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06 幼馴染と風紀委員長シンパ

息抜き

「や。瓶底君。随分と遅いご出勤で」



 遅刻ギリギリで教室のドアを開け自分の席の椅子を引くと、隣の席からそんな言葉が飛ぶ。



「おかげさまでな」



 その時横を向いた俺の首はさび付いた機械人形のようにカクついていたに違いない。

 感情をこれだけの動作で表す高等技術だ。



「その様子だと。委員長先輩に会えたみたいだね」



 美化委員長の姉御(めちゃくちゃ怖かったので敬いキャンペーン中)に短くも激しいお叱りを受け美化苦行まで課されてしまい、さらに追い付いてきた矢敷さんにも「いつ抜いた?」の追求をかまされた。

 最終的には始業が迫っているのをダシに何とかうやむやにしたけど。


 いや、今はこんなあらすじ的な話はどうでもいい。



「お前俺の事売ったよね?幼馴染よ」



 人見知りの俺が委員長や矢敷さん達のような美少女相手に強気に出られるわけもない。

 そのフラストレーションを頬杖突いてにやにや笑ってるこいつにぶつけてやるぜぇ。



「何の事?私は落とし物届けただけだよ?」



 ほう?過程が正しければ腐れ縁の幼馴染を売り飛ばす理由になると?

 言っておくが、ゆう。俺はお前相手には手加減しないぞ?昔は一緒に風呂にも入ったんだ。俺のフェミノートにお前の名は無い。


 さて、どうしてくれようか。


 異世界帰りを舐めるなよ?

 あっちじゃ法律・人権なんかクソくらえと言わんばかりの人を痛めつける光景を何度も見てきたんだ。年頃JKを泣かすのなんて赤子の手をひねる(ベビーハンズクラップ)かのように簡単なんだよぉ!!



 《ゆーきってさ。異世界(あっち)にいた時から思ってたんだけど。服のセンスだけじゃなくて、ネーミングセンスもないよね。技とかの》

 《ねぇ、今気持ち高めてるの。怨嗟を幼馴染にぶちまけるとこなの。黙って刮目しとけ》



 そうさなぁ………まずはこいつのお人好しな性格に付け込んでその精神を蝕んでやろうか。



 《陰っ険!あんたこんな詰まんないことで、なんてことない青春の一ページの一文にそんなどす黒いアンダーライン引くの?》

 《なんとでも言え。美化ロードワークの苦しさを知らないからそんなことが言えるんだ》



 ………ゆう。お前の罪にふさわしい罰は決まった。

 その顔が目に浮かぶようだぁ!



 《何すんの?》

 《泣き落とし。こいつ相手に泣かれるとまじ弱いの》

 《……ゆーきに倒された魔神も、浮かばれないでしょうね》



 さぁ行くぞ。

 異世界での過酷な闘いの日々、目にしてきた悲惨な光景。それらにいちいち心を痛めるのに疲れた俺はもうすでに涙など枯れさせた。


 だが!


 肉体を自在に操りその限界値すらも思いのままに引き出せる俺にとって、涙腺から涙を流すという生理現象を任意に引き起こすことなど朝飯前!

 朝飯食いそびれたからホントそう。思い出したら腹減ってきた。



(喰らえ、ゆう!役者も真っ青なこの――――)

「ゆうちゃんって、あんなにダンス?うまかったんだね」



 スゥーーーーーー………



「……ダ、ダンスッテ、ナンデスノ?」

(いつき)ちゃんと踊ってたじゃん。あ、安心して。あれがゆうちゃんだって気付いてたの私だけだから」

「………アノ、ユウサン」

「みんな見てたよ~。あの後、厳ちゃん腰が抜けたように座り込んじゃってさ、女の子座り。ギャップ萌えってやつ?可愛かったなー」



 ほう、それは見てみたい気もする。

 ってそうじゃない。



「女の私がそう思うんだから周りの男子はやばかったよねーきっと。多分ファンが爆増したと思う。で、その虜になっちゃった男子たちがね?」



柴乃女(しのめ)さんの更なる魅力を発見できたのはあの『ダンサー男』のおかげだ。だが、彼女の裾を汚したのもあの『ダンサー男』だ』



「『情状酌量の余地なしで見つけて殺す』だって♡」

「その天秤おかしくない!?多分その天秤の形左右非対称じゃない!?」

 《思い出すわねー。伯爵の許嫁にゆーきが恥かかせて街一つ敵に回したあれ》

 《異世界(おめーの故郷)と一緒にすんな!こっちには憲法ってのがあんの!》

「ちなみに、厳ちゃん女子受けもいいから――――」



『お姉さまにあれほど接近した男は初めて見ました。女の自分たちでもああはいかないです。是非感想を聞かせていただきたいです。その前に、切るなりすり潰すなりしてお話ししやすくさせてもらいますけど』



