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異世界ガンスリンガー 〜静女に捧げる誠実な嘘〜  作者: ジュウニシカ
第3章 優しい嘘
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016-ヒーズル国の昔話

 ある集落の住人を1人残らず消し去ったとされる魔神。ミルフィの話だと、魔神は圧倒的な力を持っている。そんな相手にどう立ち向かえば良いか。

 それ以前に、魔神とは一体何者なのだろうか――?



 

「そういや、魔神とかオウレのモノノケとか、誰にも相談してへんかってんな?」


 ミルフィはコクリと頷く。


「もう一回行くか」


 

 クシードは、困った時はシーブンファーブンへ出向く様にしている。

 と、言うのも――


「リーゼさぁ〜ん、こんにちは〜」


 シーブンファーブンには、優しい笑顔と、優しい眼差し、そして優しい対応。オマケに仕事までくれる優しさの女神様、リーゼがいるからだ。

 

「こんにちは、シュラクスさん、アートヴィーレさん。えっと、今日はお願いできるお仕事は無かったハズですけど……」


「実は調べ事をしてて、リーゼさんなら知っとるかなぁと」

「調べ事……ですか? 私、あまり物知りではないので、お応えできるかわかりませんけど……」


「全っ然大丈夫ですッ! あのー、実は、ミルフィはオウレからルシュガルに来とるんですけど、オウレの近くにある集落で、デカいモノノケが出たそうなんですね。んで、避難しにコッチ来とるみたいなんですわ」

「えっ? ってことはアートヴィーレさんはいつかは帰っちゃうんですか?」


 目を丸くしたリーゼに、ミルフィはペンを走らせ、スケッチブックを見せた。


「“今のところ帰る目処は立っていない”ですか」


 言葉の内容とは裏腹に、リーゼの顔はどこか安心している様に見えた。


「えーっと、リーゼさん。いいですか?」

「あっ、ごめんなさい。どうぞ、シュラクスさん」


「そのデカいモノノケの情報って何か知ってます?」

「うーん……、オウレって結構遠いですから……。それ以前に、まず西側の情報って、実はあまり聞かないんですね」


「知らない系ですか……」

「キャルン先輩や同僚にも聞いてきますので、ちょっとお時間頂いてもよろしいですか!?」


「いや、そこまでせんくて大丈夫です!」


 ――あのキャルン先輩の耳に入るのは何か嫌だな。


「それと、リーゼさん。ここから口外禁止のナイショ話になるんですけど……」


 クシードは周囲の状況を軽く確認すると、リーゼのウサギ耳に顔を近づけた。


「実は、魔神がどうのこうのと言う噂が向こうで出とるみたいなんですわ」

「そう……なんですか……」


「リーゼさんは魔神について、何かご存知ですか?」

「んー、皆さんが知っている魔神事件ぐらいでしたら……」


「魔神事件? みんなが知ってる?」

「はい」


 クシードはミルフィを見るが、彼女は視線を斜め上に向け、考え込む仕草をしていた。


「学校で習ったハズなんですが……。うん、分かりました!」


 リーゼは両手をポンッと合わせると、魔神事件について教えてくれた。



 

 ――今から約400年程前、ルシュガルの町も存在する国、ヒーズル。このヒーズル国の首都カロッサ・ヴァキノで国王暗殺事件があった。

 

 犯人は魔神と召喚士。


 当時より昔から、魔神は繁栄をもたらす存在として別次元の世界、通称“魔界ロクエティア”から召喚士によって召喚されていたそうだ。


 この異世界で普及している魔法は魔神によって伝えられたとされている。


 しかし、魔神は全員が良心をもって召喚されるのでは無く、中には悪事を働く魔神も召喚されることがあり、たびたび事件が発生していたそうだ。


 そしてついに、悪意を持った召喚士と魔神によって国王が殺されると言う歴史に残る大事件が発生してしまった。

 これを機に、魔神を召喚する術式は禁術とされ現代に至ると、リーゼは説明してくれた――。

 


 

「学生時代、歴史の授業で習ったことなので、色々忘れちゃっていますから、他の人にも聞いてみるといいかもしれませんよ」

 

 魔神に関する情報を聞けて嬉しかったのか、ミルフィはスケッチブックに何か文字を書いてリーゼに見せた。


「んーっと、西側ではここまで詳細な内容は習わなかったのですね。東西では認識が違うとなると、なんだか勉強になります!」


 リーゼは目を輝かせてミルフィを見るが、ミルフィの顔は赤くなり、掲示していたスケッチブックで顔を隠してしまった。

 

 自分から積極的に筆談をしたまでは良かったが、コミュ障の改善には、まだまだ時間がかかりそうだ。

 だが、毎晩のカウンセリングの成果は出ている。


 

「取り敢えずこんなもんかな?」


 スケッチブックの影からミルフィはコクリと頷いた。


「リーゼさん、ありがとうございます。ほんまに頼りになりますわ」

「いえいえ、学校で習ったことをお話ししただけですから。でも、いつでも頼りにして下さいね!」


 にこやかな笑顔のリーゼにクシードは手を振り、シーブンファーブンを後にした。

 


