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異世界ガンスリンガー 〜静女に捧げる誠実な嘘〜  作者: ジュウニシカ
第1章 異世界への転移
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004-黒鉄の巨大竜③ 〜決着〜

「――バッテリー、残量 41%、フィジカルアシスト……、耐力強化支援(タフネスアシスト)、エラー、です。クシード、さん、一撃、デモ、喰らえば、即死(ジ・エンド)です……」

「……わかった」


 吹き飛ばされた衝撃でアシスト機能の一部が破損したのだろう。

 だが、身体能力向上(フィジカルアシスト)超集中(エクストラゾーン)を駆使すれば、ブラックドラゴンの攻撃は当たることはない。しかし、超集中(エクストラゾーン)の使用回数制限、残った武器、バッテリー残量を考慮するとジリ貧だ――。

 


 堅牢なブラックドラゴンに唯一攻撃が通りそうなのは、眼球と予測できたのは良かったものの、長い首をしならせ立体的に不規則な動きを見せており、眼球の大きさはピンポン球並み。

 それがキリンよりも高い位置にある。

 いくら動的狙撃補助(エイムアシスト)であっても、地上から精密に目玉を撃ち抜くのは困難だ。

 

「目ん玉を撃ち抜くんなら、噛み付いてきた時やな」

「向こう、から、近づいてきた、時に、撃ち抜く、ワケですね」


「そや。ミオ……、頼むで」

「……責任、重大、じゃあ、ない、ですかッ!」


「スーパーAI様ならいけるやろ! 他に方法は無いんやッ! もう、やるしかないんやでッ!」

「失敗、しても、責めないで、下さいよぉーッ!!」


 噛みつき攻撃を誘発するには、ブラックドラゴンの懐に入る必要がある。

 両前足の攻撃を避けながら機会を待つしかないが、下手に距離を取ると、再度地震を起こされる可能性も否めない。

 

 それに防御力を強化する耐力強化支援(タフネスアシスト)が機能しない以上、投石や転倒など不意な衝撃には注意しなければ――。



 ブラックドラゴンはクシードを掴み取ろうと剛腕を振るった。

 相変わらずの単調な動きなので空を切るばかり。


 しかし、地面をえぐる程の破壊力。(かす)りでもすれば簡単に身体は引き裂かれてしまうだろう。

 動きを見誤ったりはできない。

 油断は禁物だ。


 

「頭部、ロックオン、レディ!」


 2丁拳銃【ファンネ&レーヴェン】のロックオンが完了した。あとは、噛みつきを誘い、近づいてきた所で眼球にロックオンを切り替えて連続射撃支援(クイックアシスト)による超速連射で撃ち抜く。


 

 ミオのバッテリー残量 残り――37%


 ブラックドラゴンが叩き潰すように右腕を繰り出し、クシードが前宙(フロントフリップ)で回避した時だった。

 

 長い首を伸ばしてブラックドラゴンはクシードに頭を近づけてきた。

 瞬間、クシードは超集中(エクストラゾーン)を発動する。

 

 グレネードランチャーの経緯を鑑みれば、口を開けるのは捕食に入る直前。

 獲物を確実に捕らえるまで、目を離さない……だろう。

 瞬きをされる可能性は低いが、少しでもタイミングがズレれば失敗だ。


 首は鞭のようにしなっているが、その特性を活かしてたフェイント攻撃は考えにくい。

 ミオも両腕の動きに変化は無られないのか、信号は送ってきていない。

 焦らず、落ち着き、相手の動きをよく観察するだけだ。


 

 口が一瞬だけ動いた。


 

 横へ1回転をする様にクシードはブラックドラゴンの噛みつきを避けると、ブラックドラゴンの左目に2丁拳銃の銃口を向けた。


 腕が自動的に動き、照準がピタリと定まった。

 ミオがロックオンを眼球への変更を成立させている――。

 

 1発、2発、3発――。

 トリガーを弾く、指先が軽い。



 刹那の時間にクシードは計8発の銃弾を撃ち込んだ。


 銃弾は彼の目論見通り、ブラックドラゴンの眼球は粉砕され、青い鮮血を撒き散らしながら仰反(のけぞ)り、苦痛の咆哮を天に向かって放ち始めた。

 

 

「ハハハッ! どうやッ! 窮鼠は猫を噛むんやでッ!」


 ようやく一撃を喰らわしてやったと、クシードは超集中を解除し、尻もちをつきながら、その様子を見上げていた。


「ゔぅッ!!」

「クシードさんッ!」

 

 調子に乗って油断をしていると、空から青い返り血がクシードの顔面に降り注いできた。


「オヴェェーーッ! マッズゥ、ぺッ! ぺッ!」

「大丈夫ですか?」

 

「ヴべェェー……、微妙に飲んだ、最悪や」

「たぶん大丈夫ですよ」

 

「もうちょい心配せえや……」

「あーッ! クシードさん! 見てくださいッ!」


 再びブラックドラゴンの周りに光が舞っていた。

 もう一回、あのピンポイント地震が来る。

 

