冬の帝国遠征軍二個艦隊
次の年の秋から冬、帝国は旅団の本拠地をはっきり把握していないながらも、可能性の大きいアラビアを攻略することを決定した。アラビアは、ペルシアの啓典の民たちが心のよりどころとしたところであり、またペルシアが崩壊した時、彼らが身を寄せたところだった。
帝国はいくつかの戦力を充実させてきた。豊かな財政にものを言わせてそろえた物量。育て上げた上陸強襲部隊と、それらを指揮しつつ援護する渦動結界を展開する神邇たちとアサシンたち。ただし、陸上の主力部隊は、ペルシア人の傭兵たちによる傭兵陸軍だった。それは、本土人、東瀛人、タイ、ベトナム、インドの世代が今までの戦乱で大きく失なわれているために、代わりとなる陸上戦力の兵士たちは、帝国人ではなく、被征服民族であるペルシア人を傭兵とせざるを得なかったのだった。
帝国がそろえた物量は従来の帝国の規模を大きく凌駕していた。近衛艦隊を失ったとはいえ、その後の準備により、横取された近衛艦隊100隻を、数の上で100倍以上圧倒する物量の主力二個艦隊二万隻の打撃艦隊、飛翔機体母艦隊、駆逐艦隊。そして、駆逐艦隊に含まれている強襲揚陸艦は、上陸強襲部隊と、神邇たち、アサシンたちを乗艦させるものだった。
「陰陽太一局長官、いえ、司令長官閣下、陰陽太一局長官室においでください。謁見室に国術院師範林正煕様が到着なさっています」
「うむ」
「陰陽太一局長官、いえ鳴沢先生。私にまでお声掛けいただき、ありがとうございます」
「おお、林正煕ではないか」
一番に駆け付けたアサシンは林正煕だった。彼は笑顔を持って鳴沢のもとに駆け付けている。鳴沢の司式によって権西姫と結婚できたこともあり、その顔は喜びと自身、そして野心にあふれている。
国術院始まって以来のアサシンだった宇喜多秀明は、今や鳴沢にとって不倶戴天の敵となっていた。西姫を秀明から引き離したこともあり、二人で鳴沢に対抗する可能性は無くなった。しかし、それでも秀明は一人であっても帝国にとって無視できない人間だった。それゆえに戦力増強とともにアサシンたちを動員することにしたのだった。その中でも林正煕について、改めてこの男の頼もしさを思い出していた。秀明ほどではないにしても、彼も国術院始まって以来のやり手でもあり、これからの活躍が楽しみだった。
「鳴沢先生、いえ、司令長官閣下。夫正煕とともに、私も微力を尽くします」
正煕に付き添うように西姫も来ている。
「おお、そうか。正樹と西姫、お前たち二人とも充実した時を過ごしているようだな」
鳴沢はそう言いながら、ふと思った。西姫を記憶操作してよかった、と。そして、記憶操作以前の西姫を思い出していた。そのまま秀明と組んだ時の恐ろしさを思ってもいた。
西姫はその鳴沢の複雑な思いを現している視線を受け止め、戸惑っていた。
「司令長官閣下、以前の議論のことでしょうか。すでに艦隊戦力は二個艦隊が完成しておりますし…・」
「いや、戦力はもう十分だったな。わかっている」
正煕・西姫夫婦に続き、その父親である康煕、袁崇燿、アーチャラー・ボースなど卒業生全員。それに加えてウパデーシャ・ラーマン師範、ソンタヤー・チャイヤサーン師範など、師範の全員までが集まっていた。このように帝国中のアサシン全員を参加させたところに鳴沢の決意が現れていた。
「司令長官閣下。アサシン全員が大講堂、また周辺の関連視聴覚施設に全員揃いました」
「うむ」
鳴沢は、報告を聞くとおもむろに立ち上がった。
