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異世界ガンスリンガー 〜静女に捧げる誠実な嘘〜  作者: ジュウニシカ
第6章 レッサーテング討伐
42/52

040-全開!

 黒煙を切り裂き、スポットライトのように照らす太陽の光。

 その芸術家は、キャンバスに描かれた作品を得意としているが、今回は自身をキャンバスに見立てて作品とした。

 

 神々しく照らされる姿は、まさに女神。

 

 本来は恥じらいの姿ではあるが、全く動じることも無く堂々と全てを開放し、コンプライアンスなど一切関係無しに表現する豪快さ。

 

 女性が持つ神秘的な美しさと、禁欲的な思想を打破するこの感性は、まるでイタリアを代表する芸術絵画。


 

「これは……、ヴィーナスの誕生……やん」

「どう見ても、ジーザスの誕生でしょッ!!」


「パーレット、上手いこと言ってるようで言うてないで」

「うるさいッ! 黙れッ! 白髪頭ッ!」


 アマレティの周辺だけは落雷による被害はなく、緑が茂っている。足元には綺麗に畳まれた彼女の衣類があり、一糸纏わぬ姿で恍惚とした表情でいた。


「ちょっと、アマレティッ!! あんたアタマ、イカレてるでしょッ!? 早く服を着なさいッ!!」

「ああぁ〜〜開放感ん〜〜、たまらん()()()ぇ〜」

 

「…………」


 クシードは、アマレティという作品を目に焼き付けようとしていたが、突然、視界が真っ暗になった。

 

「み、み見たら、あああかかんかん、で……」

「ミルフィ〜、どうしたんや〜、暗くって何にも見えなぁーい! なぜ……目隠しをするんやぁ〜」


「もう何なのコレ? カオス過ぎるわ……」


 

◆◆◆


 

「ごめんねぇ〜、テンション上がっちゃってつい〜」

「テンション上がったからって、普通は脱がないわよ」


「オレは全然構わへんで!」

「あんたは黙っていなさい!」


 ミルフィは不快な生物を見る目でクシードを見ていた――。



「それよりも、あたし、聞きたいことがあるんだけど」

「あー、オレもあるわ」

「なになにぃ〜?」


 パーレット、クシード、ミルフィ。

 この3人がアマレティの行動に対して疑問を抱くことは当然だ。


「あの雷魔法は何なん――」

「あんた、なんで脱ぐの――」


 クシードとパーレットは同時に話し、各々の言いたい事が被った。


「脱ぐのは今、聞かんでもええやん!? せやろ? ミルフィッ!」

「大事に決まってるでしょ! 人前で裸になるなんて異常よッ! ねぇ? ミルフィッ!」

「あ、あのあああのえっと……」


 慣れない人であるパーレットの前での発言、と言うのもあるが、ミルフィとしてはどっちも気になるため、どちらの意見に賛同すべきか困惑していた。


「あのねぇ〜、今の雷魔法はぁ、ウチのとっておきぃ〜。“独創魔法”だよぉ〜」

「へぇー、どおりで聞き慣れない詠唱だと思った。あたし、独創魔法なんて初めて見るよ――」


 魔法の上級者が扱えると言う、詠唱者専用の魔法“独創魔法”。

 唯一無二の魔法が使えると思うと、中身はアレだが、アマレティはすごい人なんだなと思う。


「――で、何で脱ぐ必要があったの?」

「ん〜とねぇ〜、ガマン出来なくなっちゃってぇ〜」


「……ねぇ、アマレティ。よーく聞いて」


 パーレットは念を押すようにアマレティを見つめた。


「あなたは変態よ。頭がイカれてるわ」

 

「おいおい、パーレット。ドストレートに言い過ぎちゃうか? 少しは言葉慎んだらどうやねん!」

「何よ、どう見てもコイツ、ヤバいでしょ……」


 イラついた口調でパーレットはクシードを、睨みつけるも……


「えへへへへへへへぇ〜、もっとぉ、もっと強く言われたぁ〜い」


 殺伐としたクシードとパーレットの雰囲気はよそに、ハイになっているアマレティは、快楽を得た表情で身体をくねらせ、非難の言葉を受け入れていた。


「……ごめん、パーレット。言うてること正しいわ。コイツほんまに変態や」

「……別にいいわよ。謝らなくても……。とりあえず、このままだと先に進まないから、洞穴内の確認へ行くわよ……」


 変態をまともに相手をしていると、進むものも進まない。

 

 クシード達は、ニヤニヤしているアマレティに構うのをやめ、洞穴内へと進むための準備を始めた。

 しかし、準備を始めた途端、アマレティはその場で座り込んでしまう。


「アマレティ、休憩するのもいいけど、あたし達の準備が整ったらすぐに行くわよ。日が暮れる前に帰らなきゃならないからね」

「あのねぇ〜……、実はぁ〜、魔力がもぉほとんど無いのぉ〜」


 あれだけの威力を誇った独創魔法。

 それ相応に、極限まで魔力を消費し、その反動が跳ね返っているのかもしれない。


 でも……。

 

