二人のはなし
「ふふ、甘やかされてるねぇ」
「ねぇ、私もめっちゃそう思う」
千花が冷たいジュースを手渡してくれたので、二人でソファに座ってずずーっとストローを吸う。ああこの感じ懐かしい。
「まぁ私もめっちゃおこぼれにあずかってるし外野が言うことじゃないな、そんなん2人だけの問題だもんね」
「千花も私に甘い」
「やーなんかさー、もちろん桜は友達なんだけどたまーに姉気分に」
お姉ちゃんか。生きた年月考えたらまぁおかしくもないか。
「実際今の年齢だけでも私の方が大分年上だしね、公称だと同い年だけど。ぷっ、桜その見た目で22才扱い」
「あれ?そいや私の扱いどうなってんだろ、侯爵家に籍あるのは聞いたけど消えてたわけだし」
色変わったのとか誰も何も疑問に思わないもの?
「えーっと、上の方はわかんない。下級貴族のもこっち出てきてから小耳に挟んだ程度だけど、何かの呪いで消えた未来の王太子妃が殿下の愛の力で戻ってきたけど、闇に捕われてた期間が長すぎて色黒くなっちゃったみたいな。記憶も曖昧だから社交出来ませんので殿下と一緒に領地でのんびり暮らします的な感じ?」
「何それすごい話になってる。それで殿下は別の嫁見つけろみたいな話にならないのすごいね、普通反対しない?闇で黒くなった人間とかさ」
全然違うけどその話だと私不気味な存在じゃん。
「下級貴族はさー、そんな権力とか持ってないじゃん。当主だと違うかもだけど、上の方の情報はほとんど噂話でしか入ってこないしみんな話半分。雲の上の話で人ごとだから本みたいな純愛扱い、学園の友達に会った時いま本人達の邸で侍女してるって言ったらすっごいキラキラ聞かれた。守秘義務で通したけど」
まわりはそんなもんなんだ、私こそ殿下に相応しい!みたいな女の人がいっぱいいそうなのに。
「ないわー、ハート侯爵令嬢が消えてからの殿下超ヤバかったんだよ。学園卒業までしか知らないし、直接関わりなかったけどそれでも見るからに病んでてさ、あれ見たことあったらかわりになれるとか思う人出てこないわ」
学園のハート侯爵令嬢は私じゃないけどね。
「桜、私が教えた選択肢ガン無視して思った通りに進めたでしょ。そんで見た目もモロ桜、サクラ人形を桜が桜のまま動かしてたような認識だな私は」
私もそんな認識だな。
「そのへんは前に話して一応二人とも納得済みなんでしょ?同じ感じで恋愛感情問題も殿下と会話してみなね」
「ありがと、今日帰ってきたら声かける」
頼りになる千花とバイバイして、ハルト様の帰りを待つことにした。
***
夕食を食べて、まだ帰ってこないハルト様を読書しながら待ってたらそこそこ遅い時間に帰ってきたと使用人さんが声を掛けにきた。
そのまま部屋を出てハルト様の部屋に向かう。
「ハルト様、お疲れですか?大丈夫なら少しお話したいです」
ノックをして声を掛けると、すぐにドアを開けて出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「うん、ただいま。こんな時間にどうした?」
ハルト様は着替える途中だったのか、ふわふわしたネクタイみたいなやつを指でぐっとしながら言った。
「着替えは」
「ああ、首元を緩めたかっただけだ。そこに座って」
促されてソファに座る。
「サクラは酒飲める?準備してもらったから俺は少し飲むけど」
「飲んだことないです」
「じゃあやめた方が良いな」
そう言ってそのままドアの方へ行き、使用人さんがすぐにジュースを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「いや、こんな時間にサクラが訪ねてくれるなんて初めてで浮かれている」
確かにめっちゃニコニコしてる。ご機嫌でお酒の入ったグラスを両手で持ってる。可愛いなその体勢。
うぅん、なんて切り出そう。
「えー…っとですね、昼間千花と話してたんですけど」
「うん」
「なんか、私ハルト様の事好きかもしれない?みたいな話になって」
「うん?」
「でもドキドキとかはやっぱりしなくて。好き好き大好きー!て感じじゃないのに言っちゃうのどうなのって気がするけどハルト様とそのへんちゃんと話してみたいなぁと」
「………」
ハルト様にこにこのまま動かなくなっちゃった。
「あー…やっぱそのくらいで話すことじゃなかったですかね」
「いや、そんなことはない!」
動いた。カップテーブルにドンって置いた。
「サクラは、俺を好きかもしれないと感じる時があると」
「ですね、わりとしょっちゅう。でもなんか落ち着くなぁくらいで」
「サクラ–––––」
わ、ハルト様うるうるしだした。
「いや、でもかも?てくらいで…それでやっぱ違ったーってなったら大変だし」
もう言っちゃったけど。
「大変ではない、問題ない。好きじゃないから好きかもしれないに変化したなんて大歓迎だ」
「ハルト様と話してみたらなんかわかるかなって」
「恋愛とそれ以外の違い?」
その違いってドキドキするかどうかだって思ってたんだけど。
「…一人だけに抱く気持ちと複数人に抱く気持ち?」
「ドキドキが一人だけ?」
「いや、それ以外も…俺はサクラが大好きだけど、一緒にいる時ずっとドキドキしてるわけでもないよ。最近は特に落ち着くとか嬉しいとか、穏やかに愛しい」
穏やかなのは私も落ち着くけど。
ハルト様が近付いてきて、私の隣に座り直す。
そのまま緩く抱きしめられて、頭の上に顔がのった。
「こういうことも、ドキドキしない。ああ、愛しいなぁと思うし幸せだけど」
「ハルト様もドキドキしない?」
「慣れかな?前より愛しく感じるけれど」
ギュッと腕に力を入れられて、そのあと離れていく。
「サクラは召喚で混乱している時に俺が無理やり言いくるめたろう?ドキドキする間もなかったのかもしれない、…と思いたい」
ハルト様の顔が近付いてきて、うるうるな目で覗きこまれて、そのままキスされる。
「ねぇサクラ、口開けて?……気持ち悪かったら押し除けて」
唇が触れそうな距離でそう言われて、言葉と同時に吐かれた息が唇にかかって、ゾクッとした。