「アサシン諸君、武道と精神の強さを持つ戦士たちよ。我々はついにあの怨念の対象である旅団に対して、勝利をつかむ直前まで来ている・・・・旅団は以前の倭寇であり、従前より長くわが帝国の沿岸部、島しょ部を絶えず侵してきた。マラヤ、ルソン、台湾、沖縄が彼らの手に落ちてから、かれらは東瀛まで手を伸ばした。彼ら旅団は工作員を使って、帝国の基盤である神域とその支配者である神邇たちを没滅し続けてきたテロリストだ。今では東瀛領の東北半分は旅団の手に落ち、『ひのもと』などと言っておる。東瀛の首都だった東京も、今では彼らとの争いの地になり果ててしまっている。しかし、今や、帝国は反撃から攻勢に出た。きっかけは君たちとその先輩のアサシンたちだ。先輩たちや君たちは、各所で旅団の工作員を抹殺して勝利を重ねてきた。そして今、帝国の海上戦力は二個艦隊、陸上も傭兵部隊が十分揃えられつつある。さあ、アサシンたちよ。今や勝利は君たちの力によってもたらされるだろう。さあ、大いなる目的のために、全軍の指揮に、互いの協力に、精進しようではないか」
「そうだ、そうだ。鳴沢司令長官万歳」
アサシンたちはこの檄に大声をあげて応えていた。こうして、鳴沢の演説によって帝国軍侵攻作戦は開始された。
アサシンたちを乗せた多数の強襲上陸艦が、今、杭州府の軍港などから出航しようとしていた。それらと合流予定の駆逐艦隊4500と打撃戦艦群3500は、既に上海沖合や佐世保沖合の東海に展開している。そして遥か太平洋上には、飛翔機体母艦2000が遊よくしている。もはや、近海はおろか、台湾や沖縄にも艦隊を脅かす旅団の影はなかった。
杭州府や上海、東瀛の九州各地では、出港を控えた強襲艦に乗り込む上陸強襲部隊兵士や見送りの家族でごった返している。すべては寂静の帝国人民らしく、大声や、感情的な雰囲気は見られない。
「息子よ。お国のために、戦って来てください」
「我が娘や。死してもなお、貴女は帝国の民、私の娘だよ」
ここそこで、不思議に嘆くものはいない。皆はそれが寂静から外れていると知っていた。帝国での寂静の教えは、それが死後も転生後も帝国人であり続けることの保証だった。それほどに、帝国人であれば、誰も陰陽太一局の教え、輪廻転生の教えに従順だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帝国の大規模な動きを受け、旅団は動きを早めた。帝国傭兵軍団編成に合わせて、ペルシア人工作員の動きも活発となった。彼らは、占領されたままのペルシア全土で、裏工作と同時に、帝国に対するレジスタンス活動を展開した。
また、全世界に散らばった旅団の工作員はアラビア半島に集結しつつあった。
この時の僕には確信があった。また、再び神殿トカゲも来てくれる。そして、僕には、鳴沢の仕組んだ戦いの時が近いことも分かっていた。それは鳴沢に長い間指導されていたことに基づく考え方ばかりではなく、九尾狐、すなわち豪姫と言う正体を持つ怪物に見えなければならないという強迫観念に似たものだったかもしれない。
「アチェ方面軍、撤退を報告してきています」
「そうか、わかった」
ドン・ジャクランは、アチェ一帯に早めの撤退を指示してあった。
マラヤの半島に沿うマラッカ海峡。その喉元にあるアチェは、旅団の有力な拠点である。旅団が強力な時代には、付近の海峡などの要衝を押しとおろうとする帝国の艦船があれば、要塞からの砲撃により撃沈してきた。過日の旅団は、そのような実力を備えた要塞をいくつも擁していた。だが、今、それらの要塞と砲撃陣地群は、帝国側の大規模な打撃艦隊による巨砲射撃、艦載飛翔機体による誘導ロケット攻撃と爆撃により、既に崩壊していた。そんな情勢であれば、助けの来ない要塞一つが大兵力の前に籠城する意味のないことは、初めからわかっていたこと。それゆえ、今では、アチェをはじめとした各要塞基地から、旅団の兵員たちが早々とジブチやアラビアの地へと撤退して来ていた。また、それに呼応してその周辺の啓典の民たちも逃げてきていた。
