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05 眼鏡っ子の急襲とアンデッドラン

「俺としたことがしくじったな」



 風紀委員長が釘を踏み抜く未来から救った後、華麗にその場を離脱したのは良かったが。



「人目に付かないとこに来るので大分引き返しちゃったよ」



 学園までの道は蛇行した坂になっていて、滑り降りた先々にも生徒がたくさん歩いていた。

 さすがに彼らの目の前に颯爽と滑り込んでその登校の波に自然に乗れるほど俺の心臓は強くない。


 結局曲がりくねる坂の一番下まで来てしまった。



「ここまでくれば誰もいないだろ」



 というかこの時間でこの坂に差し掛かる所だと、普通の人間なら走っても予鈴に間に合わない。

 つまりこの時間帯、ここに他の生徒がいることは通常ない。

 たまたま遅刻するような生徒でもいない限り。



 《ゆーき。ちょっと奇行が過ぎるよ?大丈夫?PTA?》

「だからPTSDな。てかちげーし」



 わざわざ思念体を出して的外れな心配をかますアホシステム音に、こちらの声が聞こえる範囲には誰もいないので念話でなく、普通に声に出して答える。

 俺から見ればお前のその露出の多い思念体をわざわざ選んで作り出してることが奇行なんだわ。



 《幼馴染ちゃんも呆れてたよー?》

「え。まじで?俺だって気づかれてたの?」

 《愛ね、愛。いやでも、幼馴染の奇行に呆れてた感じだったから、哀ね》

「異世界産のお前が日本語の複雑な感じの言葉遊びしてるの、なんかむかつくからやめてくんない?」

 《なにその差別?異世界差別はんたーい》



 戻ったら変な目で見られるんだろうな。

 いや、突発的なエスケープって中二病奇行集の代名詞みたいなものだから、なんか変に勘ぐってくるかもしれない。

 授業中に『まさか、こんなところまで来るとは……!』つって、教室抜け出しちゃうやつ。

 ゆうもたまにやってたし。



「さて。美化委員セット(ゴミ袋とトング)も上に置いてきちゃったし、とりあえず戻るか」



 幼馴染の痛々しい奇行を、出来立てほやほやの自分の奇行を棚上げにして振り返り終えると、瓶底眼鏡を再び装着。

 ゆうがそばに居なくても学園での俺は空気で通っているのでやはりこいつは欠かせない。

(認識されにくいのに通ってるというのもおかしいし、空気ほど重要な役割も持っていない)



 《ちょっときいてるのー?元勇者―。リストラ勇者ー?》

 《うるっさいわぼけ!!!》

 《んにゃっ!?急にそんなボリュームで!耳がキンキンする……》



 超大音量の念話でアホシステム音を黙らせる。

 つか、耳とか聴覚とかそう言う概念あんの?システム音って。



「はわわわわわ~~~!」

「……ん?」



 はわはわ言う謎の声が背後から聞こえてくると。



「破っ!」



 裂迫の呼吸と共に俺の無防備な背中へ吸い込まれるように人影が突っ込んでくる。



「あ。ギザ10」

「!?」



 俺はその場に屈んでその突進を躱した形となり。

 頭上では鋭く空を切る音と、足元を見た視界には深く力強く踏み込まれたすらりとしたしなやかな脚。

 そして遅れて運ばれる風圧が俺の髪を撫で、その影響で現前には惜しい角度で翻るスカートが……



 《あ。おっぱい眼鏡ちゃんだ》

「あれ?矢敷(やしき)さん?おはよう」



 耳が回復したのか、いつもの調子でセクハラ発言をするシステム音をスルーし、なにかを拾う素振りをしつつ突っ込んできた少女に挨拶する。



「あ、あれっ?御神楽くん?おはようございます、とすみません。急いでたから躓いちゃって……」



 俺が付けてる瓶底とは違い、アンダーフレームでオシャレな感じの度入り丸メガネをクイクイと忙しなくしながら手短に状況説明と謝罪を済ませる。

 が。



(いや、おもっくそ『破っ!』って。肘鉄でしたやん。背骨逝くやつでしたやん)



