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地獄シリーズ

転生

作者: 宜候(ヨロシクソウロウ)

「痛ぇ、こいつ!何しやがるんだ・・・」


彼はお腹を抱えて座り込んだ。


鼓動が早くなり痛みはどんどん増してくる。


床には彼の血がどんどん広がっていく。


彼の意識は徐々に薄くなり、それに従って痛みも徐々に消えてきた。


そしてついに彼は息絶えた。


彼はしばらく暗い闇の中をさまよっていたが、かすかな光が目に入った。


彼はそこへ向かって歩いて行った。


光に近づくとお経が聞こえてきた。


「葬式か。まぁここにいるよりは良いだろう。」


彼が光に近づいていくと、光は徐々に広がっていき、祭壇が目に入った。


坊さんのお経の声が段々大きくなってくる。


そして、彼は光の中に入った。


「やはり葬式か。」


彼がそう言って祭壇を見ると、祭壇に置かれている写真が目に入った。


「なんか俺に似ているな。あ、俺じゃないか。」


彼は棺の中をのぞき込んだ。


そこに寝かされているのは紛れもない自分自身だった。


彼は周りを見渡したが、誰も彼に気がついていなかった。


「おーい!俺はここにいるぞ。誰か気がつかないのか!」


彼は大声で叫んだが、彼の声を聞き取れるものは誰もいなかった。


しかしその時、部屋の片隅で彼を見ている男に気がついた。


男は、礼服を着て黒い帽子をかぶった小男で、彼の方をじっと見ていた。


彼は男に近づいて行くと、男に話しかけた。


「おい、お前!これはどういうことなんだ。何か知っているか。」


男はニヤリと笑うと彼に言った。


「初対面の人間に対して、えらく無礼な物言いですな。人にものを尋ねたいなら、もっと礼儀正しくしたらどうだね。」


彼はハッとすると、改めて男に尋ねた。


「これは申し訳ない。私は田中と言います。何故か私の葬式が行われているようなので、何かご存じの事があれば教えていただきたい。」


男はニッコリ笑うと、彼に言った。


「確かにあの写真はあなたのようですね。私は佐藤と申します。この地で案内人をしております。」


「案内人?では葬儀会社の方ですか。」


「違います。死者の案内人です。」


男は一瞬自分の耳を疑った。


(死者って、俺のことか?)


「待ってくれ、俺はこの通りまだ生きている。」


「良く思いだして下さい。あなた刺されましたよね。」


彼がその言葉を聞くと、頭の中に自分が刺された光景が浮かんできた。


「あ、あの時・・・・」


「あなたは刺されて病院へ運ばれましたが、出血多量でお亡くなりになりました。」


「木下のやつか。俺はあいつに殺されたのか。」


彼は怒りがこみ上げてきた。


「くそっ。やつに復讐したい。佐藤さん、生き返ることは出来ないのですか。」


「それは無理です。」


彼は残念そうな顔でうつむいたが、気を取り直して男に聞いた。


「では私はこれからどうなるのですか?天国へ連れて行ってもらえるのですか?」


(俺はまじめに生きてきたし、何も悪いことはしていない。)


彼は自分が死ねば当然天国へ行くものだと常々思っていた。


すると、男は大声で笑うと彼に言った。


「天国?ご冗談でしょう。」


「え、でも私は法律も破っていないし、人殺しでもない。天国に行くのが普通じゃないのですか?」


「では、あなたが天国に行けない理由をお教えしましょう。私についてきて下さい。」


男はそう言うと、焼香が始まった祭壇の前へ男を連れて行った。


「あなたはここで参列者の心の声を聞くことが出来ます。あなたへの感謝の気持ちを持った人がどれくらいいるか聞いてみましょう。」


(何を言っているんだこの男は。俺のおかげで皆暮らすことが出来ていたんだ。皆感謝して、俺の死を悲しんでいるに決まっているだろう。)


「分かりました。」


彼は自信を持って答えた。


祭壇の前に立っていると、参列視野の心の声がどんどん耳に入ってきた。



「やっぱりこうなってしまうんだねぇ。いつも自分の考えが正しいって思っていたから、母親の私にまで文句を言って・・・自業自得だろうね。」


「これでやっと私は自由だわ。気に入らないことがあると直ぐに手を上げるし、友達と遊びにも行かせてもらえなかった。お金はあるくせに、最低限のお金しか渡さないし、ほんと殺してくれた人に感謝するわ。子供達のために我慢をしてきたけど、これから私の人生が始まるのね。」


「うるさい親父だったな。小遣いもくれないし、直ぐに殴るし。自分はたいした大学に行っていないのに俺には東大東大ってうるさいし。まぁ保険金はたっぷり入るし、勉強勉強ってうるさいやつもいなくなる。これからは楽しい人生になるよな。殺してくれたやつには大感謝だぜ。」


「親父が死んだら、俺を邪魔者扱いしやがってよ。2年早く生まれただで、馬鹿なのに社長になって、パワハラしまくるからこうなったんだよ。自業自得だな。まぁ、次の社長は俺だしな。兄貴を殺したやつだ出所してきたら、面倒見てやるかな。ざまぁみろ。」


「先代社長と共に会社を盛り上げてきた私を、閑職に追いやりやがって。死んでくれて清々した。これでキッと良い会社に戻る。社員達も喜んでいることだろう。」


「クソ社長。ご愁傷様。何でもかんでも人のせいにして、お前のミスの責任をとらさせてボーナス減らされたときは殺してやろうかと思ったけど、他の人がやってくれて助かったぜ。」


「先代にはお世話になったから、上司には儲からないって文句言われながらも安く入れてやってたのに、お礼どころか高い高いって文句ばかり言いやがって。馬鹿社長殿、ざまぁみやがれ。ははははは。」



ここまで聞いたところで男は彼に聞いた。


「まだお聞きになりたいですか?」


彼は、誰も悲しんでいないばかりか、喜んでいることを知ると、うなだれていった。


「もういい。」


彼がそう言った次の瞬間、彼は法廷らしきところに立っていた。


目の前には見上げるような大男が座っていた。


裁判長は閻魔大王だった。


(俺はここで裁かれるのか・・・・)


閻魔大王はしばらく彼を見つめていたが、やがて低く響く声で彼にに言った。


「お前を天国へ行かせてやることは出来ぬ。お前は人減らしのために気の弱いあの男に難癖をつけてパワハラを続け、自分から辞めさせようとした。しかし、なかなか辞めないので会社のカネを盗んだと言いがかりをつけて解雇した。そしてお前は解雇した男に殺された。お前を殺したものはいずれ裁かれることだろう。さて、お前は多くのものを苦しめてきた。人間の法では裁くことが出来なかったが、地獄の法は他人を苦しめたものを許さぬ。だが温情を持ってお前には、地獄か元の世界のどちらに行くかを選ばせてやろう。」


男は暗い顔でうつむいていたが、閻魔大王の言葉を聞くとぱっと明るい顔になり、閻魔大王に言った。


「大王様。是非元の世界へ戻らせて下さい。」


閻魔大王はそのことばを聞くと彼に言った。



「で、あるか。」


「では、お前を殺した男の妻が丁度身ごもっておる。お前は、お前が殺した男の子供として転生するが良い。」


「あっ」




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