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異世界ガンスリンガー 〜静女に捧げる誠実な嘘〜  作者: ジュウニシカ
第1章 異世界への転移
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005-青色の髪の乙女

 ブラックドラゴンとの戦いで生き延びたものの、メインウェポンや弾薬、水や携行食といった物を全て無くしていた。

 目の前の危機は回避したものの、飢えや渇きといった別の危機が迫りつつある――。



「しかしまあ、なんでドラゴンなんかおったんや?」

「わかりません。でも、私が思うにココは異世界だと思うんですよ」


「いせかい? 何や急に……、まだ壊れてんな」

「しっかり復旧してますぅ〜」


「けど、あのドラゴンはどう見てもホンモノやったしな……、ほんまに異世界かもしれんよなぁ……」


「そうですよッ! GPSも未だに復旧しませんし、あの局地的な地震や、急な爆発は魔法ですよッ! アースクエイクやエクスプロージョンってな感じのッ!! あぁもうこれ、アニメや映画の世界みたいじゃないですかぁ〜ッ!」


 アニメや映画を見るのが好きなミオは、自分がそのようなファンタジーの世界にいるのが嬉しいのか、いつも以上に饒舌になり、テンションが上がっている。

 これとは対照的に、死にかけたクシードからすれば、そのお気楽な態度には少しイラつきを覚えていた。


「俗に言う異世界転移か……、コレって帰る手段とかあるんかな?」

「どうなんでしょうね。私が見てきたアニメを基準で考えるとケースバイケースでしたし……」


 帰れるのか、帰れないのか分からないのは、1番嫌なパターンである。

 

「まぁ……とにかく、あのドラゴンが戻ってくる可能性もあるし、ここを移動しよう」

 

 周囲を見渡しても広がっているのは起伏のあるただの草原。

 どこへ向かえば良いか分からないクシードは、ブラックドラゴンが去って行った方向とは逆方向へ進むことにした。



◆◆◆


 

 ただの高原を歩き続けているクシード達は、道中は“異世界と言えばやっぱりコレ”と言う内容で話し合っていた。


 異世界への転生・転移系は、2010年代にニホンで流行っていたそうだ。

 転生・転移する時に女神様と対面し特殊な力を授かり異世界で活躍する作品が多いらしい。

 

 それから約90年後の2100年代。ファッションの様にリバイバルブームとして、動画配信サービス内の作品から世界中で流行っているとミオはクシードに話していた。

 真偽はネット回線が圏外のため不明である。


 

「異世界と言えば女神様もありますけど、やっぱり、可愛い女の子との出会いが定番なんですよ!」

「まぁ、物語に美女はつきもんやしな」


「大体そうゆう出会いは、運命の出会いになるんですよね〜!」

「創作物あるあるやんな。期待してしまうわ!」


「あーでも、ダメですよ。期待したらッ! 異世界転移系は最終的にちゃんとお家に帰るのがセオリーですよッ!」

「なんでやねんッ! さっきケースバイケースや言うたやんッ!」


「用事が済んだらさっさと帰るが基本でーす!」

「用事って……、異世界っておつかい感覚でくるようなところなん……?」


 

◆◆◆

 

 

 数時間ほど歩くと、前方に川が見えてきた。


 川幅は約2m程度と跳んで向こう岸へ渡れそうなほど小さい小川。とても澄んでおり、ドラゴンの返り血を落とすには十分そうな水質だ。

 

 おそらく何かの川の源流だろう。

 一般的な考えでいくと下流には集落がある。

 

 クシードが下流方面を目で追うと、そのまま森へと続いていた。


「探索程度で森の中へと入りましょうか?」

「そうやな。あんなドラゴンがおるんなら、他にもモンスターは存在しそうやもんな」


 草原を闊歩していても何も遭遇しなかったが、森の中では、ゴブリンやスライムなど、異世界ではお馴染みのモンスターが出てくるかもしれない。


 クシードは両手に2丁拳銃【ファンネ&レーヴェン】を構え、ミオは有効範囲約100mの検知レーダーを展開し森へと進んだ――。



 

 川のせせらぎ。

 小鳥のさえずり。

 感じるフォトンチッド……。


 実家にいる様な心地良さから、思わず警戒心を緩めてしまうそうだ。


 

 川沿いを歩いていると、クシードは木製の桟橋を見つけた。さらに橋の先には、砂利敷きの道が続いている。


「人工物……」

「砂利道にはデコボコが、たくさん見られますね。修繕が後回しにされる様な、結構な田舎なんでしょうか?」


 この砂利道の道幅は、ミオの計算では4.8m程度。

 陸上走行型の乗用車が通るには十分な道幅だが、対向車が来た場合、すれ違うには狭い。


 そもそも異世界に自動車そのものが存在するかどうかは不明だが、橋と道、これらの人工物の先には集落があるに違いない。


 あとは左右どちらを進むか決めるだけだが――。


 

「――クシードさん! レーダーに生体反応ですッ! 16時の方向から2体、こちらに向かって来ています!」


 モンスターだろうか。


 周囲は樹木に囲まれており、現在位置からは目標(ターゲット)が見えないため恐らく相手も認識できていないはず。


 弾薬節約のためにも、余計な戦闘は回避したいところ。


 クシードは近くにあった茂みに身を隠し、腕時計型PCからホログラムで出力されているレーダーの画面をを注視しながら息を潜めた――。


 