「旅団は次々に負けている。このままではわれらはどうなるのか?」
「われら啓典の民には安住の地がない」
「われらはここまで追い込まれたのか。現に旅団はもうここにしか拠点がないではないか」
「やはり、帝国には敵わないのか」
「逃げることもできない」
「われらは有効に戦わずに犠牲になってしまうのか…・」
「帝国に支配されては、生きる喜びが無くなってしまう」
基地の周辺の住民たちの叫びが、ジャクランの周りに響く。この声は、アラビアへ逃げて来たペルシア人やビアクトラのパシュトン人など、アラビアや紅海沿岸の啓典の民たち全体の叫びでもあった。ジャクランは、住民たちの不安がよく理解できていることもあって、心は非常に重かった。それゆえに、彼は毎日耐えるようにしてジブチの大聖堂にて祈りを重ねていた。
すでに、旅団側はジブチに本拠地を設置し、総力を挙げて帝国艦隊迎撃の準備を整えつつある。だが、彼が聞いている限りでは、帝国はすでにペルシア人の傭兵からなる陸上兵力とともに、最新鋭艦を完成させ、それとともに強大な艦隊戦力を整えていた。そして、今、アチェからの報告により、本土の艦隊戦力を中心にアチェを陥落させ、インド亜大陸に展開するインド方面艦隊と合流したうえで、この地へ攻めてくることが分かっていた。問題は、エジプトの地からか、それともアラビア半島を海沿いに来るか。
ジャクランの考えによれば、艦隊戦力が中心である彼らが、陸上兵力を支援しつつペルシア湾から陸伝いにアラビア半島を攻略することが、最も可能性の高かった。問題は、帝国の進路を確かに把握したのち、どのようにして海上で敵戦力を漸減させ、迎撃するかだった。
既に、対艦砲や対艦ミサイルを多数沿岸部に配置していた。しかし、陸上からの砲撃だけでは最新鋭艦の太極のもたらす結界によって、簡単に防がれてしまうだろう。また、圧倒的物量の二個艦隊に対してそんな程度の攻撃が有効であるとも思えなかった。
・・・・・・・・・・・
「ジブチ港湾周辺哨戒艇より緊急報告。正体不明の艦隊が急に出現してジブチ港を包囲。海上封鎖の虞があります」
祈祷室から司令部に戻ったジャクランに、司令部士官たちが駆け寄ってくる。
「敵艦か?」
ジャクランは冷たい視線を士官たちに向けた。
「およそ百隻。船籍不明です」
「いえ、帝国艦隊に違いありません。あの艦影は、彼らの最新鋭艦から構成された近衛艦隊です。今後のわれらの作戦準備を阻止するために、第一撃として帝国があの新型艦を派遣したに違いありません」
「なにい?! 敵の最新鋭艦?! 総員戦闘配置」
ジャクランは怒りのあまり、毛を逆立てて命令した。それに反駁するように士官の一人が声を上げる。
「あの艦隊に今攻撃されては、我々は一撃で全滅です」
その声に、戦士としてのジャクランの声が上がった。
「あわてるな。冷静であれ! 勇敢であれ! わが戦士たちよ! 必ずわれらは十分に戦える」
ジャクランの太い声を聴きながら、僕はその声に上書きするように声を鋭くした。
「そうです。慌てる必要はありません」
「だれだ」
「私です。ジャクラン司令、宇喜多秀明です。あの艦隊はここを攻撃しませんよ」
「秀明、君か。よくぞ来てくれた。だが、なぜあの帝国近衛艦隊がこちらを攻撃してこないと言えるんだね」
「あれは、敵艦隊ではありません」
「敵艦隊ではないか。あの形は、結界の太極を運搬する形状だぞ」
「それはそうですが、あれは僕が連れてきた艦隊です」
「連れてきた? 導いてきたのか・・・・敵を? う、裏切ったのか」
