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03 美化美化行脚とメカクレ少女

「ひーっ……ひーっ……ゆうちゃん、そんなに足速かったっけ?」

「はっはー。能有る鷹の爪隠しだ」



 色気のない吐息交じりに肩で息する幼馴染。

 並走しているうちにお互い熱くなって、家から校門まで全力疾走をかましてきた。



「はぁーつかれたぁー。これで帰宅部ってんだもんもったいないよねー」

「美化委員入ってるだろ」

「部活じゃないし。委員だし」

「いいんだよ」

「…………」

「ちがう。狙ったんじゃないからな?」

 《いやゆーき。マジでないわ、今の》

 《おめーにだけは言われたくないんだわ》



 普通に受け答えしていただけなのに、誘導されたかのようにスベらされてしまった。



「しかし、この『韋駄天』の翼を折るとは・・・ゆうちゃんには『疾風迅雷』の称号を授けよう」

「捨てておくから美化委員として拾っておいて」

「ふ。無欲、というわけか………」



 しかしこいつもとんでもないな。家からここまで休まず走るか?ふつー。

 俺は元勇者補正があるから一晩中走ったって大丈夫だけど。

 こいつのこの無駄に高い身体能力も中二ムーブに拍車をかけてんだよなー。


 デバフの魔法掛けてやれば少しは落ち着いたりするのだろうか?



「でもホントにすごいよゆうちゃん。走り込みでもしたの?」

「――――まぁ、実は一年間ぐらい密かに鍛えてた」

「修行だ!私も誘ってくれればよかったのにー」



 あっちとこっちじゃ時間軸が違うから無理です。



「どれどれ………」

「なにしとんじゃ」

「いやね?腹筋をば……し、スィックスペァック!」

「服越しでわかるかよ」

 《今やバキバキのいい体してるもんねー》



 この女子ズはもう少し慎みを持てないもんかね?



「ほれ。いつまでもあほやってないで行くぞ。せっかく走ってきたのに」

「こいつはプール開きが楽しみですなぁ……ぐへへ」

 《ぐへへ》



 仲いいね君たち。



「さっさと行くぞ」

「はーい」






 ::::::::






 そして俺たちは再び通学路へと戻っていた。別にボケたわけじゃない。

 これが美会員の仕事の一部なんだ。

 校内に留まらず、生徒が行きかうこの公共のものである通学路も我々の手によって清潔に保たれるべきである。とは、うちの生徒会長の言葉。


 わざわざ早朝学園まで行って、また引き返すのは正直めんどくさい。

 でも、委員長がどうしても活動前にはミーティングをして士気を高めたいだとかいうから仕方なく従っている。



「おはよー。優菜、今日も美化委員?」

「はよー。そうだよー。もう、ビカビカにしてやんよ」

「あははっ。まぶしそー」


「優菜先輩おはようございまーす。今日も素敵です!」

「仔猫ちゃん。今日も笑顔がキュートだね」


「優菜ちゃんじゃん。お、今日もカラコンキマってんね」

「ふっ。この瞳は冥界に漂う邪悪なる黒炎を宿している・・・長く見過ぎると魅入られるぞ?」

(玄関先で言ったのと設定変わってんぞ)



 このように。

 ゆうが歩けば人に当たるというか、学年クラス関係なしに声を掛けられる。

 その度に一人一人リアクションを返すものだから、皆飽きもせず寄ってくる。

 人気者とそこまで絡みたいものかね。



「優菜おはよー。いい天気だねー」

「おはよー。闇の者に、この朝日は少し強すぎる」

「日傘持ってるけどつかうー?」



 その間俺はどうしているかって?