 と内心でツッコミを入れる。



「あの、怪我はないです、か?」

「たまたま足元に落ちてたギザ10拾ってたから大丈夫っぽい」



 この眼鏡っ娘。



「ギザ10、ですか?」

「知らない?淵の部分にギザギザした溝が彫ってある10円玉。ほら」



 何の因果か。



「知ってますけど……これ普通の10円玉ですよね……?」

「あれ?ほんとだ。()()間違えちった」

「……怪我が無くって、良かったです」



 多分俺の命を狙ってる。


 というのも、こういう急襲めいた出来事はこれが初めてではない。

 俺が異世界から戻って復学(向こうとは時間軸が異なるので、転移直前に戻ってきただけだけど)した初日から、今まで何の接点もなかったのに、同じようなことが起きるのだ。


 今のような背後からの当身はまだかわいいもの。

 俺が校舎沿いに歩いていると上の窓から花瓶を落としてきたり。

 体育の授業では、ソフトボールの打席に立つと俺がどこにいても弾丸ライナーかまして来たり。

 バットそのものがすっぽ抜けて投げつけて来たり。

 etc.


 その度に、俺は適当な理由をつけて襲撃をたまたま躱したことにしている。

 ギザ10は4回目かな。



「最近よく会うね。矢敷さん」

「そう、ですね。よくお話する気がします。今もホント偶然で」



 まぁ、ここまで滑る降りてきた直後から気配は感知していたわけだけど。

 相変わらず足音が全くしないのは恐れ入るが。

 俺がアホシステム音と会話する声が聞こえないくらいの距離にいたから今日は何事もないのかと思っていた。



「ホント偶然だね。どっちも遅刻しそうになってるなんて」

「……走れば間に合いますかね?」



 先述通り、普通なら無理だ。

 そんなの彼女も分かっていることだろう。

 あえての問い、つまりこれは……



「ちょっと一緒に走ってみる?」

「……そうですね、ダメもとで急いでみましょう」



 ここ数日彼女を観察して分かったことは、彼女の()()と俺に対して明確な殺意とともに強い対抗意識を持っていることだ。

 その理由までは知らないが。



「じゃ。10円玉が合図ね」


「……はい。いいですよ」



 その証拠に、競い合うような流れでもないのに合図でスタートするのを受け入れてる。

 俺の命を狙っているのを隠したいのか隠したくないのか、どっちかはわからないが前者だとしたら結構なお間抜けさんである。



「よっ」



 指に弾かれたコインが宙を舞うと、矢敷さんの眼鏡の奥の温厚そうな瞳が冷たく細められてゆく。

 その視線はこれから駆け抜ける通学路という名のコースでなく、俺に注がれているようだった。



(これはあれか。値踏みか)



 美少女に見つめられるのは嫌な気分ではないが、まぁ実際はそんなところだな。

 多分俺を強者かなんかと勘違いしてんだろう。

 この機会をうまく使えば彼女に狙われなくなるかもしれない。



(だったらここはセオリー通りに……)



 重力に従いアスファルトへ衝突した10円玉の子気味良いゴングがレースの開始を告げる。



(『えっ?私の殺すべき敵弱すぎ?』作戦だ!)



 眼鏡っ子の印象とはかけ離れた、弾丸の様なスタートダッシュをかます矢敷さん。

 重そうなお胸様をものともせず俺をはるか後方へと置き去りにしていく。

 前に回り込んでその様子を見たい衝動を鋼の精神力で抑え、こちらも数秒遅れてスタート。



「キレイなフォームだなー。陸上部より速いだろあれ」



 弾かれた10円玉を走り様に拾いつつ後を追う。

 あまり距離を離され過ぎてもわざと負けたように思われるからな。



「御神楽君っ!急がないと遅刻して、しまいますよっ!」

「まっ……!ぜはっ!ま゛っへ!ぉご!」



 どうよ、この弱者感?

