049-対策会議
勝手に美青年を想像していたパーレットは、バクチクガーマ掃討の依頼主であるダバ専務との顔合わせで現実を知り、好みじゃなくて落胆していた。
しかし、依頼を受託した以上、始末へ向かわなければならない――。
「あーあ、あの専務、マジキモかった」
「態度変わりすぎやで! パーレット!」
「だって説明している間、ほとんどミルフィとアマレティのおっぱいばっか見てたじゃん!」
「握手もぉ、変に長かったぁ〜」
「消毒……したい……」
2人ともアウターの下は、艶かしいボディラインを強調するピッタリとしたインナーを着用している。
ダバ専務も男性だ。
見た目が女性に見えるクシードも気持ちを理解できるところはあるが、セクシャルな行動は自制しなければならないと改めて思う。
裏では、こう言われているわけだ。
「――それより、明日から本格的に行動するから、情報収集のために二手に別れましょ」
3チームによる合同ミッションと銘は打っているが、実際はチーム対抗戦。
敵はバクチクガーマ以外にもいる。
パーレットとアマレティは、現場の状況を確認し必要用品の調達。クシードとミルフィは、現地の人からバクチクガーマや鉱山内の注意点などの聞き込みをすることにした。
「――じゃあ、17:30に宿のロビー集合ね。ご飯を食べながら会議よッ!」
◆◆◆
時刻は11:00過ぎ。
クシードとミルフィは、ニーターラの商店街に向かい、適当に目に入った武器屋にいた。
「バクチクガーマはピンクやイエローとかド派手な色してっけど、危険を感じたら自爆するんだ。迂闊に近づいたり、中途半端に攻撃すると爆発するから、眉間の部分を狙うんだ。そうすりゃ即死だぜ!」
「でも、近づかないとダメなのですよね? ワタシ、武器が銃なので近づくのはちょっと……」
「姉ちゃんの属性は?」
「無属性です」
「氷属性じゃねぇと厳しいな……。そうしたら、その辺の石とかを投げるんだ。バクチクガーマは腹を膨らませてから爆発するし、膨らんだ腹を撃つといいぜ!」
「大丈夫なんですか?」
「結局爆発するから、あまり勧めらねぇけどな。でも、威力は格段に抑えられるぜ」
「アドバイス、ありがとうございます! 町のみなさんのためにも、ワタシ頑張ってきます!」
「気をつけてくれよ。ああそうだ、少ねぇが、これを持って行ってくれ。俺からの差し入れだ」
武器屋の亭主は、クシードに回転式拳銃・デルバデルス用のマグナム弾とショットガン・オルフラッシェン用の散弾とスラグ弾を差し出した。
「姉ちゃん、無事に帰ってくるんだぜ」
「マスター、ありがとうございます!」
クシードは亭主の手を握り、笑顔でお礼を告げて武器屋を出た――。
女装することで情報を引き出し、なおかつ無料で銃弾も手に入れることができた。
こうも簡単に行くと、なんだか女装が楽しくなってくる。
良い成果を上げることができて、クシードがご機嫌になっていると、ミルフィの視線を感じた。
「ミルフィ、どうしたん?」
「……オカシイ、で……」
「そうか? 別にオカシくはないやろ?」
これは女装したオトコに負けて悔しいとか、その類いだろう。男心を知っているオトコが女装して、チヤホヤされたことに嫉妬でもしているのかもしれない。
男は女を外見だけでは判断しない。
内面の良さ、つまり性格や所作、仕草も少なからず見ている。
愛想良く、明るい笑顔を振り撒き、これちょっとイケるんちゃう、って思ったらスキンシップだ。
顔やスタイルに自身が無くても、これなら大体の男の心を掴むことができると思う。
「まぁ、男のことは男が一番分かってんねん」
「……ちゃう、胸の、位置……」
「えっ?」
「ズレてる……で……」
クシードは、商店街のショーウィンドウに写る、自身とミルフィの姿を見るも特段変な所は無い。
「も、もう、チョイ、こう……、上……?」
ミルフィに促されながら、彼女の豊かなホンモノを参考にし、ハンカチを詰め込んだだけの標準的な偽造品の調整を行った。
言われてみれば、曲線がよりキレイになった気がする。
「……ブラ、した方が、ええよッ!」
「いやや! 男の尊厳は守らせてほしいわッ!」
いや、絶対着けた方がいい! と、ミルフィはランジェリーショップへ連れて行きたく、尻尾を振って興奮気味にグイグイと迫るがクシードは断固拒否していた。
悔しいという感情は一切無く、むしろ女装のクオリティを上げにかかるとは……。
やはりミルフィは強い女である。
