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伝説の勇者だから魔王と平和交渉することにした  作者: 伊藤 黒犬
第三章 ドキドキ!雪の日の思い出大作戦 
29/55

04

 まじまじとケシィの露出された右肩を確認し、医者はしっかりと頷いた。

「ここまで肩が動くなら、義手が使えるかもしれないな」

 ベッドから離れて事務机の上に山積みになった書類を漁りだす医者。ベッドの上に座っていたケシィはローブを直して、その下で右肩を動かしてみる。

 診察の様子を眺めていたテラが医者に質問をした。

「あの、義手というのは……」

「機械で出来た腕の代わりだ。原動力は使用者の魔力だから……お、あったあった」

 一枚の紙を取り、医者はそれをケシィに手渡した。

「ここから少し歩いたところに義肢を作っている人がいる。行ってみてはどうかな」

 三人が横から紙を覗き込む。見やすく描かれたこの周辺の地図の真ん中、現在地から東の方角に赤いペンでバツが付けられていた。

「改めて言うが義肢は動かすために魔力を消費する。しかし彼女ほどの魔力量なら何ら影響は無いだろう、よほど激しく腕を振ったりしない限りは」

 事務机の散乱した書類をまとめつつ医者は言った。


 セルは地図を鞄にしまったケシィの左手をとる。

「ケシィ、行こう」

 ケシィはセルを見上げて微笑んだ。そしてベッドから立ち上がる。

「ええ。魔力で動く義肢なんて、使ってみないわけにはいかないわ」

 好奇心に満ちたケシィの表情を見て三人も笑顔になる。ふと思い出したようにプルがセルとケシィを見た。

「ところで、それってやっぱ高いんじゃないっすか……?」

「資金に関しては問題無いわ。かなり多めに渡されているから」

 鞄から皮の袋を取り出してケシィは袋の中身を見せる。中には分厚い金貨が三十枚ほど入っている。

「……金色のがいっぱい入ってるっすけど、これってどのくらい」

 横から袋を覗いたテラがえっと声を上げた。

「い、今までこんな大金持ち歩いてたんですか!?」

「え、これそんな凄い金額なんすか」

「これだけあれば豪邸が三軒買えるくらいですよ……それをいつも床の上に……」

 何故そんなに大人びているのかと医者が小声で呟いた。袋を鞄にしまったケシィは、テラから防犯意識に関して指導を受けることになるのだった。

 そんな二人を眺める男子陣。

「姉さんって何者なんすかね……もしかして貴族の令嬢とか」

「ケシィは大魔法使い様と一緒に暮らしてるんだよ」

 セルの説明を受けて大魔法使いの意味がよく分かっていなさそうながらも、プルは感心した様子でケシィを見た。だがその言い方が引っ掛かったらしく不思議そうに首を傾げる。


「そろそろ向かった方が良いんじゃないかな、日も上がってきたし」

 書類の整理を終えた医者が四人の方を向いて言った。窓の外から朝よりも強い日の光が差し込んでいる。

「……そうね。本当にお世話になりました、治療代は」

 頭を下げたケシィに、医者は首を横に振った。

「いや、私はほとんど何もしていない。お代は結構だよ」

 医者の言葉に迷いつつも、ケシィは再度深々と頭を下げて扉を開けた。昨夜の雪は止み、町中に積もった真っ白な雪が日の光を受けて眩しく光っている。

 四人は各自それぞれ頭を下げて外へ出た。ケシィとテラは冷気に体を震わせる。それを見てセルが二人の手を左右に握った。

「……ありゃ惚れるよな。ま、あいつも素直じゃないだけで優しいけど」

 扉の前で医者は腕を組みながら三人を見送っていたが、寒そうに中へ戻って扉を閉めた。ドアにかけられた診療所の看板が横にゆらゆらと揺れる。








「聞いたか? 中央国の城下町が魔物に襲われかけたって話だ」

 槍片手に噂話をする兵士二人。

「マジかよ、この国もいつ襲われるか……怖くなってきた」

 石の壁に寄りかかっている二人の話を、鉄格子の向こうで床に寝転がりながら聞く兜を被った不審者ことお兄さん。

「人造魔物か……こりゃあ悲劇再び的なことになるかもな。どうしよ」

 呟いて兜の中に手を入れ顔をかきつつ、大あくび。

「つかこれ被ってるだけで入国早々連行されるとか。そろそろいいだろ?」

 兵士の一人が鉄格子越しに槍を向ける。

「駄目だ。その鉄兜を取ったら不審人物でないと認めてやる」

「だから無理だって……」

 ため息をつくお兄さん。階段から若い兵士が降りてくる。

「ん? 交代にはまだ早いぞ」

「いえ、どうも大魔法使い様がその不審者に会いたいと仰っているそうで……」

 寝転がっていたお兄さんが体を起こした。

「……ちっ、とうとう脱獄犯の仲間入りか…………しゃあない」

 飛び上がると同時に足で鉄格子を砕く。

 砕け散った鉄格子が石の壁にぶつかって甲高い音を響かせた。砕けた鉄格子を茫然と見下ろす兵士二人。

「…………な、今」

 その隙に階段を駆け上がるお兄さん。その後を咄嗟に若い兵士が追う。


 階段を上り切ったお兄さんは槍を向ける兵士たちに構わず、窓の下の壁を殴って穴をあけた。壁の破片が床中に煙を立てて散乱する。

「覚えとけ。こちとら伝説の勇者をも超える、世界最強の不審者様だ」

 愕然とする兵士達に宣言して、穴をくぐって脱走した。



 草原を走っていたお兄さんは後ろを振り向き、追手がいないことを確認して足を止めた。

「…………何で不審者を自慢げに名乗ってるんだ。俺大丈夫かな」

 兜を直し、ふらふらとした歩調で歩き出す。

「いや……全然大丈夫じゃないな、とうとう法を犯しちゃったし」

 空を見上げながらお兄さんはため息をついた。

「ていうか今更なんの意地なんだ……よくよく考えたら既に犯罪者だったじゃん、人に毒盛ってるとか。つか独り言多くね? 俺動揺してるの?」

 自分の手を見る。微かに震える色白な細い手に、再度お兄さんはため息をついた。








 机に突っ伏する幼い作業服姿の少女。頭にはサイズの合ったゴーグル。

「どうしよぉ、結局わたし一人じゃ止められあかったし……」

 かちゅじぇつ悪いし、と手に持っていたモップの柄で机を叩く。

「……ん?」

 ふと手を止める。扉を叩く音。

 少女はモップを手に小走りで扉まで歩き、柄をのばしてドアノブをひねり扉を開けた。部屋の中に冷気が流れ込む。

「すみません、ここで義手を作っていると聞いて…………」

 転んだのか雪だらけのセルは、幼い少女を見下ろしてえ、と声を漏らした。

「あれ、きのお倒れてた……」

 セルを見上げる少女。

「……あ、義肢つくってるのあわたしだよ? これでも三しょ路なんだ」

 とりあえず入って、と小さな手を振って少女は旅人四人を中へ招き入れる。

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