9.悩み
今は学園長室に向かっている。
実は、この学校を創立したのは僕のおじさんだ。しかし、おじさんは実業家で仕事もとても忙しく、いつも特別機で海外で世界中を飛び回り貿易をしているので、現在は日本にいない。
だから、おじさんは自分のアシスタントに学園長を務めさせている。
この学校は貧困家庭に生まれた子供たちのために設立された。
授業料が低いから、多くの人を引きつけ在校生も多いが、霧嶋先輩のような不良たちもいる。
僕もおじさんとは数回しか会ったことがない。小さい時から肉親はそばにおらず、彼らの近況はわからないが、名前だけは知っている。
父さんの名前は松岡 貴将、母さんの名前は松岡 紬希、おじさんの名前は松岡 貴史。
親の顔を知らないとは、寂しい限りだ。
学園長室に着き、ドアをノックして入った。
学園長の席には一人の女性が座っており、その長い髪はカラスの濡羽色で黒い瞳は鋭く光っている。彼女はこの学校の学園長、名前は與座 夕那。かつておじさんのアシスタントだった。
「ご足労掛けます、若旦那様」
「僕に何か用でもあるのですか?」
僕はソファーに座った。
「若旦那様はあの三年生の霧嶋たちと喧嘩したって、本当ですか?」
学園長は真剣な眼差しで僕を見ている。
まさか学園長が僕に会いたい理由とは、霧嶋先輩らと喧嘩したこと。さっきそのことで白に叱られたばかりだ。
「そうです、一体何があったのですか?」
「若旦那様、あなたは松岡企業グループの唯一の相続人たるもの、不良たちと喧嘩したなんて……。あなたは将来ご両親とおじさんが築き上げてきた企業グループを引き継ぐのですよ。少し自重してください」
また叱られた。
おじさんには子供がいないので、彼の企業も僕が一緒に受け継ぐ。
僕にとって、これはかなりのストレスだ。
企業グループ全体をちゃんとリードできるかどうかわからない。
「何度も何度も……。もういいよ、耳にタコができる!」
「若旦那様、今なんとおっしゃいました?」
家業を受け継ぐために、親族・関係者一同が僕に模範となることを望んでいる。
皆が期待する模範になるため、自分を奮い立たせ、各方面で一位を維持しなければならない。
皆が思い描く模範になるには、どうしたらいいかわからなかったので、今まで何でも人の言いなりになった。
そのために、僕は望みに縛られた傀儡になった。
「君は全然僕の心の中のストレスがどれほどか知らないくせに、僕をがんじがらめにしたいのか?全く笑止千万だ」
「若旦那様……」
「與座さん、君はただおじさんのそばにいた存在感のないアシスタントに過ぎない。この学校の学園長になれば、僕を顎で使えると思うな!」
「……っ」
僕はもう家業を継ぐ期待に翻弄されたくない。僕は僕の考えに従って生きたい。
「僕はクラスに戻る。それじゃ」
「ちょっと待って、若旦那様」
僕は立ち上がってドアを開け、学園長室を離れた。
不愉快な気分をすべて学園長に當たり散らした。
「反抗期が始まりましたね。若旦那様も大きくなりました。若くて良いですね」
学園長は小声で言って笑った。
◇◆◇◆◇
放課後になった。テキストとノートをカバンにしまって家に帰る。
「空、一緒に帰らないか?」
カバンを取って肩にかけ、空の席まで行って聞いた。
「すまん。今日は部活があるから、一緒に帰れない」
「そっか。空は水泳部だったよな?」
「うん。部活にいけば、たくさんの女の水着姿が見られるからな」
空は相変わらず冗談を言った。
もし僕も空のように呑気にできたらいいのになぁ。
空を羨ましく思った。
「どうした?」
「いっ、いいや、なんでもない」
「そうか。颯太は帰宅部だったな?」
「ああっ、僕はまだクラブに入っていない」
「じゃ、水泳部に参加しろよ。お前、水泳が得意だろ?」
「誘ってくれてありがとう。でも、僕はまだクラブに入りたくない」
心を鬼にして友達の誘いを断った。
実は、僕はクラブに入りたいけれど、さまざまな要因で入れないでいる。
「ちょっと残念だな」
ちょっと苦笑した。
空もカバンを取って肩にかけ、入り口を振り向いた。
「あれっ、お前の彼女が来たぞ」
入り口の方を見ると愛乃が立ち、僕に微笑んで手を振っている。
愛乃の笑顔に思わず微笑んでしまった。
「お前、梅本さんと一緒に帰れ」
「どういう意味?」
「お前、馬鹿かよ。梅本さんがあそこでお前を待っているのは、お前と一緒に家に帰りたいからだろ」
「そうか?」
「そうだよ。俺は先に部活に行く。また明日」
「また明日」
互いに別れを告げて、空は教室を出た。
紗夜が僕のそばに来た。
「お兄様、一緒に帰りましょう」
「ああっ、一緒に帰ろう」
紗夜と一緒に教室を出た。
「そっ、その、颯太様、一緒に帰ってもいいですか?」
果たして空の言うとおりだ。愛乃は僕と一緒に帰りたいのだ。
「いいよ」
「あっ、ありがとうございます、颯太様」
こうして、僕は愛乃と紗夜と一緒にキャンパスを離れた。
夕日に照らされて、今日の昼時、学園長が言った言葉を思い出した。
『あなたは将来ご両親とおじさんが築き上げてきた企業グループを引き継ぐのですよ。少し自重してください』
この言葉はまだ僕の心にしこりを残している。
いきなり、愛乃は僕の右手を掴んだ。
顔が赤くなった。愛乃も顔が赤くなった。
「愛乃……」
「そっ、颯太様は悲しい顔をしました。わっ、私、颯太様の気分を落ち着かせたくて、勝手に颯太様と手を繋ぎました。もし颯太様が嫌なら、放してもいいです」
「ううん、好きだよ」
僕はちょっと手を動かして、恋人のように手を繋いだ。
愛乃はさらに頬を赤く染めた。
「ずるい、わたくしもしたいです」
そう言いながら紗夜も恋人のように僕の左手を掴んだ。
両手に花で、悩みが消し飛んだ。
僕は束縛から解放され、過去を顧みず、未来を憂えず、今を自由に楽しむべきだ。
「とても面白い!」
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白皇 コスノ 拝啓