 愚問だな。



「あ、いいなー。私も新しいの買おうかなー。ね!ゆうちゃん」

「? ゆうちゃん?」

「………」

「あれ?御神楽君?あー。おはよ」



 ゆうのカリスマ的後光に隠れて息を殺し空気と化しているのさ。



「おはよう」

「………こんなところで何してるの?」

「美化委員なんだ」

「へーそうなんだ。かんばってねー。優菜、学校でね」



 そう言って再び通学路を歩き出すクラスメイト。



「応援されちゃったねー」

「彼女と同じやり取りするの、今ので4回目だけどな」

 《え。何それw超ウケるんですけどw》



 別に気配を消しているのは、モブに徹するこだわりがあるとか極端なコミュ障だからだとか、ゆうの交友関係の邪魔をしたくないとかではない。

 まぁ、いろいろあるんだ。



 《その()()()()で、そのダッサイ眼鏡つけるようになったわけだ》

 《モノローグの心の声、スキルで読まないでくれる?マジで》



 そう、人目に付く場所でゆうと行動を共にする時はこの瓶底眼鏡を装着している。

 こいつは便利だ。


『広瀬優菜の幼馴染』という存在感をさらに薄めてくれる。


 あっちの世界でもこれほどのマジックアイテムにはなかなかお目にかかれない。ただの眼鏡だけど。

 二面性、とまではいかないけど、先のクラスメイトのように俺自身の名前は認識してるが、その立ち位置には毛ほども興味を向けない。まさに、俺が狙った通りの結果だ。


 この転移前から身に着けていた存在感を消す技術は、あっちの世界でも大いに役立ったしな。序盤だけだったけど。

 更に、異世界から持ち帰った『隠密』という気配を絶ち切る技術があれば鬼に金棒。



 《異世界の救世主様がね~》

 《ほっとけ。本当に怖いのわね、魔神なんかじゃなく人間の心に巣食うものなのですよ》

 《いうね~》

 《実感こもってるだろ?》


「――――ぃ」


 《自虐ぅ~》


「ぉ――ま――――ぱい」


「ゆうちゃんゆうちゃん」

「ん?なんだ、どうした?」



 あほシステム音との念話なんぞに気を持っていかれてた。

 そういえばさっきから声かけててくれてたよな。



「わり、ぼーっとしてた。てか随分とひそひそしゃべるな。ちゃんと朝飯食ってきたのか?もっと腹から声出せや」

「いや、それ多分私じゃなくて、その子」

「どの子?」



 指さす方を振り向くと――――



「おわっ!?近っ!?誰!?いい匂い!」

「ゆうちゃん。それセクハラだよ?」



 俺の背後には頭一つくらい小さい身長の、やたら前髪の長い女子生徒が立っていた。

 ていうか、気配を全く感じなかったぞ?

 そこまで強力じゃないパッシブスキルはシステム音に『依頼(オーダー)』しなくても常に発動してるから、気配を探る『気配感知』に引っ掛からなかったってことになる。

 引っ掛からないのは霊体くらいで――――――



「って。玲子じゃん。幽霊で思い出した」

「ふぇ?ゆ、幽、霊?何にも、感じませんけど・・・・」

「ゆうちゃんはもう、心の中で思ってたこと口に出さない方が良いと思う」


 《おい。『気配感知』切ってあるのか?》

 《んーにゃ?バリバリ稼働中だけど》



 という事は、この前髪少女は素面でスキルをすり抜けてきたってのか。

 まじかおい。前々から見どころのあるやつだとは思ってたけど、その影の薄さは俺をも凌ぐんじゃないだろうか。



「ぁ、れ?今・・・・なにか・・・」

「師匠。朝からどした?俺に何か用か?」

「し、師匠?」



 ああ、いかんいかん。

 その類稀なる才覚にあてられ無意識のうちに敬ってしまった。



「いや、こっちの話。で、なんか用か玲子?」

「あ、ぃえ。用あったというか・・・・あの、その」

「ゆうちゃんに朝の挨拶してたんだよ」



 どもる前髪少女をフォローするようにゆうが告げる。いつもより声量とテンションを絞った穏やかな声色で。

 玲子は俺と同じ穴のムジナ、生粋の陰キャだからな。

 距離感保つのが得意なゆうが意図的にその圧倒的陽キャオーラを抑えているんだろう。



「・・・・そんだけ?」

「登校中に友達見かけたら、普通挨拶くらいするでしょ」

「そ、そんな。私が先輩とお友達、なんて、おこがましい、です」



 相変わらずネガティブキャンペーンすごいな。



 《暗いわねーこの子。荒んでた頃のゆーきほどじゃないけど》

 《そう言う事言うな。あとまだしまい切れてない黒歴史のフタを開けようとすんな》

「っ!・・・ま、また、なにか・・・・」

「ゆうちゃん・・・・何か言うことあるんじゃない?」



 ジト―っとした視線を送り付けてくる幼馴染。

 基本的に八方美人のこいつがこんな感じになる時は大体俺に落ち度がある時だ。もっとも、こういう態度を俺以外に取っている所は見たことないが。

 もっと幼馴染大切にしよ?



「おはよう。玲子」

「ぁっ………おはよう、ございます」



 目の前にいても消え入りそうな声であいさつに応えると、カバンを抱えて駆けて行ってしまった。



「律義なやつだなー。てか足おっそ」

「ほっほーん。ゆうちゃんにあんな可愛い後輩の知り合いがいたとはねぇ。隅に置けませんな」

「隅に居させて。俺の安住の地なの。てかあんなに前髪長くて顔もろくに見えないのに可愛いとか分かんないだろ」

「瓶底眼鏡かけて目元まったく見えない今のゆうちゃんに言われたくないだろうな………可愛いとは見てくれだけじゃないでしょうよ。それに、あの子素顔絶対かわいいし」

「そのこころは?」


「女の勘」


 《あ!知ってる知ってる!メカクレって属性ね!》



 こいつも相当染まってんな。属性とか言い出すし。



「玲子ちゃん、だっけ?」

「ああ。一年の柳下玲子(やなぎしたれいこ)



 ちょっとした縁で、顔を見かければ話す程度の仲だ。

 気配を薄めている俺を見かけて声をかけてくるそう多くない猛者。彼女自身に至っては俺がその気配に気づくこともできなかった。

 ふ。また、陰キャの腕を上げたようだな



「基本あんな感じだが、もしかしたら意外とゆうと気があったりするかもな」

「ふーん?」



 地味な見た目の割りにキッチリ、クセ強いところあるんだわ。



「でも、たしかに。隠されると、前髪あげたところ見てみたい気もするな」

「本人にはあまりずけずけとそゆこといっちゃだめだよ?」

「当然」



 同じ陰キャ同志。

 不可侵領域、ATフィールドぐらい心得ている。



 《ねーねー。ゆーき。さっきのあの子ってさ――――》

 《ん?なんだよ?》

 《………んや。やっぱなんでもなーい☆》



 こいつが言いかけて止めるなんて珍しいな。



「よし!じゃあ気を取り直して街を美化美化(ビカビカ)にするぞー!」

「………お前それ浸透させようとしてんの?」



 俺たちは再び登校する学生たちと逆行して歩みを再開した。

超不定期更新

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