その後、下着屋に行くことはなく、他の武器屋や宝石屋と言ったモノノケや鉱山に関係しそうな店を巡り、約束の時間を迎えた――。
宿屋内に併設された大衆食堂にて、クシードとパーレットはディナーを頂きながら、お互いに調べてきた内容について報告を行っていた。
「――あたし達、少しだけ鉱山内に入ったけど、中は結構明るかったわ」
「蛍光晶って言うぅ、魔石のおかげなんだってぇ〜」
「けど、戦闘になって間違えて破壊する可能性もあるわな」
鉱山内は明るいと言っても何があるかわからない。視覚を奪われないよう暗視ゴーグルは必要だ。
「あーそうそう、鉱山内は、バクチクガーマ以外にもモノノケがおるようやで」
クシードの言葉に合わせてミルフィはスケッチブックを取り出し、その他のモノノケの似顔絵が書かれたページを開いてパーレットとアマレティに見せた。
「岩石系のモノノケ“ジェオドゥドゥ”や半魚人系の“スタンナマズン”とゆうのもおるみたいやわ」
ジェオドゥドゥは、岩に腕が生えており、原理は不明だが宙に浮いているモノノケ。ハンマーなどの打撃系による攻撃が有効らしい。
ジェオドゥドゥはあまり強くないが、かなり硬い。舐めて挑まなければ苦戦はしない。しかし、ナマズのようなヒゲを生やした半魚人、スタンナマズンと遭遇した場合は全速力で撤退をしろと、町の人は教えてくれた。
「スタンナマズン……? そんなにヤバいやつなの?」
「滅多に出てこへんみたいやけど、“警戒”のグリスタでも見つけられへんし、いきなり現れて人間を丸呑みにされた事例があるんやと」
「えぇ〜、こわぁ〜い」
「フンッ! そんなヤツ、あたしが斬ってやるわッ!」
「いや、攻撃すると動けなくなるみたいやで」
「魔法でもぉ〜?」
「事例が少ないし、そこまでは知らんけど武器で攻撃した矢先、痙攣してたって言うてたわ」
「攻撃したら痙攣……、感電でもしていたのかしらね」
「感電ってことはぁ、雷属性だよねぇ〜?」
バクチクガーマを安全に倒すには弱点の氷属性、岩であるジェオドゥドゥには雷と炎魔法は不利で斬撃も有効打にはなりにくい。
そしてスタンナマズンに近接攻撃は悪手であり、魔法も効くかは不明……。
「……今回はあたし達のパーティにとって不利な条件が多いわね」
ため息混じりに嘆くように、パーレットは呟いた。
唯一まともに戦えるのは、クシードのみ。
デルバデルスの氷遁弾による氷属性攻撃や、オルフラッシェンの散弾とスラグ弾による粉砕的な破壊力で対処できるが、弾薬には限りがある。
パーレットが言う通り、3人いるアタッカーの内、2人が劣勢となると状況は良くない。
今まで順調に事が運んできた分、現地で苦戦が強いられるとわかると、4人の食事のスピードは滞っていた……。
「……まぁ、そう……、気を落とさんと。まだ最悪の事態になってへんし、今は対策を考えればええやろ?」
どんよりとした雰囲気の中、少しでも風通しがよくなればと、クシードは口を開く。
「よう言うやんか、計画は悲観的に実行は楽観的にってさ――」
「うん……、そうよね。不利なのが分かっただけで、まだ何も起きていないものね」
パーレットは顔を上げると、メンバー全員を見渡した。
「ホラ、みんなシャキッとして! せっかくのご飯も冷めちゃうよ! 俯いていないで、とにかく行動あるのみよッ!」
「行動?」
「対策その①ッ! 押してダメなら引いてみなってことで、岩石系のモノノケは、“斬ってダメなら殴る”よ! あたし、武器屋に行って打撃武器買ってくるッ!」
パーレットは自分の料理を急いで口へ掻き込んだ。
「――パジャマに着替えたら、寝る前にミーティングよッ! わかったッ!?」
空となった食器だけを残し、口をモゴモゴと慌ただしく動かしながらパーレットは外へと走って行った。
「行っちゃったねぇ〜」
「てか、斬ってダメなら殴るって、どんな理屈やねん……」
岩石系のモノノケ対策にしかなっていないが、リーダーに最も求められる能力は“決断力”。
誤った決断を下すと、メンバーが危険な目に、最悪全滅の可能性もある。
そして、その決断もスピードが必要だ。
不利な状況下でも解決策をすぐに出し、即行動へ移すパーレットの行動力は目をみはるもの。
だが、スピードが早すぎてメンバーが物理的にも置き去りだが……。
「はよ寝られる様に、オレらだけでも他に想定されることを考えて、解決策を出しとこうか」
「りょうかぁ〜い」
「……うん、了解……」