 青い鮮血を拭って視界を確保し、クシードはバックステップで距離を取りながら地震に備えた。


 

 ブラックドラゴンは両前足を持ち上げると、勢いよく地面を叩いた。

 瞬間、クシードはさらに距離を取るように後方へ大きく飛び跳ねるが、地震は発生しなかった。


 代わりに熱を帯びた強風……。

 大気を震わす爆発音が発生した。


 一体、何が起こったのかクシードは理解出来ていない。

 

 唯一理解できるのは、爆風に吹き飛ばされ、空中でバランスを崩して頭を地面に向けていること。

 

 このままだと、地面に激突してしまう。


筋力強化支援(パワーアシスト)ぉぉーーーッ!!」


 クシードは叫んで、ミオに指示した。



 激突の瞬間、腕力と脚力を強化し、地面に暴力を振るって直撃する力を和らげたが……

 

「あああああぁぁぁーッ!! 痛いぃぃーーッ!!」

 

 耐力強化支援タフネスアシストと併用しなければ、衝撃は身体に跳ね返ってしまう。


「クシードさんッ! しっかりして下さいッ! 身体にケガは見られませんッ! 今、アンチペインを起動しますッ!」


 トラックに撥ねられたような鈍くも重い痛みが全身を走っていたが、ナノマシンスーツの作用で次第に緩和されていく――。


 そうだ、今は戦闘中だ。

 いつまでも、痛がって倒れている場合ではない。


 腕と脚はまだ痙攣している。

 休息を要求してくるが無理にでも動かし、クシードは立ち上がってブラックドラゴンを視界に収めた。


 

 彼の瞳には、口を開けて身体を大きく見せているブラックドラゴンの姿が映っている。

 映画やアニメで良く見る、この体勢――。


「口元から熱源反応ですッ!!」

「あかんッ!!」


 クシードは早急に周囲を見渡した。


 ドラゴンの炎の息が来る――。


 立ち止まっていては焼き殺される。

 クシードは嫌がっている脚を、ナノマシンスーツと生存本能の力で強制的に動かした。

 同時に、ブラックドラゴンはクシードに向けて灼熱の咆哮を放つ。


 迫り来る業火から逃げるように、隠れるようにクシードが飛び込んだ先――。


 

 身を倒し、黒煙を吸わぬよう息を殺す。

 あぁ……、背中が熱い。


「クシードさん……、熱い、ですよね。今、冷却システムを稼働させます!」


 骨の髄から肉を煮るような熱さと酸素不足で、意識が遠退きつつあったが、徐々に意識が戻ってくる。


 

 ブラックドラゴンが起こした爆発で、大地の起伏が一層激しくなり、ところどころがデコボコに変形して形成された塹壕内。一見、火炎放射が届かない安全な場所に見えたが、それでもかなり状況だ。


「クシードさん。ブラックドラゴンは8時の方向、距離28メートルです。身をかがめてそのまま14時の方向へ進んで下さい」


 ミオは検知レーダーを展開して半径100メートル内の環境を把握し、クシードを安全なルートへ案内する。


 塹壕の外は焼殺が免れない炎の平原。

 鎮火するまで待機したいところだが、重厚な振動が地面を伝って響き、そして迫ってきている。



 見つからないように地を這い、ミオのナビゲートに従いクシードはその場を離れた――。



 ブラックドラゴンの息遣いが聞こえる。

 焼き殺した獲物を探しているのだろう。

 

 ミオの情報だと距離は約7メートル。


 大地からの振動を伝って、周囲を確認しているのがわかる。そして、炎で囲われ移動は制限されている……。

 上手に身を隠せているはずだ。

 

 ブラックドラゴンの息遣いがどんどん荒くなると、耳をつん裂く咆哮が襲った。

 それと同時に嵐のような強風が吹き荒れる。


 火炎旋風でも巻き起こし、一帯を焦土化するのかとクシードは警戒したが何か様子が違う。

 どちらかと言えば、炎をかき消していた。

 

 山火事を起こしたせめてもの償いかだろうか。

 いや、ドラゴンにそのような倫理観は存在しないと思う。


「クシードさん……、上……」

「!?」


 強風から視界を確保しつつ、視線を空に向けると上昇しているブラックドラゴンの姿があった。

 真上から俯瞰的に状況を確認する気だ。


「このままだと見つかってしまいますッ!」


 クシードは咄嗟に黒く焼け焦げた大地を掻き分け、ミオの電源を切ると、羽織っていた真紅のロングコートを脱いだ。

 仰向けになると穴に頭を突っ込み、コートは背中に隠して、黒色のナノマシンスーツだけの姿で顔を腕で覆う。


 腕の隙間から翼を大きく羽ばたかせているブラックドラゴンが視界に入る……。


 しかし、その姿は徐々に小さくなり、遠く彼方へ叫ぶような声を上げると、そのままどこかへ飛び去って行った――。



「――助かった……んやな?」

 

 クシードは立ち上がってその姿を目で追っていたが、やがて見えなくなると、その場で腰を落としていた。

 

 あれは一体、何だったんだろう。

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