042-星空と共に進む道
時刻は、17:00を迎えようとする頃、クシード達は、レッサーテング討伐依頼の完了報告のため、シーブンファーブンに到着した――。
「その新型って言ってるヤツは、レッサーテング・グゥソーっていう上位種で、この辺じゃあ初めてだね。ブルーからグリーンランク相当のモノノケだけど、そいつに勝っちゃうなんて、パーレットやるじゃん」
「いえいえ、無事に勝てて良かったです」
「てか、一応報告書以上の数で討伐しているけど……、もっといなかったの?」
「いましたけど、スナッチで吸収できないくらい、消し炭にしてしまいまして……」
「ふーん。まぁ、いいか、合格で。どうせ、レッサーテングなんて湧いて出てくるんだしさ」
「キャルンさん。ありがとうございます」
あの勝気なパーレットがキャルン先輩の前だと低姿勢……。
「特別報酬もあるから用意しとくね。あーそうそう、クシード、ミルフィ、おめでとう」
「えっ? 何ですか? 急に」
「ネイビーランクに昇格したのよ」
「ネイビーランクに昇格……?」
「そうだよ。ホラッ、さっさとバッジ頂戴。クラスアップさせるから!」
急かす様に要求されたクシードとミルフィはバッジを手渡すと、キャルン先輩は受付の奥にあるバックヤードへ行き、数分経つと戻ってきた。
「はい、ルーキー卒業おめでとう! これからが本番なんだからバンバン頑張りなよ!」
パープルカラーからネイビーカラーの輝きを放つ冒険者の証。
昇格することは良いことなのだが、こんなに淡々とされると喜んでいいものなのかどうか……。
「――オイ、クシード。何ボサッとしてんの? 営業時間はとっくに過ぎてんだからさっさと帰りなよッ!」
時刻は18:00手前。
シーブンファーブンの閉店時間は17:30だ。
キャルン先輩に半ば追い出されるように、クシード達は外に出た。
「さーて、この後みんな時間ある……でしょ? 報酬の分配でもしながら、一緒にご飯でもどう?」
「いいよぉ〜、行く行くぅ〜」
クシードはミルフィを見ると、目をキラッキラに輝かせていた。
行く気満々だ――。
「オレらも行くで」
「じゃあ、決まりね! 早速行きましょ!」
打ち上げと言わんばかりに、クシード達は飲食店の多い繁華街地区へと向かった。
◆◆◆
「レッサーテング討伐依頼達成と、クシード、ミルフィのランクアップを祝って――」
「「「「かんぱ〜い」」」」
活気に溢れる店内。
盃を掲げる場所はビアガーデン。
黄金色に染まったグラス。
濃密でクリーミーな泡。
口付けを交わすと滑らかに喉元を通り抜け、背中からくすぐられる官能的な刺激は、戦闘で疲労が溜まった身体をほぐし、とても心地がいい。
「っああぁーーー、身体に染み渡るわぁー!」
「仕事を終えた後のぉ〜、一杯ってぇ〜」
「なーんで、こんなに美味しいのかしらね?」
「…………うん」
「さて! 酔っ払っちゃう前に報酬を分けなきゃね」
「そうだよねぇ〜、ウチもう、グラス空だよぉ〜」
「ハイペースやんな、アマレティ」
パーレットは封筒を3つと、一枚の用紙をテーブルの上に置いた。
「報酬額は、手取りで16,000ジェルト。1人4,000ジェルトよ。これが明細だからキッチリ確かめてね」
「ちゃんとしてるぅ〜、ありがとぉ〜」
「ごまかしたりせんのやな?」
「当たり前でしょ! 高潔なるロンイー族は、そんなセコいことなんかしないわッ!」
ミルフィとの勉強会で数字は読めるようになったクシードは、封筒の中身を確認した。
「確かに4,000ジェルト受領したで」
「それと、特別報酬が出たから、今日はあたしが奢ってあげるわ! みんな好きなもの食べて!」
「え? いいのぉ〜? やったぁ〜」
「ほんまにええんか?」
「いいわよ。だって、みんな頑張ったんだからさ」
パーレットは澄ました顔で嗜むようにビールのグラスを口に当てた。
「よっしゃ! ミルフィ、アマレティ。高いモンばっかりオーダーするでッ!」
「少しは遠慮しなさいよッ!!」
声を荒げるパーレットには構わず、クシード、ミルフィ、アマレティの3人は料理のオーダーを行いに受付へと走った。
――程なくして料理が運ばれた。
細やかなトリュフが散りばめられたクリームソースのニョッキ。
一口サイズに切り分けられた、牛ヒレ肉のステーキ。
ガラスのクローシュにスモークを閉じ込めた魚介類のカルパッチョ……等、他多数。
星空を眺めるオープンテラスのビアガーデンで、このような本格的で豪華な料理が食べられるとは、非常に喜ばしいこと。