 コンセプトは奴隷商から逃げる砂漠のフルマラソン。



 《ちょっ!なにそれー!キモイキモイ!朝日に焼けるアンデッドみたい―!アッハハハハハ!》



 こいつの笑いのツボを刺激するのは真に心外である。



 《ぉま゛っ!へ!おぼっ!べでぇ!ろ゛っ!》

 《念話にまで侵食してきたーーーー!ムリーーーー!キャハハハハハ!》



 50メートル位後ろに食らいついたまま、矢敷さんは蛇行した坂道の最後のコーナーを曲がる。

 だがここで問題が発生していた。



(やっべー。予鈴鳴っちゃってんじゃん)



 授業開始の本鈴ではなく校門を締められるやつだ。


 普通なら、後からこっそりどっかから入ればいいのだが、校門には登校する生徒の顔を全て覚えている生活指導の先生が立っている。

 勿論ジャージ着て竹刀持ってる感じの。

 何故か影の薄い俺も目ざとく見つけてくる。



(このまま矢敷さんのペースで走ってたら俺だけ間に合わないじゃん!)



 このままでは生徒指導室に呼び出される羽目になる。

 非常に面倒だ。



(かといってブッチぎるのもなー)



 今、キーンコーンカーンコーン……キーンコーンk⇐今ココ。

 その気になれば、カ―nの間に今校門までのおよそ100メートル程の距離をゼロにはできるが………



(あ。チャンス)



 あれこれ考えてるうちに引き延ばした体感時間。

 前方を走る矢敷さんがこちらを振り返ろうとしていた。

 恐らく勝利を確信し、負け犬確定の俺の面を拝もうという魂胆か。

 ・・・・いや、それはひねくれすぎているか。



(右向き、時計回りに振り向くな)



 なら、話は簡単。

 矢敷さんに怪しまれず勝利を提供し、俺自身も遅刻扱いされずに済む最善策。



(死角になった左を抜ける、と)



 彼女が振り向く瞬間。

 首が90°右に向いた一瞬、後頭部の背後、矢敷さんの左側は生物的に死角だ。

 ただそこを走り抜けるだけ。



「センセイオハヨウゴザイマスデハ」

「ん?ぉ、おおその声は御神楽か、もう少し余裕を持っ………もうあんなところに」



 校門で急停止。

 早口で挨拶を済ませると、先生に捕まらないよう、矢敷さんに追い抜いたことを悟られぬよう、華麗なる早歩きでその場を離脱。

 下駄箱直行のウイニングランだ。



(ほっほっほ。慌てとる慌てとる)



 歩きながら千里眼で矢敷さんの様子を窺うと、振り向いた先にさっきまで無様に追いすがっていた俺の姿が見えず困惑している様だ。

 きっとどこかでへばったと思ってくれていることだろう。



「これで俺から関心が無くなってくれればいいけど」

 《ゆーき!もっかい!さっきの白昼アンデッドもっかいやって!》



 ………これしばらく尾を引くな、こいつ。



「矢敷!予鈴は過ぎたぞ!遅刻だ!」

「そ、そんなぁ~~~~~!!」



 あーあ。

 あのまま駆け抜けてれば間に合ったのに、負け犬なんかを振り返って足を止めるから。



「御神楽ぁ………」

「あ、委員長。朝活お疲れっした―」



 矢敷さんの声に憐れんでいると、俺が所属する美化委員会の委員長が下駄箱の前で仁王立ちなさっていた。

 ひとつ上の先輩でふたつのおさげを結った、ザ・委員長だ。

 学級委員でないのが惜しい。

 ちなみに、美化活動の事となると体育会系かってくらい熱いお人だ、


 そんな人が、見覚えのある美化委員セットを握りしめていた。



「美化委員の魂を、公然とゴミのように置き去るとはなぁ?」



 うむ。

 今日も燃えておる。

 不燃物すらも消し炭に変えてしまいそうな勢いだ。

 うむ。



 うむ。






「美化ロードワーク40㎞」

「すんませんっしたぁーーーーーー!!!!」



 結局足止めをくらい矢敷さんにも追い抜いたのがバレましたとさ。

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