029-高潔なる金色の花
人を殺める行為。
よくニュース等で聞く内容だが、命の尊厳を脅やかすたど、一般人には簡単には出来ない行為だ。
なぜ殺人はいけないのか?
倫理的、道徳的な問題等、色々あるが1番はまず、“法で定められている”と教育されてきたからだと思う。
この異世界でも殺人行為は法で裁かれる。
しかし、先日の依頼でもあった山賊兄弟のように、殺らやければ殺られる場面に遭遇することも否めない。
だが、人が死ぬ場面を目撃するのと、実際に人を殺めるのでは、実行する方が精神的にこたえるとラファレードは話していた。
なんだか別の仕事をしたくなったが、シーブンファーブンの仕事は収入が良くなってきた分、なかなか職は変えにくいのが現実だ……。
文字の読み書きもまだ不十分なので、転職もし難い。
生活のためにも冒険者業を続けなければならないが、今後のことを考えると、殺人に慣れる必要性があるのかもしれない。
……とクシードは思ったが、できないものはできない。
いや、やればできるのだがメンタルが持つかどうか分からないのだ。
こういった場合は、“できる人間を雇う”のが経営の鉄則。
つまり――
「なあミルフィ、新しいメンバーを募集しようと思うんやけど、どう思う?」
「わ、私は、2人だ、だけけでも、ええええよ……」
「そうかぁ? こないだのラファレード君のヤツがそうやったんやけど、剣とか持った仲間がいてくれたら助かるんやけどなぁ」
コミュ障の回復士と、魔法がまともに使えない銃使いと言う戦力に乏しい2人、と言う条件は別にして、良い人を見つけなければならない。
「そそ、そう……?」
「そうやと思うで」
「な、なら、お、女の子が、ええなぁ……」
「女子かぁ」
よくよく考えるとミルフィのコミュ障は治ったわけではない。
リーゼやキャルン先輩など慣れた同性との会話はギリギリ出来ており、あまり親しくない同性との会話はサポートをしながらであればなんとか出来る。
しかし、異性となると先日のラファレードの時の様に極度に緊張して会話は難儀を示すのだ。
そう思うと、ミルフィが言う通りメンバーを増やすなら女性じゃないとダメになる。
つまり必然的なハーレム。
一瞬、クシードのレーダーが反応したが、気立ての良い優しい女性を採用しなければ詰むと気づいた。
となれば、高潔なる女騎士様などがいいが、そんな都合の良い人は存在するのだろうか……。
◆◆◆
「リーゼさん、聞いてぇ。メッチャ悩んどるんです〜」
「とても元気そうですけど、困りごとですか?」
やはりシーブンファーブンへとやってきたクシードとミルフィは、いつも頼りにしているリーゼの元へと相談へやって来た。
「強くてメッチャ優しい女剣士さんが、メンバーを募集中って方、知らないですか?」
「んーーー、ごめんなさい。キャルン先輩に聞いてもいいですか?」
「えぇー、嫌や。あの人すぐ悪口言うやないですか」
「でも、顔は広いんですよ」
「けど、心は狭いですよね?」
「確かにそうですけど〜って、キャルン先輩を聞こえたらヤバいですよ。結構、地獄耳ですからッ!」
「へー、よく分かってんじゃん。リーゼ」
◆◆◆
「――で、ミルフィ。コイツら、ぶりっ子バカ娘と白髪のニューハーフは、あたしに人を紹介してほしいって考えてたのね?」
「う、うん……」
クシードはキャルン先輩に胸ぐらを掴まれ暴言を吐かれた後、ボディーブローを1発もらい膝をついて悶絶していた。
そしてリーゼはアゴを掴まれながら、キャルン先輩に激しく罵声を浴びせられ、苦しんでいるクシードの隣で崩れて、涙を流している。
そんな2人を、ミルフィは心配そうに見つめていた。
キャルン先輩は女白魔道士を募集している女剣士に心当たりがある、と言ってその場を一旦去った。
しばらくすると、耳が創作物でお馴染みのエルフの様に長く、輝く金髪をポニーテールで結ったスラリとスリムな1人の女性を連れてきた。
腕を覆う金属製のアームガードと、膝上まであるレッグガードといった身軽な防具を身につけ、オレンジの腰マントに、やや大振りの剣を腰に携えたエルフの騎士。
少し目つきは鋭いが、アクアマリンの様に魅力のある碧眼を持った美人だ。
凛とした佇まいから、『あなた達を護るのが私の使命ね』とか言いそうな、まさかの高潔なる女騎士様である。
「紹介するよ。あのロンイー族で魔法剣士のパーレット・キャラルだよ」
「初めまして! 高潔なるロンイー族のパーレット・キャラルよ! よろしくね!」
覇気のある声に、堂々とした姿勢はどこかキャルン先輩と被っている。
それと自ら高潔と名乗るあたり、なんだか怪しい。
「ホラッ! リーゼッ! いつまで泣いてんだよッ! ちゃんと挨拶しろよッ!」
「は、は、はぃぃ、わだじは、リージェプヂイナ――――」
親に怒られ、大声で泣きながらも親の言う事を聞く子供の様に、キャルン先輩に叱責されたリーゼは涙と鼻水を垂らしながら挨拶をした。
――がんばれ、リーゼさん。
「よ、よろしくねリーゼちゃん……。それと、あたしのことはパーレットって気軽に呼んでいいからね」
クシードとミルフィもパーレットに挨拶を済まし、キャルン先輩は用件が済んだからと、自身の受付場へと戻って行った。
「ミルフィは優秀な白魔道士で、クシードは腕利きの狩人なのよね。キャルンさんもいい人を紹介してくれたわ。これからよろしくねッ! ミルフィ、クシード!」
裏で悪口を言ってそうだったが、そうでもないのか?