「落ち着いてください。僕が横取してきたのです。敵の最新鋭艦からなる元帝国近衛艦隊です」
「敵艦隊を横取りしてきた?」
ドンジャクランは、近衛艦隊をジブチ港に持ち込んできた僕の行動に驚きつつ、要塞司令部の一室に僕を招いた。
「あまり驚かさんでほしいね。敵艦隊が急に表れて・・・・それも通常の艦船ではなく、未知の武器を搭載した最新鋭艦が、我々ジブチ要塞を取り囲んで停泊した時には、もう終わりだと思ったぞ。そして、その旗艦から君が一人だけで表れて…後の艦船は無人だった。つまり盗んできたと聞いたときには、肝をつぶしたね」
「この艦隊は帝国の未来霊器です。これを彼らに持たせては、我々は対抗できません」
「しかし、アチェが陥落した今、インド洋を横切ってくる彼らの勢力さえ、我々には対抗手段がないのだよ」
「そうですね。そのために、この横取艦隊を活用しようと思っているのです」
「秀明、君は奪取したこの艦隊を、どのように活用するのかね?」
「彼らの主力は艦隊戦力です。これら艦隊を壊滅させなければ、我々は全滅です」
「彼らも我々を全滅させるつもりだろう」
「ですが、彼らにとってこの太極の霊器である最新鋭艦隊も無視できない目標です。彼らは、この艦隊を無視してアラビアとこの地一帯を攻略することはできません」
「ということは、君の艦隊を陽動に使うのかな? それとも、囮にするのかな?」
「囮にして罠に誘い込むつもりです。ですので、この際のご相談です。イーサンアルグーバ湖の周囲に、湖面上の敵に対して十字砲火を浴びせる陣地を隠しておいてください」
「何をするのかね」
「今は秘密です」
「この私にも・・・かね」
「それから、絶姫を貸してください」
「絶姫か? 君の娘だろう。自由にしなさい」
「いえ、そうもいかないのです。彼女はあなたの命令しか聞いてくれないので・・・・・私はどうやら父親とは見てくれなくて、たぶん、彼女にとって父親はあなたらしいです」
「わかった、私からよく言って聞かせよう」
「ジャクランが言うから話を聞きに来たけど、父上・・・・やっぱり父上には見えないんですけど・・・・。私も行くんですか」
「ジャクランは、僕と行けといってくれたんだろ?」
「え? どこへ行くの?」
「そこから説明するのかよ…ジャクランめ、ほとんど話していないじゃないか…。あのな、僕が奪取してきた敵の最新鋭艦隊のことだけど…・」
「ああ、あなたが横領してきた艦隊ね」
「人聞きの悪いことを言うなよ。戦略的な奪取だ!」
「まるで海賊ね。つまりあなたが横領したのは海賊船ね」
「海賊? 海賊船?」
「それで、海賊船の使い方はどうするの?」
「違うぞ、敵の近衛艦隊だ」
「それでその艦隊をどうするの?」
「今は秘密だ…」
「私にまで秘密なの? あなたのために働くことになっているのに・・・・」
「ありがたい、今は何も聞かずに一緒に来てくれ」
「へえ、海賊船に、若い娘をだまして乗せるわけね。とても父親とは思えない仕打ちね」
「君ね、その首に下げているロザリオは僕がわが娘に、と、思いを込めた贈り物なのに…」
「そう言って、私を口説くつもりなんでしょ。自分の娘なのに。このロザリオなら外すわ。やっぱり名ばかりの父親ね。戦いの経験なら、幼い時から戦っている私の方が長いのよ!」
僕はもう我慢ならなかった。これほどのこまっちゃくれた娘を作戦行動に連れていくのは、気が進まなかった。
「ジャクランを呼んでくれ」
「なんだよ、実の娘の一人も説得できないのか?」
ジャクランの複雑な視線を受け止めながら、僕は説得を依頼した。
「絶姫、なぜ父上と一緒に行かないんだ?」
「だって、父親らしくないもの。私を口説いたんだから・・・・」
「君のロザリオだって、秀明が君に送ったものだぜ。それを外すなんて…」
