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異世界ガンスリンガー 〜静女に捧げる誠実な嘘〜  作者: ジュウニシカ
第3章 優しい嘘
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017-異世界に馴染むには

 開始早々、魔神に関する調査が行き詰まってしまったクシードとミルフィ。


 現代に蘇った(とされる)魔神は、世間一般では過去の存在。調査を行うには費用や労力も要する上、力を駆使する場面も想定される。

 

 この魔神調査と言う案件は、元の世界のビジネスで言えば大赤字の案件と、非常に厄介だ。スポットの客であれば断るが、今回は大口顧客からの依頼のような内容である。

 下手に断れば取引停止。

 つまり、“両親のためにも頑張る”と意気込んでいるミルフィからの生活支援が、最悪絶たれると考えた方が良い。


 赤字の案件を引き受けなければならないが、かと言って、赤字幅を青天井で受けるわけにはいかない。


 依頼を引き受けつつ、赤字幅を最小限に、あわよくば黒字転換――。


 かなりの難問だ……。



 

 一度魔神について、リーゼと司書の話しから聞いた内容を整理してみよう。


 魔神は魔界から召喚される。

 そして、昔は異世界間で交易があり、友好関係でいた。

 

 しかし、約400年前にヒーズルの国王が殺害され、以降の国交は断絶。

 魔神についての情報を規制しているのは、おそらく魔神召喚は、悪人でも出来るくらい簡単なのだろう。同じ過ちを防ぐため、法律で魔神に関することや召喚を禁止しているのかもしれない。


 首都カロッサ・ヴァキノにある国立図書館まで行けば、そのあたりの本に出会えるそうだが、ルシュガルから首都まで歩くのは、かなり大変だ。

 定期的に出ている馬車で行くのが一般的だそうだが、旅費や宿泊費、あと観光もしたいので、この辺りの費用は現段階では用意できない。


 ……他にも色々と疑問点はあるが、一つだけ言えることは、魔神は現在進行形でこの世界に滞在していること。

 他の街に被害が及んだと知ればミルフィも反応するだろう。

 

 そうなる前に、何か行動を――。

 


「あっ、そうや」

 


 情報が頭の中を縦横無尽に錯綜する中、クシードは一つのアイディアを思いついた。


「あのなミルフィ、生きた情報を集めてみようか」

「いきた……、じょ、情報……?」

 

「まぁ、あくまで“できれば”の話なんやけどな……」


 このクシードの言葉にミルフィの耳は立ち、固唾を呑みながら自身の青色の瞳に彼の姿を映していた。

 

「その生きた情報を集めるために、オレらもモノノケ退治をしようと思うねん」

「……?」


「どうゆうことかって言うと、確かにシーブンファーブンには情報は入ってへんと思うよ。けど、出入りしとる冒険者なら何か知っとるかもしれんやん? 町外の人とかチョイチョイ見かけるし」

「……うん」


「そうゆう冒険者と仲良くなって、情報を仕入れんねん」

「仲良く……」


 魔神は、()()()()()で現在もどこかで活動していると思えば、外からやってきた人達から、何かしら情報はあってもおかしくはない。


 ネット社会ではないため、こういった情報は、水面に発生する波紋のように徐々に広まっていくものだ。

 

 

「――でもな、問題があんねん」

「もん、だい……?」


「そう、先日もリーゼさんに相談してたんやけど、モノノケの討伐には魔法が不可欠なんやと。でもオレ、魔法は使えてないやん?」


 

 リーゼは丁寧に何でも教えてくれる。

 彼女によると、シーブンファーブンの依頼は、魔法が使えることが前提となっているそうだ。その魔法とは、映画などでお馴染みの攻撃的な魔法のことを指している。


 この攻撃魔法は2つ以上使えることを推奨しているが、あくまで推奨であり、使えなくても問題はない。

 学校教育の中で1〜2個は習得するそうなので、一般的にはそこまで難しい内容ではないと言っていた。


 それと、この異世界に来た頃着用していたナノマシンスーツの身体能力向上(フィジカルアシスト)の様な、身体能力強化の魔法も存在していると教えてくれた。

 この魔法は老若男女、果てまた子供まで、ほぼ全ての人が使えるそうだ。


 確かにルシュガルの街を散歩していると、小柄な女性が重たい物を易々と持ち上げたり、郵便配達員がニンジャのような動きを見せていた。それと、どれほど急いでいたのか3階から飛び降りて走り去っていく人もいた。