あのキャルン先輩は、飴と鞭を使い分けられるようだ。
「じゃあさっそくだけど、今回協力してもらいたい合同ミッションを説明するね!」
「合同ミッション?」
パーレットは“レッサーテング”と呼ばれるモノノケ討伐の依頼を受託しており、一緒に参加してくれるメンバーを募集しているそうだ。
ランクは、クシード達より一つ上の初心者ランク、ネイビーランクのミッションとなる。
「一緒にやってくれるよねッ!?」
「まぁ……、ええけど」
レッサーテングと言う、初めて聞くモノノケだが、ネイビーランクなので、そこまでの強敵ではないと思われる。
承諾しても問題はないだろう。
「あの、パーレットさん。その依頼は4人以上で討伐に向かうのが条件なんですけど……」
「えっ? マジ?」
リーゼの忠告にパーレットは依頼書をまじまじと見つめた。
「あっ、ほんとだ!」
「あと1人必要なんや」
「リーゼちゃん! すぐに求人用紙貰える?」
「あっ、はい。すぐに用意します!」
リーゼから求人募集の用紙を貰ったパーレットは即座にペンを走らせた。
求人案内の掲示板には他の冒険者の募集用紙で埋め尽くされていた。
しかし、あろうことかパーレットは、他の人の募集用紙を移動させてスペースを確保し、掲示板のど真ん中に自身の求人募集の用紙を貼った。
高潔というより豪快だ。
リーゼも唖然とした表情でパーレットの行動を見ていた。
「これで、ヨシッ!」
「怒られても知らんで」
「大丈夫よッ! 後は誰か来るのを待つのみね!」
目立つ様に貼られた募集用紙。
たしかに求心力はあるのかもしれない。
「そうしたら、今日は顔合わせも済んだことだし、これで解散ね。ミルフィ、クシード、明日の朝8:30にまた来てくれる?」
「わかった」
ミルフィもコクリと頷いた。
「ところでパーレット。レッサーテングってどんなヤツなん?」
「えっ? あんた、レッサーテング知らないの?」
「クシードさんは記憶を無くしていますから、私が説明しますね」
「へぇー、クシードって記憶が無いんだ」
――ご都合主義の記憶喪失者なんでーす。
「それではクシードさん」
リーゼはコホンと咳払いをし、レッサーテングについて説明を始めた。
レッサーテングは、人間の子供程度の身長で、顔は赤く、眉は太くてオスは髭を生やしているそうだ。
1番の特徴は鼻が長いとのこと。
名前と外見から想像するに、レッサーパンダとピノキオが合わさったメルヘンチックな可愛い系かと思いきや――
「――全っ然可愛いくないんですよ!」
「そう、子供みたいに小さいのにブサイクなのよ!」
ミルフィもウンウンと頷いている。
「それと臭いんですッ!」
「アイツら基本よごれてて、汚ったないわよッ!」
ミルフィは“えっ? そうなの?”と言う驚きの表情をしながら尻尾を逆立てていた。
「この臭くて可愛くないモノノケが、南側の門を出た隣町ココマルタへ続く、バマ街道で最近出没する様になって、人的被害が出始めているのです」
「汚くてブサイクなだけならまだしも、ワルさまでするなんて、いい度胸してんじゃない、っと言うことで始末しに行くのよ」
女性陣から言われたい放題のレッサーテングとは、どれほどブサイクで臭いのだろうか?
「あと、レッサーテングは単体では私1人でも斃せますが、集団で行動をしているのが常です」
「集団戦……てか、リーゼさんも戦えるんですね」
「あんまり戦闘は得意ではないですけど、シーブンファーブンの研修で何匹か討伐していますよ」
「……何か想像がつかへんな」
リーゼの見た目は一般的な女性と変わらない。なので、魔法による戦術がメインかとクシードは想像していたが――
「ショートソード二刀流でズババンですッ!」
結構武闘派だった。
しかも二刀流と器用である。
「ではでは、レッサーテングの説明について続けますね」
レッサーテングは森林部にある洞穴を巣穴としていることが多いそうだ。
これらにはリーダーがおり、このリーダーは巣穴の中にいる事が多い。そして巣穴を守る部隊と食料調達部隊を編成して、蟻や蜂の様に組織的な集団生活を送っているそうだ。
外で遭遇するのは大体が食料調達班で、出会うと仲間を呼んで襲ってくる。しかし、知能は低いため連携をするなどの行動はしない模様だ。
戦闘能力はそれ程高くは無く、武器を持った一般人でも駆除はできるそうだが、油断は禁物と説明してくれた。
「以上が、レッサーテングについてです!」
「分かりやすかったですわ〜、さすがリーゼさんです」
「全然ですよぉー、私が知ってる事、お話ししただけですから」
リーゼは得意げになって話しているが、少し前まで嗚咽をあげながら号泣していたとは思えないくらいの回復ぶりである。
「仲良しなところ申し訳ないけど、遠距離攻撃ができるクシードがキーポイントになったりするから、ちゃんと装備整えて置いてね」
パーレットは釘を刺す様にクシードに話した。
「了解。なら、今からニッコーサさんの店寄るし、ミルフィは先帰っててくれるか?」
支度を整えるため、クシードとミルフィは、リーゼとパーレットに挨拶を告げ、シーブンファーブンを後にした――。