「そうなんや。じゃあ、置いてくか?」

「クシード、そうしたいけど、流石に敵の本拠地に置き去りはマズイでしょ」

「あっはぁ〜、放置プレ……、う〜んと、今は無防備だからぁ、連れて行って欲しいなぁ〜」


 多少悩むところはあるが、いくら変態でもアマレティがいなければ、レッサーテングの大群相手にタダでは済まなかったと思う。

 本日のMVPを置いていくなど、本人が望んでもやるべきではないのだろう。


「しゃあないなぁ〜、今回だけやで、アマレティ。おんぶしたるわ」

「ぬへへへへへぇ〜、クシードぉ、ありがとおぉ〜」 

「ちょっと待った! ゴメン、ミルフィに頼めるかしら?」


「いやいや、オレやるよ」


 なんだかんだ変態でも、スタイル抜群の綺麗なお姉さんをおんぶするなんて、中々無い機会である。

 是非とも背負いたいのだが――。


「レディに重たい物を持たせるのも、正味どうも――」

「あぁー! ウチ、重たくなぁぁーーいッ!! 確かにぃ、最近ちょっと太ったけどぉ〜……」


「ゴメン、そうゆうつもりで言うた訳では無かったんやけどな……」

「はーい、クシード2点目ぇ〜。女子に対する礼儀を欠いたわね」

「ミルフィ〜、ウチ重たいけどぉ〜、おんぶしてくれるぅ〜?」

 

 ミルフィは首を縦に振って頷いた。


 3点目を獲得してハットトリックを決めたらどうなるのだろうか?

 それにハーレムパーティってこんなにシビアだっけ……?


 

「ゴメンねミルフィ、重たい物を背負わせて。洞穴内で戦闘になった時、クシードみたいなヤツでも前線に立たなきゃならないの」


 自業自得とは言え、言葉の一つ一つにトゲがある。

 あぁ、早く帰りたい……。




 

 

「――さっ、準備はオッケーよね。防臭スプレーするから皆んなコッチ来て!」


 これからクシード達が向かうのは体臭のキツいレッサーテング達の巣窟。

 洞穴内は視覚もさることながら、嗅覚も奪われる。

 服や髪にも臭いがつくため、精神的なダメージにも備えなければならない。

 

 防臭剤を綿密に散布後、クシードとパーレットは暗視ゴーグル、ミルフィは“凝視”のグリスタを装備(ストック)し、工事現場で見られるような防塵マスクを全員装着して、洞穴内へと入った。


 

◆◆◆


 

「わぁ〜、真っ暗だねぇ〜」


 アマレティは残り少ない魔力温存のため、インテグレイションを解除している。つまり、生身の状態だ。

 

 魔法は、本人の魔力とグリスタ内の魔力が統合されて、初めて発動が可能になる。しかし、グリスタ内に魔力は残っていても、本人に魔力が無ければ使用できないのだ。



 

 

 洞穴内は、あまり窮屈さは感じられない空間が続く一本道だった。

 

 だが、思っていた以上に深い。

 入口付近でアマレティは、“警戒”の補助グリスタで検知を行ってくれたが、検知範囲を超えている。

 

 魔力が枯渇しかけているアマレティに、これ以上働かせるわけにはいかない。

 かと言って、パーレットやミルフィは警戒のグリスタは扱えるかと言えば、扱えない。


 レーダーが無い状況のため、奇襲に備えて、クシードは辺りを注意深く観察していた。


 

 路面状況は、凹凸があり泥濘(ぬかる)んでいる場所がある程度。

 壁面は窪みや黒ずみが所々あるものの、どこかへ繋がっている様子は見られない。

 

 単純な一本道で、奇襲を掛けられることはないだろう――。


 

「ミルフィ、水たまりあるで。足元注意や」

「ううう、うん、うん」


「手ぇ貸そうか?」

「だだだだだだいじょうぶぶふー……」

 

「ミルフィ〜、慌てなくてぇ、大丈夫だよぉ〜」

「うううん、わかっ、わかた……」


「えへへぇ〜、やっとお喋りできたねぇ〜」

「――――」


「これからぁ、もっともっとお話ししようねぇ〜」

「そうね。ここにいる3人で男子禁制のガールズトークしなきゃね」


 人見知りが激し過ぎるミルフィに、パーレットもアマレティも優しく接してくれる。

 

 今思えば、メンバーに恵まれているとクシードは感じ、マスクの下で口元を緩めていた。

 

 変わりたいと言う思いが、こういった人たちとの出会いを引き寄せているのだろうか。

 こうやって、コミュ障を少しずつ改善されていくことを願いたいものである。


 

 ほっこりしたやりとりに気を緩めがちになるが、洞穴内は、敵の本拠地。

 油断は禁物だ――。

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