 耳に神経を集中させつつクシードはレーダーの動向に注目していると、ブゥゥゥンと言う虫の羽音に似た不快音が迫ってきた。


 レーダーの反応から予測するに、クシードに向かって来る様子はない。

 道の上を飛行している様な動きだ。


 

 息を殺し、茂みの隙間から外の様子を覗いていると、蜂のような生物が飛んでいるのが見えた。

 

 赤ワインの様に真っ赤な身体の蜂。

 だが、前足が蟷螂(カマキリ)のように鋭利な鎌状となっている。

 体長は、約1mはあるのではないかと思う、巨大な蜂が横切って行った。


 道の上を真っ直ぐゆっくりと飛び、触覚を動かしていた。餌ではなく、何かを探しているのだろうか。

 

「……追ってみるか」

「はい」

 


◆◆◆



 ミオのバッテリー残量 残り――12%

 

 クシード達は、初めて見る蜂型の生物を追っていると、視界の先に人影が見えた。

 

 上空を飛ぶ2体の蜂は、前方の人影に向かって徐々に高度を落としている。

 同時に不快な羽音を消す飛び方に変わり、両腕の鎌を構えていた。


 どう見ても攻撃体勢――。


 クシードは両腿のホルスターから銃を抜いた。


 ミオの計算ではターゲットまでの距離は約80メートル程。


 2丁拳銃【ファンネ&レーヴェン】の有効射程距離は約50メートル。ターゲットをロックオンするにはまだ距離を詰めなければならない。

 

「おーいッ! 蜂どもに狙われとるぞぉぉーッ!」


 クシードは叫んだ。

 注意喚起の声が聞こえたのか、前方に居るその人は後ろを向いた。

 腰付近まである青色の長い髪と、柔らかい曲線の身体……。

 女性だ。

 

「前方の蜂、2体、エイムアシスト、ロックオン、レディーッ!」


 

 銃を構え、銃口から射出される2つの赤い閃光により蜂の頭は蒸発する。

 羽根はまだ動いているが、制御は効かなくなったのか躯体は左右にブレ始め、やがて地面へと墜ちていった――。


「大丈夫ですかー!?」


 クシードは、2丁拳銃を両腿のホルスターに収めると、優しく気遣いの言葉を掛けるように女性の元へ駆け寄った。


 女性は口を開けたまま。

 何が起こったの? と、唖然として立ち尽くしていた。

 

 間の抜けた表情ではあるが、この女性の顔立ちは整っており、凛々しさがある。

 晴天の空の様な青色の長い髪に、サファイアを思わせる綺麗な青色の瞳とぱっちりした二重。

 歳はおそらくクシードと同い年、21歳前後だろうか。


 ネイビーのロングスカートと、花柄のバックリボンがついたコルセット、青と白をベースとしたガウンのようなノースリーブ、といった服装は、まるでニホンのキモノを思わせる。

 

 ただ……、猫型の耳が頭頂部付近にあり、腰にはモフモフした上品な尻尾があった。


 耳は後ろへ向き、尻尾を太くして腰に巻きつけているあたり、警戒していると見てとれる。

 さすがに獣人のコスプレでも、このような生物的な動きはしないはず――。


 つまり、本物の獣人。

 本当に異世界に来たのだろう……。



 この未知の世界のネコ型美女っ娘との出会い。

 これはミオが言う、“異世界と言えば”

 

「運命の出会いやん……」

「エッ?」

「えっ?」


「あっ、あかん。今のはちゃうねん……」

「うわぁ……、クシードさん、マジキモい、マジ無理ィ、マジ――」


「マジなリアクションはやめてッ! 傷つくやんッ!」


 

 目の前にいる青色の髪の女性の瞳孔は大きく見開き、眼球は左右に泳ぎ始めていた。

 そして、震えながらゆっくりと身を引き始めていた。


「アアアーノ、アノ、ニ、リゲ、ゲゲ……」


 異世界に来ると、高確率でなぜか言葉は通じてしまうもの。

 つまり“運命の出会い”という言葉は通じている。

 初対面で、第一声がコレなら誰でもドン引きするだろう……。


 

 女性はクシードに背中を向けると、逃げる様に走り去っていった――。


 

「あぁぁ……、行ってもうた……」

「後で事情を話しましょう。フォローはしますッ!」


「後やなくて、今フォローせぇや……」


 第1異世界人との出会いは、ここで終了だ。


 

「ああぁぁーッ!!」

「なんや、急にどうしたんや?」


「クシードさんッ! 大変ですッ! レーダーに反応ッ! 後ろッ! 距離73m……、5体もいましたッ!」

「……このタイミングで?」


 クシードが振り返ると、先程撃墜した蜂と同じタイプの集団が見えた。

 

「フラれてヘコんでる場合じゃないですよッ!」

「わかっとるし、フラれてもヘコんでもないわッ!」


 クシードは再び銃を構えると、迫り来る生物との戦いに備えた。

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