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異世界ガンスリンガー 〜静女に捧げる誠実な嘘〜  作者: ジュウニシカ
第3章 優しい嘘
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020-装備品なのに…

 魔法の使い方をとりあえず学んだクシード。

 同時に、ミルフィの魔神に関する調査を、クシード本人の意思に反して全面的に協力することに……。


 いつも通りシーブンファーブンにて雑務をこなしたクシード達は、帰宅後、早速魔法の練習を行うことにした。

 魔法を使うにはグリスタと呼ばれるビリヤード球サイズの魔石を装備するテクニック“ストック”から始まる。

 

 ストックできるグリスタは、標準・支援・補助の3種に大別され、標準グリスタは各々の持つ属性によって装備の可否が別れる。

 

 ミルフィは水属性で、クシードは無属性だ。

 クシードは水属性の標準グリスタはストックできないので、支援グリスタのストックに挑む。

 

 今回装備に挑むのは、治療の支援グリスタ。

 属性が無いため、万人がストック可能である。


 

 早速、クシードは入れ入れと念じながら手のひらに当てるも……。


「全っ然入らへん。どうなってんの?」


 ミルフィも首を傾げている。


「先っちょだけッ! 先っちょだけでええから入ってくれぇぇーーー!!」


 ダメだ。無理矢理入れようとするも入らない。

 ただ手のひらが痛いだけ。事前に何か必要なことがあるのだろうか?


「あーもう、あかんわッ! 一旦ブレイクタイムにしよう!」



 

 

 クシードがコーヒーを淹れているそばで、ミルフィは帰宅の道中で買ったテリーヌショコラを用意していた。


 テリーヌショコラと言えばフランスのお菓子。

 ここで優雅におやつタイムとは……。


 クシードはコーヒーを口にしながら、テリーヌショコラをフォークで一口サイズに切り分け、上品に食べているミルフィを眺めていた。


 

「シュワッチ……」

「急にどうした?」


 いつものことだが、大体の会話はクイズ感覚で急に始まる。

 今回もウルトラ級の難問だ――。


「シュワ? シュラ……?」

「なんや? シュワシュワする飴ちゃんでも入ってたん?」


 テリーヌショコラの断面は、雪解け水でできた湖の水面の様にみずみずしい。輝く生チョコは焼き菓子とは思えない。

 しっとりと、そして、とろける食感を感じさせる見た目と、濃厚なチョコレートの味わいが視覚を通じて脳を誘惑してくる。

 だが、上品で耽美な見た目からパーティーナイトを感じさせるハジけさは伝わってこない。

 

「ちゃう……、シュナ? ……スラ?」

「なんやねん……」



 

 どうやらテリーヌショコラを食べた感想ではなく、“スナッチ”というテクニックがあるのを思い出したらしい……。


「そのスナッチなら、魔法が使えるかもしれへんのや?」


 ミルフィが言うには、スナッチは魔力を奪うと言うテクニックだが、奪い取れる魔力量は微量なため、緊急時ぐらいしか使われないそうだ。

 彼女自身も忘れるぐらい、出番が限定的とのこと。

 

 だが、グリスタからの魔力の抽出が無理なら、別の手段で魔力を得るなど、色んな方法を試すのもありだ。


「よっしゃ! 早速、スナッチもやってみよッ! それ教えてくれるッ!?」


 クシードが意気込むと、ミルフィはクシードに向けて右腕を伸ばした。

 そこで何かを引っ張る様な仕草をした瞬間、クシードの身体は重くなり、その場で膝をついて倒れてしまった。


「なにが……、起こっ……たん……や」

「…………ご、ごめん……」


 身体が強い倦怠感に支配される……。



 

 ミルフィが突然行ったのが、“スナッチ”だった。

 このテクニックによって魔力を奪われたクシードは、魔力切れを起こし行動不能となっていた。


 なんの前触れも無く、いきなり魔力を奪われたので、本当は怒鳴りたいところだが、スナッチで魔力を奪われて魔力切れになったと言うことは、クシードにも魔力が存在していると証明できる。


 ――今回だけは許してやろう。

 

 そして魔力はスタミナ同様、時間経過で回復するそうだ。

 

 確かに休憩を挟むと、倦怠感は少しずつ解消され、動けるようにはなった……。


 



 

「――なぁ、ミルフィ。スナッチって言う技すごいな。それ、どうやったん?」


 ミルフィによると、スナッチのやり方は――

 

 まず、腕を伸ばす。

 そうするとムワッする。

 これをガッとすると、キュウーッとなる。

 そして、それをシューッとして、いい感じにクッとする……。


「感覚的過ぎて分かるかボケェェェェーーーッ!!!」

「だだだだだって、しょ、しょ、しょうやもん……」


 どんな技だよ……。


 

◆◆◆


 

 あれから一週間が経過した。

 この期間中、リビングでクシードはグリスタのストックの練習は辞めて、スナッチの練習に励んでいた。


「あっ……、なんやコレ?」


 ミルフィに向けて伸ばした右手のひらに、ムワッとしたものが感じた。

 

 これをガッと掴み取る様にすると、手に吸い付くようにキュウーッという感覚になった。

 そしてそれをロープを引くように様にシューッと引き寄せて、自分の物にする様にして、いい感じにクッとする。


 一言で言うなら、魔力を奪い取るイメージだ――。


 

「うおっ、なんか身体がホワホワするやん」


 湯船に浸かった様な感覚で、身体全体が妙に暖かくなった。

 

「ちゅぎ! いいインチェグレレッショ!」


 ミルフィが言う、インチェグレッショ――

 つまり、インテグレイションは、グリスタと言う魔石から魔力を抽出し、体内の魔力と統合するテクニック。

 スナッチの成功により、グリスタから魔力を抽出する代わりに外部から魔力を抽出できている状態だ。

 

 これを体内に存在する魔力と統合するわけなのだが……。


「あれ? それって、どうやんの?」

 

「グイッ! グイッ! グイグイッ!」

「ヘタクソかッ!」


 ミルフィは何かを押さえる様なアクションをしていたが、案の定よく分からない。彼女の独特な説明に戸惑っていると、火照った身体からスーッと熱が冷めていく様にホワホワ感が消えていった。


「……もう一回やな」


 何となくだが、スナッチの要領は得れた。

 成果としては大きいと思う。


 


 スナッチの練習を再会して数時間が経過した――。


 

 

「ああッ! なんやコレッ? 力が漲ってくるぅーーッ!!!」

「それ、それッ、それッ! インテグレイションッ!」

 

 ホワホワ感を腹の底に抑え込む様にグイッ、グイッ、グイグイっとすればインテグレイションができた。

 

 ミルフィの説明……案外、的確だった……。


 これにより外部から得た魔力と、内部に存在する魔力を統合することにより、魔法を装備する状態のインテグレイションとなる。

 

 この滾る感覚は何でも出来そうな気分だ。


「ほんでミルフィ。こっからどうしたらええの?」

「ちゅ、次から、は、難しく、なる、で」


「えー、難易度上がるんかいな」


 インテグレイション状態になると、ストックしたグリスタ内にプログラムされた魔法を発動できる様になる他、適合する標準グリスタの魔力を使用して、身体能力を向上させる事も可能になる。


 しかしクシードはグリスタをストックできていないため、理論上は身体能力強化のみとなる。


「うん、うん、イイイメージ、イメージね」

「イメージ……?」


 どのようなイメージだろうかと考えていると、軽くなっていた身体が、徐々に慣れ親しんだ重力を感じ始めインテグレイションは解除された。


「……忘れへんように反復練習せなあかんな」

「うん、が、頑張ろう……」

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