 要するに、魔法は使えて当たり前。

 元の世界で言う、電子機器や電気、水道の様な存在だ。

 

 冷静に考えれば、その辺にいる人が皆、魔法の力によって超人化している。

 もれなく、か弱く見えるミルフィやリーゼも……。

 

 考えるだけで、ここは恐ろしい世界だ――。


 

「モノノケの討伐には魔法を使われへんオレが、魔法を習得するのが条件になるんやわ」


 整然と話すクシードに対して、ミルフィは首を横に振っていた。


 やはり、無理難題なのだろう。



 モノノケの討伐を行うには、魔法を使って戦う必要があるが、この世界の住人であるミルフィは、魔法は使えても、戦闘においては素人。

 魔導銃と言うファンタジーウェポンを持っているが、銃を扱う様になったのはここ最近とのこと。

 彼女とクシードが初めて会った時も、射撃練習をしていたそうだ。


 対して、モンスター駆除の仕事をしてきたクシードは、武器や戦闘には長けているが、魔法は使えない……。

 

 攻撃系の魔法の使用は絶対ではなく、あくまで推奨である。身体能力強化系の魔法だけでも討伐は可能とのことだが、裏を返せば強化無しでは、負けてしまうのだろう。


 負けは=“死”だ。


「魔法が習得できればなぁ……」

「……」


 魔法の習得について、嘆くように言葉を漏らすクシードに、ミルフィは黙って聞いていた――。



 

 


 クシードが魔法の習得にこだわるのは、モノノケの討伐をしたいからではない。

 

 本音は、この世界で生きていくため。

 帰り方が分からない以上、ここで生活をしていかなければならない。

 しかし、現況は文字の読み書きは不十分な上、魔法が生活に密着しているこの異世界で、魔法が使えないのは死活問題。

 こうなると、まだまだミルフィの支援が必要なのだ。


 

 魔神の調査に協力しなければ、生活支援が絶たれる可能性は否めない。

 例え今まで通りの生活がおくれたとしても、勝手に動かれて、何かの事件に巻き込まれるのは厄介だ。

 ならば調査に協力するフリをしながら、自立できる術を身につけた方が得策だろう。

 

 これがクシードが思いついたアイディアである。


 運良く魔法が習得できれば、モノノケ討伐という高収入の新しい仕事ができるようになり、別に習得ができなくとも、文字の読み書きさえできれば、ある程度は自立できると思う。


 クシードは料理が得意というスキルがある。

 この特技をつかって飲食店で勤務するのも悪くはない――。

 


 

「正味、周りから魔力無しって、バカにされるんもしんどいねん……」

「――スタ」


「ん? なに?」

「ヴィ、スタ……」


「えっ? なにッ? びーすた?」

「うん。ヴィスタ……」

 

「なんなん? ヴィスタって?」

「あれ……、ヴィスタ……」


 ミルフィは“ヴィスタ”と言いながら天井を指差した。


「…………照明器具?」

「あと……、あれ、も……」


 あれもこれもと、狂ったAIの如くそこらじゅうを指差しながらヴィスタ、ヴィスタと連呼するミルフィ。


「わかった、わかった! ヴィスタなんはわかったから! その続きを言ってくれ!」

「まままマホー……、つきゃえっ、てんで……」

 

「えーーっ? どうゆうこと? オレ、魔法使えてんの?」


 ミルフィはコクリと頷いた。


「ヴィスタ……」

「だからなんやねん、それぇぇぇーー!!」

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