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【Web版】玄関前で顔の良すぎるダウナー系美少女を拾ったら  作者: ななよ廻る
第2部 第2章

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第5話 夜、ベッドの上。両手に花はあるか。

 僕にハーレム願望はない。……と思う。


 だからといって、ハーレム系が嫌いということもなくって。

 アニメやライトノベルで観て読んでいる分には楽しいし、ヒロイン達が主人公を取り合って修羅場っているのはドキドキしてニヤニヤしてしまう。


 じゃあ、現実にそういう状況に置かれて嬉しいか……というと、全くもって嬉しくはなかった。


 狭いシングルベッドの上。

 いつもならだらりと気の抜ける自室にいるにも関わらず、身体をIアイの字にしてカチンコチンに固めて身動き一つ取れないでいた。

 ゼラチンを混ぜられたように、心が緊張で固まっていく。


 ベッドの中央には僕が居て、

「……少し、詰めて」

 左。壁際には鎖錠さんが。

「いいねー。楽しいねー」

 右には、夜だというのに元気な声で笑う妹が、寝っ転がっていた。


 どうしてこうなった、と嘆くには理由は明白で。

 妹が3人一緒に寝ようと言い出し、鎖錠さんが了承。そして、僕は驚くだけでなにも反論することができず、流されるままに寝床についていた。どうしてこうなった。


 実際、こうしてハーレム主人公みたいな状況に置かれると、緊張と不安で胃に汗をかくのを実感する。

 小さくきゅるると鳴くお腹の音に「なに兄さん。お腹でも空いたの?」と薄暗い中でも分かる惚けた顔で訊いてくる。

 もちろん、空腹ではなく、緊張で腸が活性化しているだけだ。

 胃もたれのような重さを感じ、自然お腹を撫でる。


 傍から見ればハーレムなのは間違いない。

 2人しかいないが、ベッドに複数人を侍らせて、揃って美少女でもある。ハーレムと言って間違いはないはずだ。


 ただ、片方は妹だ。義理じゃない。ちゃんと血が繋がっている。

 物語終盤で『血縁関係はない』と発覚もしない。

 もしくは、プロローグで実の兄妹ではなかったことが判明して、突然妹が告白してくることもない。絶対に。


 クラスメートに『実の兄妹で恋愛は定番』とか、眼鏡をキラリと光らせてクイクイする変態はいるが、そいつは2次元と3次元の区別がついていないか、人類における極少数派だ。

 実際の兄妹は、たとえ妹の裸を見たところで欲情しないのだ。

 こんなことを言うと『じゃあ、試してみる?』なんて挑発してくるから絶対に口にはしないが。


 つまり、片方はハーレム対象外。非攻略キャラのサブキャラ以下である。

 そのため、断じてハーレムではない。

 ただ、妹は違う考えのようで、含みしかない笑みを零して目元を緩める。


「ふふふ。

 両手に花で幸せ者かー?」

「片方花じゃないけどな」

 よくてペットみたいなもんだ。


 そういうと、にんまりとより目が細まる。

 ぶー、と頬を膨らませて不貞腐れると思ったので、その反応は意外で、不穏さに胸がざわりと騒ぐ。目の端をピクリと動かすと、小さな口が開いた。


「へー。

 じゃあ、もう片方には花があるって認めるだなー」

「……っ。

 そ、れは……だな。

 ………………」

 もうほんと、こういう状況でそういうのは止めてほしい。


 意趣返しか、それとも違う思惑があるのか。

 見事に取られた揚げ足に言葉が出てこなかった。

 咄嗟に否定が口をつきそうになったが、そんなことを言えば鎖錠さんが気にするのは目に見えている。口でこそ『気にしてない』と強がるだろうが、露骨に態度に出るのだ。

 そういうのが可愛いのだけど、今は求めていなかった。


 だからといって、妹の言葉を肯定するのは恥ずかしい。

 鎖錠さんは顔が良すぎるし、女の子だし、見目麗しい花である。あと、おっぱいが大きい。

 だけど、そう思ってはいても、口にするのは羞恥が募り、難しいものだ。


「ねぇねぇどうなの?

 教えてよ、兄さん?」

 それが分かっていてこうして煽ってくるのだから、我が妹ながら性格が悪いなと思う。

 

 適当に濁して誤魔化そう。

 うるせー黙れと跳ね除けようする。

 けれど、声を出そうと口を開こうとした瞬間、腕にふよんっと柔らかいモノが触れて、吐き出した息は音とならずに虚しく口から抜けていった。


「……そう、なの?」

 切なげで、掠れて消えてしまいそうな声。

 妹側に顔を向けているため、鎖錠さんがどんな表情をしているかはわからない。

 けれども、不意に寄せてきた身体は女性特有の柔らかさで。

 ぎゅぅうっと二の腕を挟み、押し付けられる胸の奥からは、早鐘する心臓の音が空気を介さず直接伝わってくるように感じた。


「いやぁっ、それ、は……ぁっ」

 声が裏返る。

 予想外の行動に、心臓が張り裂けそうになる。


 なぜそんなことを訊きたいのか。

 どう答えてほしいのか。

 なにを求めているのか。


 どれもわからないし、正解なんて計算しようもない。

 当然のように頭は真っ白で。

 こういう時、いつだって口にできるのは、胸に抱いた思いそのままの言葉しかないわけで、

「そう、ですが……なに、か?」

 つっかえつっかえに肯定する他になかった。


「……そう」

 気のない返事。触れていた柔らかい感触が、少しだけ離れる。

 ただ、ベッドはシングルで、3人も寝ているので完全に距離を取ることはできない。擦れるように触れる感触に、緊張の糸は解けない。


 …………で、なんだったの。今の?

 落ち着いてくると、頭の中に残ったのはそんな疑問。心臓に残るのは早くなった鼓動だけだ。


 鎖錠さんは『私、可愛い?』なんて、承認欲求増々の自分が可愛いことを自覚しているあざとい後輩キャラとは正反対で、どちらかと言えば自己肯定感低い拗らせタイプだ。私は可愛げがないとか言っちゃう系美少女だ。可愛いのに。


 なので、わざわざ確認してくるなんて思わず、意図をはかりかねていると、暗がりでも光る銀の瞳が僕を映しているのに気が付いた。……気が付きたくはなかったけど。


「兄さん顔まっか~」

「うっさいっ!」

 叫ぶと、ベシッと後頭部を鎖錠さんに叩かれた。

「……夜だから静かにして」

「……はい」

 理不尽と思いつつも、渋々頷くしかなかった。



 カチリと、ベッドボードの上にある時計の針が動く。長針と短針が重なる。

 狭く深く、長い夜は始まったばかりだった。はぁ……。


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