[第一部]三つの正義 第8話:修一の正義②
日本マネジメントセンターは、メガバンクなどの大きな金融機関ではなく、地銀や信金などの小さな金融機関からの依頼が多いため、対象となる顧客の規模も小さい企業が多かったが、今回の依頼は、今までの倍以上という事もあり、滝沢自身もテンションが上がっていた。ここで実績を作り、より大きい案件を獲得していき、事業部立ち上げるぞと思っていたところ、滝沢の携帯が鳴った。
「はい、滝沢です。」
「リバーフルの水上です。」
「水上さん?久しぶり、どうした?」
水上は、半年前まで日本マネジメントセンターにいて、滝沢と一緒に再生案件に関わっていた。当時関わっていた再生案件が最終的に金融機関の意向で、我々が描いていたプランの修正が余儀なくされた。こんなことしたって延命にいしかならないですよと彼女が怒りながら話していたのを今でも覚えている。金融機関の依頼を受けて仕事をしているのだから、ある程度、金融機関の意向に従わないとまとまるものも纏まらなくなると説得したのは滝沢だ。滝沢自身もふがいなさを感じていたが、仕方が無いことだと割り切っていた。自分の正義を通す為には組織のなかでは限界があって、それをやりたいなら独立するしかない伝えたときに、それなら私辞めますと水上は辞めてしまった。結局は、日本マネジメントセンターのOBであるリバーフル社に行ったと後日聞いた。
「どうしたじゃなくて、滝沢さんから着信があったので折り返したんですけど。」
「あ、そうだった。確か、水上さんはまだ事業再生の仕事しているんだよね?リバーフルで。」
「そうですよ。」
「こっちの人員が不足しているから、次の案件が来たら手伝ってもらうことはできないかな。」
「案件次第ですね。また金融機関の意向に引きずられるの嫌ですからね。」
滝沢は辞めてしまったが、水上の実力は買っていた。公認会計士で、会計にも強く、臆さない性格のため、現場にも入り込んで仕事をして、熱い心を持っていた。正直、今の部下よりも企業再生においては実力は上だった。人手不足ということだけでなく、また、是非とも一緒に仕事ができれば、それが顧客のためにもなると思っていた。
「もちろんだ。案件が来たら相談するよ。ちなみに、そっちの仕事はどうだ?」
「楽しいですよ。河上さんは色々なところから再生案件を持ってきてくれるけど、必ず、金融機関には”我々は企業の味方であって、金融機関の手先ではありませんよ”と言うので、こっちも、そのつもりで仕事ができてます。」
「そんなことを言っても仕事が来るのか?」
「一度しか仕事をくれない金融機関もありますよ。あとは、再生支援協議会などから声かけてもらってるみたい。」
再生支援協議会とは、中小企業の再生支援を行う機関で、相談が来たら、専門家を紹介する国のお助け機関だ。日本マネジメントセンターでもたまに依頼が来る。ただ、再生支援協議会の案件は金融機関が複数あり、調整が大変な案件が多い。
「再生支援協議会案件をやってるのか?かなり大変な仕事をやってるな。」
「でも、充実していますよ。河上さんの実力もすごいので、身近で見れる事もためになりますしね。」
「楽しくて何より。また連絡するよ。」
水上の覇気のある声を聞いて安心した一方、自分がそのような仕事を与えられなかったふがいなさも感じた。たしか河上さんって自分が入社する前に辞めた人だったよなと思い、西岡のところへ向かった。