はったい粉だけに
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
当社比長めの耐冬花様、飆靡様回。
お菓子だけに貸し一つ。
偶には焦がしの語らいを。
「やぁ君!! また会ったね」
「……どうも」
道中を歩いていると、ひらりと舞い降りた黒翼。羽を数枚散らせた後、私の前に立ちはだかった。
普段の私なら、また良からぬものだと警戒しただろう。けれども顔を上げると、天狗の面と椿の髪飾り、何処か甘さの含んだ顏が目に入る。知り合いだった。
貴方様は瞬きの間に翼を折り畳むと、軽快な一枚下駄を鳴らし、ずいっと顔を近付けてきた。
「飆靡……様に会いに行くの?」
今一度、敬称を躊躇った気がする……。でも此処で突っ込んでも碌な話にならない。だから当たり障りのない適当な返答をした。
「あ……いえその……。今日は見返りが無いのでそのまま帰ります」
「? まぁいいや。送って行ってあげる」
此処でお別れでは無いようだった。飛び去る気もないようだった。その印に私の横に並ぶと、からん、ころん、と足音を鳴らす。
……された御恩は忘れちゃいけない。それは別に飆靡様と接してから分かった訳じゃない。世の理として成立されている。だから初対面の時と同様に、顔を合わせた。
「お礼はまた今度で良いでしょうか?」
「良いよ。また君とは会うでしょ?」
そう言って得意げな顔で鼻を上に上げた。天狗らしい仕草だった。
隣を歩く女の子の顔は、舞い降りた時よりも大分解れていた。故、単刀直入に行くとする。
「飆靡様と喧嘩でもしたの?」
すると穏やかだった空気が凍り付き、声を掛けた時の様に顔を強ばらせた。図星であるらしい。彼と君との仲介を担ったからこそ気になる。
飆靡様の性格は、お世辞にも穏やかとは程遠い荒くれ者。修羅の音域で物を話し、ただ自らの思いのままに力を振るう。制御などする筈もなく。そんな方なので、一度衝突したのだろう。珍しくはない。過去にも似たような事で姉様を泣かせてたくらいだし。この子も手を焼いてる身かな?
「……せっかちなのです。あの方は。隙あらば見返り、駄賃。持ってないと返したら、身売りしろと言われて頬を抓られました。そんなに……。むぅ……」
どうやらまた悪戯紛いの行いをしているらしい。でも昔に比べれば大分丸い。
過去に起こした狼藉は、あの場に居合わせた者が須らく覚えている。その事を庇うつもりは毛頭ない。如何せん、彼が泣かせたのは俺の上様。勿論、俺だって飆靡様ではなく上様の肩を持つ。
でも……余りにも長く時が経ち過ぎた。飆靡様が同じ社で祀られる位には。
「寂しいのかも、知れないねぇ。構って欲しいのかも、知れないねぇ」
強い方だから、その気になれば何もかも塵芥に変えしまう方だから、皆怖がって一歩引いた所で様子を伺う。だから数少ない方々しか寄り添えない。君の存在を持て余しているのだろうね。寄り添ってくれる人は居ても、文句言って来る奴や、抵抗する奴はいなかったから。
「許してあげてね。君が出来うる限りで良いから」
そう言った途端、目を大きく見開いて此方を見た。酷く驚いているようだった。そんなに変なこと言った?
「まぁ、そのお駄賃。はったい粉だよ」
本日、俺の社の近くを通りかかった癖に挨拶に訪れなかった。その腹癒せに、夢にふらりと現れる事にした。彼奴は少し驚いた様に目を見開いて、口を真一文字に引き結んだ。
「挨拶に来ないとはいい度胸じゃねぇか」
「近くを通ったからと言って、必ず訪れなくてはならない理由などないでしょう?」
そう言ってガンを飛ばすと、むくれた顔をしてそっぽを向いた。何時もならモヤの様な厄災が薄らと此奴の周りを覆っているのだが、今はそんな事はなく。微かに感じるのは知り合いの神の匂い。耐冬花の者だな。成程、俺の代わりに払ったのか。後で礼を言わねぇと。
そう思って、さっさと去ろうとした時だった。袖を掴まれる。
「今は供物がありますので。……この間、何もお渡し出来なかったので」
「あ゛? 前も言ったが、んな昔の事とっとと忘れろ」
それでも女は怯む様子もなく、持っていた小袋を俺に押し付けてくる。また袖離すつもりも無いらしい。
「貴方様はせっかちなのです。偶には、はったい粉片手に静かに話をしましょう」
「……お前に対して貸し一つだな」
「はったい粉だけに、ですね」
ちょっかい掛けるのは前も話した通り、厄祓いも兼ねてます。
だから来なかったのを心配して、夢を繋いで来てます。
でも直接的に言えないので、腹癒せと言ってます。
※素直じゃないところが、何となくツンデレ。
タイトルは「はったい粉」という「お菓子」から。
貸し一つと菓子一つを掛けてます。
実は耐冬花様と関わりのあるお菓子です。
『病気しないようにねー』と言って渡して欲しい*.(๓´͈ ˘ `͈๓).*