第5話 隣のお姉さんのエロい格好を見てしまったショタみ
絶句。
それだけに留まらず、恋人同士のような別れの挨拶というには、あまりに濃厚でネチョビチャと水音のするディープ過ぎる行為に、はわはわと唇がわななく。
目を丸くする。頬が熱い。目を離さなきゃいけないのに、つい見入ってしまう。
ニチアサキッズタイムになにやってんだこの人たちは――ッ!?
そのまま素知らぬ顔で通り過ぎることもできず、呆然と突っ立っていると、スーツの男性が「じゃあ、また」と言って、爽やかに去っていく。
その際、僕に気付くと「……おはようございます」と、気まずそうな顔で会釈をしていった。
逃げるように無骨な鉄骨の階段を駆け下りていくスーツの男性を無意識に目で追いかける。
あれ、が……鎖錠さんのお父さん、なのか?
それにしては若すぎるというか、見た目二十歳半ばぐらいだったが、若作りなのだろうか。
はー……。朝からとんでもないモノを見せつけられた。
これが俗にいう野外プレイというものなのだろうか。多分違う。
意識がどこかに飛んでいきそうなほど呆けていると、キィッという扉の金具が鳴る音に釣られて顔を横に動かす。と、女性と目が合った。
瞬間、急速に血が逆流したように上ってくる感覚に襲われ、全身が熱くなる。
「あっ!? いや、だ、……そ、まっ、…………。
……………………すみません」
羞恥と謎の申し訳なさと混乱。そして内外の熱によってオーバーヒートした頭は煙を吐き出し、もはや謝るしか道はなかった。
というか、鎖錠さんと同じで大き過ぎるおっぱいが透けて見えているので、目線の置き場に困る。
局部をギリギリ隠すもはやブラじゃない下着とか、危うさしか感じない。
やはり遺伝なのか……。ごくり。
羞恥と緊張と性欲が身体の中で喧嘩して、お目々ぐるぐるさせるぐらい混乱の渦中に僕は居る。
対して、鎖錠さん母(仮)は自身の艶姿に一切恥じることもなく、柔和な微笑みを浮かべた。
「おはようございます」
「お、おはよう、ございます?」
声が上ずる。動揺して舌が回らない。
というか、海外映画で急に差し込まれるような濃厚なエロシーンを僕に見られていたというのに、その余裕はなんなのか。
せめて、扉の影に隠れるとか、身体は隠してほしいんだが。
いや、それはそれでエロさ百倍アンアンマンなんだけど。
なんか、隣に住むエロいお姉さんにからかわれるショタみを感じる。ショタじゃないけど。
「あら?」
なにかに気付いたように声を上げ、彼女は目を細める。
その表情はどこか鎖錠さんを彷彿とさせ、陰と陽。雰囲気は真逆であっても母娘なんだと思わせる。
「あなた――」
なにかを掴むようにそっと手を伸ばし、艶やかな紅い唇を開きかけた女性は、ガタンッとエレベーターの開く音が聞こえると、ピタリと動きを止めた。
「あの……なにか?」
「いえ。ごめんなさい。
また、今度」
そう言い残し、そそくさと部屋の中に戻っていった。
音もなく締まる扉。鍵を閉じた音すら聞こえなかった。
……? なんだ?
疑問の残る去り際に、目を瞬かせていると、
「……リヒト?」
「うばらっしゃいっ!?」
心臓が潰れそうになった。
今、なに言ったんだ僕は。
バクッバクッと激しく鼓膜を叩く心臓を押さえながら、呼ばれた方向に身体を向ける。息が荒い。
どうやらエレベーターから降りてきたのは鎖錠さんだったようで、手に薬局のビニール袋を提げながら、一人廊下に立っている僕を怪訝な表情を浮かべて見ていた。
「……なにしてるの?」
「いや、なにって……」
……なんだろう?
鎖錠さんが居なかったから暇を持て余して。
じゃあ、ゲーム買いに行こうってなって。
玄関を出たら鎖錠さんに似たお母様っぽい人が、ねちょねちょしたキスをしていて。
しかもその格好は外出ちゃいかんでしょうってぐらいエッチで……。
「……その、あれだ」
僕はよくわからないままに口を動かした。
「ファンだった人気アイドルに激似のセクシー女優のAVを観てしまったというか、
観ちゃいけなかったし、そこはかとない後ろめたさがあるんだけど、
言葉にできない背徳感で妙に興奮すると言いますか――おっぱいでかかったなぁ、て」
多分脳が死んでいた。
じゃなきゃこんなこと言わない。
ガサッ、とビニールの擦れる音がした。
手提げを握る鎖錠さんの手が、ギュッと白くなる。
「…………
――は?
――――」
■■
レトロゲーム屋には行けなかった。
余談だが、我が家では半年ほど早い大掃除が、鎖錠さん主導の元に行われた。
バキンッ、パキンッと。
僕の心と一緒に、なにかが真っ二つに割れる音が、延々と響き続けた。
◆第3章_fin◆
__To be continued.