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【Web版】玄関前で顔の良すぎるダウナー系美少女を拾ったら  作者: ななよ廻る
第2部 第3章 side.鎖錠ヒトリ

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第1話 お隣さんの玄関前で座り込む

 マズイ。そう思いつつも、なにも行動に起こせない時がある。

 私にとってそれは今であり、現在進行系で起こっている難問であった。


 9月中旬。夏休みが終わり、2週間が経過していた。

 夏休みの終わりと表現こそすれ、そもそもほとんど学校に通っていない私にとっては、登校日も休みも対して差はなかった。


 どちらも同じ。

 部屋に籠もって耳を塞ぐか。

 もしくは、宛もなく外を歩き回るか。

 どうあれ、意味なんてない。ただ、嫌な現状から耳を塞ぎ、逃げているだけだ。

 虚無な私の人生。意味があるのかなんて、哲学とも呼べない捨て鉢な考えが常に頭の中にあった。


 そんな私のモノクロの人生に色彩が現れ始めたのは、6月の梅雨。

 私の誕生日に、隣に住むリヒトと出会ったからで――と、今はどうでもいい話だ。


「……なにしてるんだろう、私」

 頭を抱えていた。

 玄関前で。それも、自宅ではなく隣の家、リヒトの家の前でだ。

 本当になにをやっているんだ、私。増々首を下げて頭を抱える。


 リヒトが登校した後。時間は9時を過ぎていた。

 私はここ最近の日課となってしまった、日向ひなた家の玄関前で膝を抱えて、頭を抱えるルーチンを本日も達成していた。


 わかってはいる。

 相当におかしな行動をしていることは、私自身が一番理解している。

 ただ、頭の中で『この行動は不審者でしかない。止めよう』と命令を下したところで、気付けば座って頭を抱えているのだ。

 なにそれ怖い。夢遊病かもしれない。


 この行動が本当に理由不明で、無意識の内に行っているのなら、病気だと諦めもつくのだが……いや、その結論で諦めたら本当に終わりなのだけど、そうじゃなく。

 理由は……わかっている。


『ヒトリと一緒に居たいからかなー』


 8月の中旬。リヒトへの想いをハッキリと自覚した夏。

 モノクロだった私の世界が、鮮やかに色付いた日。 

 世界は一変し、私自身、細胞全てが入れ替わったような感覚があった。


 あの夏、隣の君に恋をした。

 ……なんて、詩的な言葉を並べれば綺麗に見えるが。

 現実は、リヒトの部屋。そのベッドに飛び込み……その、ごにょっと、もにょっと。

 つまり、あれだ。女の子というか、致してしまったわけで……今思い出しても死にたくなる。

 これまで考えもしなかったが、人は羞恥でも死ねるらしい。死のう。死にたい。


 まぁ、心は死ぬが、残念なことに不健康な顔とは違い、身体は健康そのもので、良くも悪くも人生はまだまだ続く。

 彼への恋心を自覚してしまったことも合わさり、なんというか、どうにも顔が合わせづらかった。


「というか、死ぬ。

 今、顔を合わせたら絶対に死ぬ……」

 出会い頭に飛び降りる確信がある。頭から。真っ逆さまに。赤い塗料を入れた水風船のように弾ける。


 誰も通りかかりはしないが、膝の中に顔を隠す。赤くなった顔なんて、誰にも見られたくはなかった。たとえ、自分にさえも。


 だからといって、このままでいいとは思っていない。

 今日こそはと決意し、隣の家の玄関に赴き、膝を抱える。諦める。

 次こそはと日を変え挑戦し、やっぱり膝を抱えて先送り。


 遅らせる。延期する。保留する。見合わせる。引き伸ばす。

 …………。

 気が付いたら、1ヶ月も経っていた。なぜだ。

 その間、私がしていたことはリヒトの家の玄関前で羞恥に悶え苦しみ膝を抱えるだけで……実質、なにもしてない。停滞以下の、虚無な日々であった。辛い。死にたい。


 こんな虚しい行いばかりであっても、日々は経過する。重なっていく。

 心の中には雪のように降り積もった『どんな顔をして会えばいいのかわからない』という気まずさ。1日、2日と過ぎていくにつれ、雪国のように積もっていく。

 それは残暑でも消えることなく、足跡1つない新雪。

 これが本物の雪だったらどれだけ良かったか。雪かきはまだできそうになかった。


 結果、リヒトが登校してから、彼の家の玄関前で頭を抱える日々を過ごしていた。

 わざわざ登校した後に向かっている辺り、自身の情けなさが伺える。そのことに気付くと、余計に焦る。


「……ダメだ。

 どうにかしないと」

 このままではただのストーカーではないか。

 決して、私にそういう気質はないはずだ。……その、はずだ。


 たが、どうにかしようと奮い立たせようとするも、どうにも直せない。

 リヒトの顔を思い浮かべる。

「……~~っ」

 それだけで頬の火照りを感じる。

 重症だ。手遅れだ。末期だった。


 まさか自分がここまで恋愛にのめり込むなんて思いもしなかった。

 そういうのは、真っ当なスクールライフを送っている女の子たちが、こう、なんか……キラキラして、恋に恋する感じで、彼氏はアクセサリーで、友人同士で恋バナをしてる時が一番楽しいみたいな……ダメだ。


 真っ当に学校に通っていたのなんて中学2年ぐらいまでで、その頃も周囲と距離を置いていたので、その手の話に疎すぎる。

 知識が偏っていた。しかも、ネガティブ方向に。

 これはよくないと膝に押し付けた額をぐりぐり動かす。


 そんな私が恋……だなんて。


 女の子同士姦しく、やれどこのクラスの男子がカッコいいだ、先輩に告白しただなんて話を、私とは関係のない違う世界のように、どこか冷めた目を向けていた私が……恋。

 色々な意味で恥ずかしい。というか、恋という1字すら恥ずかしい。なんで下に心ってあるんだ。下心か。……寒い、死のう。


 ただそれも、このままでは発展するどころか、風化して忘れ去られてしまう。


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