パーレットに感謝だ。
「ふ……、太ら、へん……かな……?」
「ミルフィ、今日はチートデイや。ニッコーサさんも、たまには必要やって言うてたやん!」
「そぉだよぉ〜、いっぱい食べてぇ〜、い〜っぱい飲もう〜。ダイエットは明日からぁ〜」
「……コイツら、マジで高いヤツたくさん注文してるよ……」
嬉々としてる3人とは別に、パーレットは注文伝票を見て危機を感じて震えていた――。
「それにしても、グゥソーだっけ? 新型のレッサーテングを見た時、最初はどうなるかなって思ったけど、うまくいったわね」
「そうやな」
「そうだねぇ〜」
パーレットの言葉に納得するクシードとアマレティに合わせるように、ミルフィはウンウンと頷いていた。
「あと、あたし、独創魔法なんて初めて見たわ。噂通り、破壊力抜群ね。すごくビックリした――」
「ほんまやな……。このスモーク演出のカルパッチョ、ええ香りするしビックリやわ」
「メニューにはぁ〜、チェリーの燻製って書いてあるよぉ〜」
「なんかさ、あたし、会って間もないのに、気心知れた温かい感じがして、すごく戦いやすかったの――」
「せやなぁ。温かい肉も冷めたら固くなるし、早よ食べなあかんな」
「ソ、ソース……」
「ミルフィ〜、ホースラディッシュ(西洋わさび)つけるとぉ、おいしいよぉ〜」
「あたし、今まで色んな人達とパーティメンバー組んできたけど、こんなにもやり易かったのは初めての経験なのよね――」
「トリュフって細かくして散りばめると、香りが鼻に広がるし、コリコリした食感は初めてやわ」
「すごく美味しいねぇ〜、ビールが進むぅぅぅ〜」
「おい、ひい……」
「ちょっと、アンタ達ッ! 聞いてるのッ!?」
「ちゃんと聞いてんで。あれやろ? 会って間もないんに、気心知れた温かい感じがして、すごく戦いやすかった的な言うてたんやろ?」
「あとぉ〜、色んな人達とパーティメンバー組んできたけどぉ〜、こんなにもやり易かったのは、初めての経験的な事も言ってたよねぇ〜」
「“的な”じゃなくて全部正解よ……。ってか、何で聞いているのよッ! 聞いてなくて、あたしに怒られなさいよぉぉーーーッ!!」
パーレットの怒りの一声は、活気にあふれたビアガーデンの喧騒を包む、星屑が瞬く夜空に呑み込まれてしまったが、4人の宴はこの後も楽しく続いた。
◆◆◆
「あぁ〜ウチぃ、しあわしぇ〜。おいひぃおしゃけとおいしいごはんとぉ〜、そしてぇ、なかまといっしょに、たのしいじかんすごせてぇ〜」
「仲間って……、きのう、おととい会ったばっかやで」
酔いが回ったのかミルフィの目はトロンと垂れている。このまま行けば、おねむの時間だ。
「仲間……ねぇ」
ビールグラスを片手に、パーレットは少し思いつめた表情で言葉を漏らすように呟いた。
「あたしさ……、酔った勢いとか、そんなんじゃ無いんだけど……、真面目な話、していい?」
「ええよ。かまへんで」
「いぃぃ〜よぉぉ〜」
アマレティは両手を拡げて伸びながら、座らない首と眠たそうな目でいた。
彼女の前には空になったグラスが4つ並んでいる。しかし、同じグラスで何杯かおかわりしていたので、そうとうな量を飲んでいる。
何かと自由なお姉さんだ……。
「あたし、この4人でね、パーティを組みたいと思うの」
「ええよぉ。かまへんでぇ」
「いぃぃぃ〜よぉぉぉ〜」
「アンタ達、酔ったノリでオッケーとかしてないわよね?」
「あのなぁ、ちゃんとなぁ、セーブしてなぁ、呑んでんねん。パーレットがな、おると心強いねん。よろひくやわ」
「いぃぃぃ〜よぉぉぉ〜」
ミルフィは、目を瞑り、船を漕ぎそうな状態で頷いた。
「酔ってたからって言い訳は許さないよッ! 明日、早速シーブンファーブンに行って、マジで登録しちゃうからねッ! わかったッ!?」
「おぅ、りょうかいや」
「いぃぃぃ〜よぉぉぉ〜」
「……」
「あと、リーダーはあたしだからねッ! わかったッ!?」
「う〜ん、りょうかいや」
「いぃぃぃ〜よぉぉぉ〜」
「……すぅ」
――どう見ても酔った勢いでの承諾。
けれども、クシードとミルフィの2人に仲間が増えた。
ショタコン疑惑が残る自称高潔な魔法剣士パーレットと、大胆露出系の不思議ちゃん黒魔道士アマレティ。
ちょっとクセの強い彼女達と共に、クシード達は次なるステージへと進む――。
第6章 レッサーテング討伐編……終わり
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これからもよろしくお願い致します。




