【side.鎖錠ヒトリ】彼女の気持ち
なんなんだ……なんなんだ……ッ!!!!!!!!!!
身体から流れ落ちる水を気にする余裕なんてなくて、とにかく離れたいという本能に突き動かされるままリビングを通り抜けた。
顔が熱い。胸が熱い。心臓が熱い。
鏡で見なくても、自分の顔がこれ以上ないほど赤くなっているのがわかった。
とてもではないが、あのままリヒトに見せていい顔じゃない。
心に動かされるまま行き着いたのは、寝泊まりしている彼の妹の部屋……ではなかった。
リヒトの部屋。
扉が割れるんじゃないかという勢いで開け、そのままなにも考えずにリヒトのベッドに倒れ込んだ。
じんわりと、身体を濡らしていた水滴がベッドに染み込んでいくをの肌で感じる。
「っ、――~~……ッッ!!?」
ジタバタと手足でベッドを叩くように動かす。
苛立ちをぶつけるように。荒ぶる感情を落ち着かせるために。
なにがヒトリだ!
なにが一緒に居たいからだ!
まるで私が特別だと意味する言葉に惑わされる。
そんなわけないのに、勘違いしてしまう。
心臓が張り裂けそうで、身体の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられた気分だ。
「……家族よりも、私?」
そうだ。
優先された。
家族よりも。私が。彼に。リヒトに。
それはきっとなによりも特別なことで、けれど、彼にとっては何気ない言葉でしかなかったのだろう。
じゃなきゃ、あんなムカつく呑気な顔で言わない。本当に腹が立つ。
ムカムカムカムカと、お腹の底から怒りが湧いてくるというのに。
だけど、だけど…………
……ぁぁ、もうダメだ。
一緒にいると安心する。
私の唯一の居場所。
触れていたい。
……触れてもらいたい。
胸の内から想いがシャボン玉のようにふわふわと飛んでいく。溢れていく。
なのに、どれだけ零れても胸の内の想いが減ることはなく、温泉のように熱く無限に湧いてくる。
なにより、
――必要とされている
そのことに、ズブズブと底なし沼に嵌まるように堕ちていく。
怖い。
ダメだ。
これ以上はいけない。
踏み止まらなくちゃ。
わかっているのに……
けど、……もう、手遅れだった。
す
き
。
「す、き……」
好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き。
思いが、想いが、オモイが、止まらなかった。
息が荒くなる。
熱っぽい吐息が零れる。
身体が熱い。
胸が……痛い。
「……あぁ」
ベッドに顔を擦り付ける。
彼の……匂い。安心を覚える。
同時に、下腹部が熱を持つ。
両腕を股の間に挟んで、尿意を我慢するように太ももをこすり合わせる。
「……女だったのか、私」
忘れていた性別を、今になって思い出す。
それほどまでに衝撃的で、自覚するには十分な反応だった。
――。
……10分後。
冷静になって死にたくなるのにも、十分な熱量だった。
さいっていだ……私。
空虚で、湿度の高い暑かっただけの夏が終わりを迎える。
紅葉が燃えるように色付き始めた――
◆第1部_fin◆
__To be continued.






