[第一部]三つの正義 第9話:修一の正義③
「西岡さん、今よろしいですか?」
「どうしました?さっきの件ですか?」
「いえ。OBの河上さんってご存じですか?」
「うん、知ってるよ。私もお世話になったからね。」
西岡は、作業を一度中断し、ノートパソコンの画面を閉じ、こちらをむき直した。
「どんな方なんですか?」
「熱い人だね。企業再生をメインでやっていたよ。滝沢くんがやっている案件はもともと河上さんのコネクションで広がった仕事なんだ。もともと、うちの会社のパートナーで、詳しい内容は分からないけど、金融機関とケンカして、うちの社長ともケンカして、自分が信じる道を行くっていって、辞めてったね。」
「そうなんですか?」
「あの人はすごい人だと思うよ。サラリーマンとしては失格かもしれないけど、専門家としては、知識も志もすごい。私もよく”保身にはしるな!クライアントのために脳に汗をかけ!”って言われたな。辞めた後、何回かあったけど、相変わらずだったな。ただ、今は自分の正しい事ができてるって。」
企業再生の仕事は、河上が立ち上げたという事を初めて聞いた。てっきり、パートナーの上松が持ってきた仕事とばかり思っていた。ただ、昔の資料を見ても、河上という名前は見覚えがなかった。
「河上さんの診断資料ってあるんですか?」
「あると思うけど、上松さんが持っているんじゃないかな。上松さんが引き継いだときにもらっているとは思うよ。ただ、上松さんは河上さんのこと好きじゃないから、河上さんの話はしない方が良いと思うけどね。」
「分かりました。水上から聞いて、少し興味があっただけなので。」
「おっ、水上くん元気していた?」
西岡と少し雑談した後、自席に戻り、河上の話を考えていた。自分の正義を貫くために独立する、か。自分はどうなんだろうか。自分の正義を貫くために、リスクを背負って独立するつもりがあるのだろうか。組織の中でできる正義もあるのではないだろうか。などと考えていると、パートナーの上松から声をかけられた。
「滝沢。おまえ石岡信用金庫の出身だったな。」
「はい、そうです。それが何か?」
パートナーの上松は有名な外資系戦略ファームにいて、社長から引き抜かれた人物であったが、非常にドライな判断をする人であり、滝沢は苦手であった。
「日伸支店の支店長と知り合いでな。そこから、仕事の依頼を受けたのだが、おまえやるか?」
「仕事内容は、企業再生案件でしょうか?」
「そうだ。日伸市にある王立グループという会社のようだ。」