「何が父親よ、まるで気がふれたように、『西姫、西姫』って。女々しいのにもほどがあるわ」
「それは・・・・やきもちか? 西姫を彼が呼び求めるのは、彼にとって最愛の妻だからだろうが?」
「そうね、最愛の人がいないから、似ている私を口説くに違いないわ」
たまらず、僕は反論した。
「僕の送ったロザリオを付けているならば、僕の娘だ。そうであれば口説くことはあり得ないよ」
ジャクランも怒りを含んだ声を上げた。
「絶姫、君の言っていることは単なる言いがかりにすぎない。君は彼の心の中が分かっているのかい。彼は西姫に永遠の愛を誓っているんだ。だからこそ、呼び求めてきた。そしてこれからも呼び求めるに違いない。それほど彼が彼女を愛しているんだ。それが君の父と母の、いや理想的な夫婦の愛だ。絶姫、それが分からんのか」
ジャクランの怒りを含んだ説得の言葉に、絶姫は驚いたのだろう。戸惑いながらやっと返事を返した
「え? ええ、そうね。私がわがままだったのでしょうね」
絶姫はようやく自分の過ちに気づいたのか、ジャクランのいうことだからなのか、秀明の作戦行動に同行してくれることになった。
帝国の近衛艦隊を構成していた最新鋭艦群からなる秀明艦隊は、夜の闇にまぎれてジブチを出港していった。
・・・・・・・・
「こちら、哨戒機第八群。インド方面前線よりアデン湾方面へと向かう敵艦影を確認。打撃戦艦群3500 飛翔機体母艦2000 後続の駆逐艦隊は強襲上陸艦を伴って4500・・・・」
「ジャクラン、彼我の戦力比は100対1です。このままでは、我々は蹂躙されるだけです」
「メソポタミア方面軍をこちらへと引き上げるべきです」
「それで間に合うか?。それに啓典の民たちは救えるのか。アラビアの民を…」
「彼らを見捨てるしか…・」
「それを天がお許しになると思うか」
「でも・・・・」
「待て。友軍が、隠れた友軍がいる。秀明と絶姫が隠れた一手をすでに打っているはずだ。問題はいつそれが効果を発するかだけだから…・」
帝国艦隊は、単縦陣に編成を変えつつあった。それは、砲と飛翔体とによる打撃をジブチ陸上要塞に与えることを意味した。対するジブチの要塞は対抗しきれないに違いなかった。このままでは、要塞は粉砕され、聖杯城と旅団の本拠地が壊滅する。また、メソポタミア方面派遣軍は戦いの機会を失う・・・・つまり、旅団は全てが壊滅することを意味していた。
「敵艦、陣形を変えつつあります。複縦陣、われらの基地と周辺を挟撃するつもりであると思われます」
ジャクランは、司令席でただただ目をつぶっていた。
「これでは、我々は全滅です」
「待つのだ。今は耐えるしかない」
敵艦隊の長大な単縦陣は複縦陣にと変わった。それはジブチとソマリア方面とから陸上勢力を挟撃し粉砕するためだった。その赤黒い影を、ソコトラ島から眺めていた啓典の民たちがため息をついた。
「赤い悪魔が俺たちを滅ぼしに来た・・・・」
ジブチの陣営でも、また戦況を見守る聖杯城外郭でも、無言で見守っていた指導者や民たちがうめくような声を上げ始めた。
「私たちは、一生懸命頑張ったのだが…すべては無駄ではないか。せめて、この場においても神の栄光を表そう」
「そうだね、我々は潔く敵を愛し・・・・」
しかし、彼らの言葉は続かなかった。あまりにもいきなり希望を失われたからだった。子供たちが泣き声を上げた。
その時、僕はソコトラ島の霧の湾内から、元の近衛艦隊の最新鋭艦群が姿を現した。
「反撃に出る。艦隊全艦、散開して戦闘隊形。左右端部艦より飛翔機体二機射出」
絶姫の声が響いた。そして、僕は言葉をつづけた。
「ジャクラン司令、これより作戦行動に移ります」