたのだ。私から提案するのは厚顔無恥にも程がある。

 なにより、それは私の嫌うあの女のように、男に媚を売って貢がせるのと近しいものではないだろうか。そう思うと、高揚していた心が氷水に沈められたように冷え切ってしまう。


「義姉さーん?

 もう上がってもいいー?」

 玄関から聞こえてくるリヒトの妹の声にはっとする。

 そういえば、待たせたままだった。


 私は慌てて玄関に戻り、「ごめん」と謝って自室に通す。

 自宅に初めて人を上げるものだから、余計な考えばかりが頭を駆け巡っていた。今は忘れなければと、皺の寄った眉間を親指で強く押し込む。


「全然気にしてないよー」

 そう言った妹さんは本当に気にしていないのか、待たせたしまったにも関わらず怒った様子1つ見せず私の部屋へと上がった。

 見た目と違い、そういう大らかなところは似ているのかもしれないと、リヒトとの共通点を見つけて少しだけ、頬がほころぶ。


 私の部屋はなんというか、非常に簡素だ。殺風景とも言う。

 女の子らしい飾り気なんてなく。

 無骨な黒パイプのベッドに、ローテーブルがあるぐらい。

 あとは、隅っこに学生鞄や持って帰ってきたプリントなんかが置かれているだけだ。リヒトと登校した折、教科書類は学校のロッカーに置いてきてしまったので、それすらも僅かにある程度。

 残りは、備え付けのクローゼットに収められてしまうぐらいには、荷物とは無縁だった。


 断捨離とか、ミニマニストというわけではない。

 ただ単に、物欲がなかった……というよりも、なににも興味が持てなかったから、物が少ないだけだ。最近は欲しい物も出てきたが、増えたのはキッチン用品で、部屋の物は増えていない。

 キッチン用品も、私が欲しかったというよりも、必要に迫られてというか、リヒトのためにというか……考えると面映ゆくなる。物欲が増したというには、微妙なラインだ。


「へ~。

 ここが義姉さんの部屋か~」


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