「『私たち、男の方とお話しするのが苦手なので』だって♡」

「切るとかすり潰すとか何の工程の話してんのそれ?お茶請け?お茶請けのお菓子の話だよね?」

 《チョッキン……ゴリゴリ……》

「分かってるわ!わーかーってーるぁ!!オノマトペすな!」

「? 取り乱してますなぁ、ゆうちゃん」



 思わず念話に声を出して反応してしまった。

 ちょっと待って。ここ日本だよね?元の世界だよね?何でこんなやばいやついんの?何でこんなに人を狂気に駆り立てるの?その中心にいる風紀委員長いったい何者なの?


 なんで許可もなく美少女JKの手を取って「離せ」と言う主張を無視し尚更距離を迫りチークダンスを強要しただけでこんな扱いされんの!?



「………ちょっとタイム」

「どうぞ」



 冷静になろう。

 コピペ、と――――



「『なんで許可もなく美少女JKの手を取って「離せ」と言う主張を無視し尚更距離を迫りチークダンスを強要しただけでこんな扱いされんの!?』………と」

「うわ。文字に起こすとやっちゃった感増すね~」

 《何書いてるの?ゆーき。あ、この国の文化の写経ってやつ?あたし知ってるわよ。たしかその教えを広めるための行為なのよね?》

「シュレッダーって職員室行けばあるよね?」



 広めねぇよ!!完全に俺やっちゃってんじゃん!!こんな奴いたら近づきたくねーもん!!



「瓶底ゆうちゃんも下手したら一気に有名人だねぇ~。有名税は計り知れないけど」

「代償が命か性別って!税払うってレベルじゃねぇぞ!?」

 《変身(トランス)魔法で女の子になれるから、性別は心配いらないんじゃない?》

 《あれ肝心のところは無くならないポンコツ魔法だろうが!!》



 このままでは折角元の世界に戻ってきたというのに、いろんなものが危うくなる。

 そしてその生殺与奪を握るのは………



「ふっふっふっ………名に『神楽』を冠し盟友、ゆうちゃんよ。先ほどは何か私に物申すことがあったのではないか?」

「………め、滅相もない」



 悪魔の微笑みを湛える幼馴染のこん畜生だ。この女だけが『ダンサー男』の正体が俺だと気づいている。

 ああ、本当に悪魔の角と翼と尻尾が見えてくるようだ………



 《どうこれ?かわいいっしょ~?幼馴染ちゃんどんなカッコしても似合うよねー》

 《下らないことに幻術魔法使うんじゃねぇ!》



 そんな風に見えてるとは知らない当の本人は、あほシステム音が付け足した属性と知らずにシンクロしていっているようで。



「であろう?先の件などは君が抱える問題と比べれば些末な事………さぁ、契約の時間だ」

「………」

「汝は、件の『ダンサー男の娘』が自分であるという真実を隠したい」

「あ、あの。なんか、ゆうさんの中ではもう俺の性別が揺らぎ始まってないっすか?『ダンサー男の()』って。()ってついちゃってますけど」



 あっちの世界で無くしたはずの涙。



「私は美弥子さんの作ったお弁当が食べたい」

「スルー………なんなりと」

「購買の5食限定、『産地直送フルーツパフェDX ¥1180』も食べたい」

「手に入れて見せましょう」

「次の日曜日、衣を見に行くのに運び手が足りぬ」

「ぜひ私めをお使いください」

「あとあと――――」



 幼馴染の口から湯水のごとく漏れ出る要求を聞きながら、



「今日一日………今週いっぱいだねぇー。授業で私が差されたら完璧なフォローを」

「………はい」

「あとは、私が今度立ち上げる部活の部員になること」

「仰せのま………今なんて?」

「あ。追記で、日曜のショッピング、ランジェリーも行くけど逃げないでね。あとその日は瓶底禁止」

「こっちの道も地獄だった………」



 生ぬるい雫が頬を伝って、机に跳ねた。



 《ゆーき………》

 《ぐすっ………シス子ぉ………》



 システム音の思念体が優しく俺の肩に手を置くと。



 《いや、ゆーきガチ泣きじゃん。念写しとこーっと。あの子たちにまた会う機会があったら見せてあげよ》



 俺の回りの女は鬼畜しかいなかった。

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