 

「さて、概要は分かったし、次は図書館にでも行って、魔神に関する本でも探してみようか」


 次にクシード達は、返却された本の整理の仕事でお世話になった司書がいる、ルシュガル町立図書館を訪れた。


 

「こんにちは。先日、本の整理業務でお世話になった、クシード・シュラクスと、ミルフィ・アートヴィーレです」

「こんにちは。シュラクスさん、アートヴィーレさん。先日は助かりました。また業務量が増えてきましたら、よろしくお願い致します」


 黒の学士帽を被った司書は、特徴的な細目の目尻を緩ませながらクシード達を出迎えてくれた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「本日はどうかされました?」


()()()()()()2()()()()()()()()んですけど、魔法の起源は魔神にあるって聞いたんですね。ほんで、魔神に関する本があるかなぁと思いまして」

「勉強熱心で感心致します。……しかし、当館では魔神に関する書籍の貯蔵は無くて……」


「えっ? 400年以上前の出来事ですよ? 歴史関係の本とかも無いんですか?」

「その通りです……、カロッサ・ヴァキノにある国立図書館ならば……、ありますね」


「カロッサ・ヴァキノまで……?」

「はい。魔神に関する書籍の発行は法律で禁じられていますよね。でも、国が発行する分には認められているのですよ」


「国が発行……、ってことは買えるんですか?」

「いえいえ、一般販売はされていません。それに、貸出も厳禁なので、図書館内でしか閲覧ができないのですよ」


 どんだけ情報規制しているのだ――。


「詳しいんですね」

「司書になる資格の勉強による賜物です。まぁ、私は現物を読んだことはありませんけど」


 司書は短く整えてられた顎髭をさすりながら苦笑いをしていた。

 

「そうなんですね。でも、ありがとうございました。忙しいのに、お時間頂いて申し訳ないです!」


 司書から、お気になさらずいつでも来館して下さいと言う言葉を受け、クシード達は図書館を出た。


 

◆◆◆


 

「ふぅー」


 図書館の近くにあった多くの家族連れで賑わっているカフェにて、クシードはコーヒーを飲みながら一息ついていた。

 クシードの向かいには、アイスティーとストロベリーサンデーに舌鼓を打っているミルフィがいる。


 クッキー1缶食べておきながら、まだ食うのかよ……。


 しかし、ストロベリーサンデーを口にしているミルフィの表情は柔らかく、唇についたアイスクリームをペロリと舐める姿は、実に微笑ましい。

 

 魔神さえ現れなければ、普通の女の子として生活出来ていたのだろう。

 ……いや、コミュ障でボッチだったから今の方が良いのか?

 複雑だな……。

 


「ん? ミルフィ、どうしたん?」


 ストロベリーサンデーのイチゴを口に入れながら、ミルフィは、ニコニコと笑顔でクシードを見ていた。

 

「…………ま、魔神の、調査……め、めっちゃ、進んどる……」

「ええー、なに言うとんの? 昔話聞いただけで、もう行き詰まったんやで」


「えっ…………」


 笑顔が一変して硬直し、マンガの様に分かりやすく、ミルフィは一時停止してしまった。


 そんなに驚かなくても……。


 だが、調査は難航しているのは事実だ。


 この世界の一般的常識として、魔神の存在は歴史の授業で習う程度の過去の存在。

 それが数ヶ月前に現代に蘇りました、と説明しても眉唾ものとして見られる。

 

 かといって魔神の強さは話を聞くに驚異的……。


 いずれにしろ、調査を進めるには危険が伴うので、国やシーブンファーブンで言う高ランクの冒険者に任せたいところだ。


 だから調査は断念したい。

 しかし、ミルフィは納得するだろうか?

 

 彼女は思いの外、向上心が強くコミュ障の改善についても前向き。そのうち、1人でも動くかもしれない。

 面倒事に巻き込まれる前に、独り立ちするのも手だが、そう上手くいかないのは世の常。

 異世界を生きていくための基盤を固めるには、まだまだミルフィと共に行動する必要だ。


「…………どう、したら……ええの……」

 

 耳は伏せ、憂鬱に弱音を吐くミルフィに対して、“諦めろ”と厳しく、そして言いにくいことを言わなければならない――。




 

「なんとかなるやろ? ……いつもカウンセリングで言うとるやん。1人で悩むより2人で悩んだ方が負担減るって……」


 クシードは言えなかった。

 普段は挙動不審でおどおどしてて、吃り気味の話し方だが、あの時ばかりは、固い決意を感じられたのだ。

 あの熱意を反故にする様なことは、とてもじゃないができない。


 ただ……、優しい言葉で励ましても、具体的な解決策なんてない。それだと、優しい言葉なんて薄っぺらい、ただのハリボテの言葉だ――。


 

「…………」


 

 しばらく続く沈黙で、テーブルの上に置かれたミルフィのストロベリーサンデーは溶かされていった――。

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